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審査過程での文言解釈の基準に関する連邦巡回控訴裁判所(CAFC)判決

(IN RE: POWER INTEGRATIONS, INC. (Federal Circuit, March 19, 2018))

 2018年3月19日付で、連邦巡回控訴裁判所(以下CAFC)により、審査過程での文言解釈の基準に関する判決が出されましたのでご報告申し上げます。

判決の要点

 本判決においてCAFCは、審査官による新規性無しとの判断を維持した審判部の審決を取り消した。CAFCは、審判部によるクレーム解釈のやり方ではクレーム中の文言が全く無意味なものとなってしまうとして、「最も広い合理的な解釈」基準を不当に広く適用した審判部のやり方を否定した。

判決の内容:

1.背景

 Power Integrations, Inc.(以下“Power Integrations”)は、米国特許第6,249,876号(“876特許”)の特許権者である。876特許は、スイッチング電源のスイッチング周波数をランダムに変動させることにより電磁妨害ノイズを低減する技術を開示している。876特許の図1およびクレーム1を以下に示す。

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1. A digital frequency jittering circuit for varying the switching frequency of a power supply, comprising:
an oscillator for generating a signal having a switching frequency, the oscillator having a control input for varying the switching frequency;
a digital to analog converter coupled to the control input for varying the switching frequency; and a counter coupled to the output of the oscillator, the digital to analog converter coupled to the counter, the counter causing the digital to analog converter to adjust the control input and to vary the switching frequency of the power supply.

 2004年、Power Integrationsは876特許を侵害しているとしてFairchild Semiconductor International, Inc.(以下“Fairchild”)を訴えた。この訴訟において、地方裁判所は、クレーム1の “coupled”は、電圧、電流、または制御信号が一方から他方へと渡されるように2つの回路が接続されることを意味する、と判断した。地方裁判所はまた、クレームに記載されるカウンタとデジタル・アナログ変換器との間の結合(“coupling”)が制御のために存在しなければならないと判示した。

 上記の地方裁判所手続が係属している状態において、2006年に、USPTOはFairchildによる876特許の再審査請求を認めた。再審査において、審査官は、米国特許第4,638,417号(以下“Martin”)により新規性が否定されるとしてクレーム1を拒絶した。Martinでは、カウンタとデジタル・アナログ変換器との間に消去可能なプログラマブル読み出し専用メモリ(EPROM)が設けられている。Martinの図1を以下に示す。

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 審判部は、876特許のクレーム1に対する審査官の拒絶を維持するにあたり、地方裁判所によるクレーム解釈を採用しなかった。具体的には、“coupled”の限定について、役立つ情報がクレームや明細書の文言からは得られないとして、一般的な辞書に基づいて解釈し、2つの部品が同一の回路内に繋げられていることを意味しているにすぎないと判断した。また更に、クレーム1では、デジタル・アナログ変換器に制御入力を調整させスイッチング周波数を変化させる動作をカウンタ自体が行っている必要はない、と判断した。審判部は、クレーム1には、デジタル・アナログ変換器を駆動するためにカウンタとメモリとが協働する態様も含まれる、と結論付けた。即ち、メモリに格納されるデータに応じてスイッチング周波数が変化する場合であっても、カウンタがデジタル・アナログコンバータに制御入力を調整させていると言える、と判断した。

2.判決

 CAFCは、「最も広い合理的な解釈基準」は広い解釈を与えるが、クレーム全体の文言や明細書の記載を無視して、クレーム中の文言を解釈する自由な裁量が審判部に与えられるのではない、とまず注意喚起した。更に、クレーム解釈ではまず最初にクレームの文言を検討しなければならず、このクレーム1に記載の平明な文言によれば、コンバータに制御入力を調整させスイッチング周波数を変化させる動作をカウンタが行っていることが要件となる、との見解を示した。デジタル・アナログ変換器の出力がカウンタ自体からの信号ではなくメモリの格納データに基づいて変化する場合にも上記の要件が満たされることは、クレームの文言からは全く示唆されない、とCAFCは判断した。

 CAFCはまた、不必要な構成要素を無くしてよりコンパクトな回路を作成することが発明の狙いである旨の明細書中の記載に着目し、カウンタとデジタル・アナログ変換器との間に嵩張る書き込み済みメモリを設けることは、回路サイズを最小化するという876 特許の趣旨と一致しない、と判断した。更に、876特許に開示された全ての実施形態において、カウンタは電圧、電流、または制御信号をデジタル・アナログ変換器に供給していることに留意した。

 CAFCはまた、用語“coupled”に対する審判部の広い解釈の下では、同じ回路内のあらゆる要素はその回路内の他のすべての要素に接続されていることになり、互いに距離がどれだけ離れていても、互いの間に介在する要素がどれだけ存在しても、また直列接続であるか並列接続であるかに関わらず、互いに接続されていることになってしまう、との意見を示した。

 審判部の見解では、クレームの文言も明細書の記載もメモリの存在を否定していないため、メモリからのデータに基づいてスイッチング周波数が変化する回路を含むようにクレーム1を広く解釈することが可能である、とされていた。CAFCは、この見解を否定し、クレームの用語を最も広く合理的に解釈するにあたり正しい考え方は、クレームの文言に対する審査官の広い解釈が明細書により否定されるか否かではない、と述べた。寧ろ、適切なクレーム解釈のやり方は、発明者により明細書に記載された発明の内容に一致する意味をクレームの用語に割り当てることである、との見解を示した。

 以上に基づき、CAFCは、審査部によるクレーム解釈は不当に広く、明細書の開示内容の検討を不適切に省略したものであると判示し、新規性無しとした審査官によるクレーム1の拒絶を維持した審判部の審決を取り消した。

 本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。
本欄の担当
副所長 弁理士 吉田 千秋
米国オフィスIPUSA PLLC米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 有馬 佑輔
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