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特許適格性ガイダンスの改定及び機能的限定の審査ガイダンスに関して

 2019年1月7日に、特許適格性に関する審査手続きを改定するガイダンス及び、コンピュータで実現する機能的クレーム限定が特許法112条の要件を満たすか否かを判断するに際してのガイダンスが、米国特許商標庁によって公表されました。

1.特許適格性ガイダンス

 今回のガイダンスは、特許適格性を審査するための枠組みにおけるステップ2Aを改定することによって、司法例外として「抽象的概念」を適用する場合における明確性及び予測可能性を向上することを目的としている。
 改定版ガイダンスによれば、特許適格性に関する基準をクレームが満たすか否かを判断する際に、審査官は以下の分析を行う。

ステップ1:

 クレームに記載の発明が、米国特許法第101条に規定される特許適格発明、即ち、プロセス、機械、製造物、または物質の構成の何れかのカテゴリに該当するか否かを判断する。注1)

ステップ2A(第1段階):

 司法例外(抽象的概念、自然法則、又は自然現象)がクレームに記載されているか否かを判断する。クレームに司法例外が記載されていない場合、当該クレームは特許適格である。抽象的概念が記載されているか否かを判断する場合注2)、審査官は、(i)抽象的概念の記載に相当する限定を特定し、(ii)当該特定された限定が以下の抽象的概念の分類にあてはまるか否かを判断する注3)

a)数学的概念:数学的関係、数式又は方程式、数学的計算
b)人間活動を体系化するための特定の方法:基本的な経済原則又は慣行(ヘッジ、保険、リスク軽減を含む)、商業的又は法的取引(契約の形での約束、法的義務、広告、マーケティング又は販売の活動又は行動、取引関係を含む)、個人的な行動又は人間同士の関係やつき合いの管理(社会活動、教育、規則や指示に従うことを含む)
c)精神的活動:人間の思考として実行される概念(観察、評価、判断、見解を含む)注4)

ステップ2A(第2段階):

 クレーム全体として司法例外が実用的応用に組み込まれているか否かを判断する注5)。司法例外を実用的応用に組み込んでいるクレームとは、司法例外に意味のある制限を課すやり方で司法例外を適用し、根拠とし、又は使用することにより、司法例外の占有を意図したクレーム作成技術以上のものとなっているクレームである。司法例外がそのように組み込まれている場合、クレームは司法例外を対象としておらず、特許保護対象となる。具体的には、審査官は、(i)司法例外の枠外にある追加の要素がクレームに記載されているか否かを定め、(ii)最高裁判所及び連邦巡回裁判所が示した検討項目に基づいて、追加要素を個別に又は組み合わせとして判断することにより、追加要素により司法例外が実用的応用に組み込まれているか否かを決定する注6)。検討項目は例えば以下を含む:

a)追加要素が、コンピュータの機能の改善又は他の技術や技術分野での改善を反映している
b)追加要素が、疾病又は病状に対する特定の治療又は予防をもたらすように司法例外を適用又は使用している
c)追加要素が、クレームに不可欠な特定の機械又は製造物と共に司法例外を実施するか又は使用している
d)追加要素が、特定の対象を異なる状態又は物に変換している
e)追加要素が、司法例外の使用を特定の技術的環境に単に結び付けることを超えた意味のある方法で司法例外を適用または使用することにより、クレームが司法例外の占有を意図したクレーム作成技術以上のものとなっている

 改定版ガイダンスには、司法例外が実用的応用に組み込まれていない以下の例が示されている:

a)追加要素は、「適用する」という言葉(又は類似の言葉)を司法例外と共に単に記載したものにすぎない、又は抽象的概念をコンピュータ上で構成するための命令を単に含むものにすぎない、又は抽象的概念を実行するためのツールとしてコンピュータを単に使用するにすぎない
b)追加要素は、取るに足らない付属動作の解決手段への追加にすぎない
c)追加要素は、司法例外の使用を特定の技術的環境又は応用分野に単に結び付ける以上のことをしていない

ステップ2B:

 ステップ2Aでの判断でクレームが司法例外を対象としている場合、追加要素が発明的概念を含むか否かを判定するために(即ち追加要素が司法例外そのものを充分に超えたものであるか否かを判断するために)、追加要素を個別に且つ組み合わせとして判断する。追加要素が司法例外そのものを充分に越えたものである場合、クレームは特許適格と判断される。ステップ2Bにおける分析は、改定前のガイダンスにおける分析と実質的に同一である。司法例外を実用的応用に組み込んでいないとステップ2Aにおいて判断されたクレームであっても、ステップ2Bでの判断において特許適格となる可能性がある、と改定版ガイダンスでは説明している。注7)

注1)今回の改定特許適格性ガイダンスにおいて、ステップ1と単純分析(streamlined analysis)とは変更されていない(それらは米国特許審査便覧MPEPの2106.03及び2106.06に記載されている)。
注2)自然法則と自然現象とについての第1段階の分析は従前と同じである。
注3)改定前のガイダンスでは、審査官は、クレームに記載の概念を、過去の判決例において抽象的概念を対象とすると判断されたクレームと比較していた。改定版ガイダンスでは、判決例の件数が増加していると共に、類似の発明について異なる結果が示されているために、この従前のアプローチが実用的でなくなった、と説明している。
注4)ガイダンスでは、ここに列挙した抽象的概念の分類に入らないクレームの限定は、特殊な状況においてのみ、抽象的概念の記載であると判断されるべきである、と説明している。
注5)第2段階での分析は、司法例外が抽象的概念、自然法則、又は自然現象のいずれであるのかに関わらず、司法例外が記載された全てのクレームに適用される。
注6)改定版ガイダンスでは、改正版のステップ2Aにおいては追加要素が充分に理解され、型にはまった、従来の活動であるか否かについて検討せず、審査官は、抽象概念が実用的応用に組み込まれているか否かを審査するにあたり、全ての追加要素をそれが従来のものであるか否かに関わらず考慮すべきである、と説明している。
注7)例えば、数式及びその式に必要な入力を収集する一連のデータ収集動作等の抽象的なアイデアを記載しているクレームを審査する場合、審査官は、改訂版ステップ2Aにおいてデータ収集動作が解決手段の取るに足らない付属動作であると見なし、司法例外が実用的応用に組み込まれていないと判断する場合がある。しかしながらその場合であっても、ステップ2Bでデータ収集動作を再検討するとき、審査官は、複数の動作の組み合わせが通常とは異なる方法でデータを収集しており特許適格となるような発明的概念を含む、とステップ2Bにおいて判断することが有り得る。

2.コンピュータにより実現される機能的限定の審査に関するガイダンス

今回のガイダンスでは、過去10年間に公表された幾つかの裁判所の判決をレビューし、以下の原則を確認している:

1.用語“means”を使用していないクレーム限定に対しては、特許法第112条(f)が適用されないという推定が生じる。
2.クレーム限定が十分に明確な構造を示していない場合、又は機能を実行するための十分な構造を示すことなく当該機能を記載してある場合、上記推定は覆される。この場合、“means”を使用する代わりに、クレーム記載の機能を実行するための十分に明確な構造であると当業者が認識しないような用語が、“means”の代わりの一般的代用語として用いられる。
3.特許法第112条(f)の適用対象となる非構造的な一般的代用語としては例えば“Mechanism for,” “module for,” “device for,” “unit for,” “component for,” “element for,” “member for,” “apparatus for,” “machine for,” “system for”が挙げられる。
4.特許法第112条(f)の適用を受けるクレーム限定についての最も広い合理的な解釈は、 クレーム記載の機能全体を実行するものとして明細書に記載されている構造、材料、又は行為、及びそれら構造、材料、又は行為の等価物である。
5.コンピューターで実現された特許法第112条(f)のクレーム限定については、クレームに記載される特定のコンピュータ機能を実行するためのアルゴリズムが、明細書に開示されている必要がある。開示の無い場合にクレームは特許法第112条(b)の下で不明確となる。この特定のコンピュータ機能を実行するための対応する構造は、単なる汎用コンピュータではなく、開示されたアルゴリズムを実行するようにプログラムされた特定用途のコンピュータである。
6.アルゴリズムは、例えば、「論理的又は数学的問題を解決するための、又はタスクを実行するための有限の一連のステップ」として定義される。アルゴリズムは、充分な構造を示す数式、文章、フローチャート、又は他の任意の方法を含む理解可能な用語で表現できる。
7.汎用コンピュータを特殊用途コンピュータに変換してクレーム記載の機能を実行するソフトウェアは当業者であれば作成できると主張しても、アルゴリズム開示要件を回避することはできない。
8.ミーンズプラスファンクション限定により実行される複数の特定可能な機能のうち1つだけを実現するアルゴリズムが明細書に開示されている場合、当該明細書はアルゴリズムを開示していないと見なされる。

本欄の担当
副所長 弁理士 吉田 千秋
米国オフィスIPUSA PLLC米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 有馬 佑輔
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