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プリアンブルの記載に関する連邦巡回控訴裁判所(CAFC)判決

(Georgetown Rail Equipment Company v. Holland L.P. (Federal Circuit, August 1, 2017))

2017年8月1日付で、連邦巡回控訴裁判所(以下CAFC)により、プリアンブルの記載に関する判決が出されました。

判決の要点

この判決においては、特許権の侵害が成立するために製品に存在しなければならない実質的な限定として、クレームのプリアンブルの記載が解釈されるべきか否かが論点となりました。本判決において、CAFCは、問題となったプリアンプルの記載は発明の主要な用途を説明するものであり、構造上の限定には該当しないと判示しました。

判決の内容

1.背景

Georgetownレール機器カンパニー(以下「Georgetown」)は米国特許第7,616,329号(以下「329特許」)を有している。329特許は、鉄道線路のレールを木製の枕木に接続する鉄製のプレートである接続プレートを検査するためのシステムおよび方法に関する。下の図は、接続プレート(14)によりレール(12)が枕木(10)に固定される様子を示している。

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接続プレートが木製の枕木に食い込み、沈み込むと、鉄道の運用に支障をきたす可能性がある。
329特許は、整列不良の接続プレートの検査を自動化することによって従来技術を改善するものである。以下に329特許のクレーム16の一部を示す。

A system for inspecting a railroad track bed, including the railroad track, to be mounted on a vehicle for movement along the railroad track, the system comprising:

at least one light generator positioned adjacent the railroad track for projecting a beam of light across the railroad track bed;  at least one light generator positioned adjacent the railroad track for projecting a beam of light across the railroad track bed;at least one optical receiver positioned adjacent the railroad track for receiving at least a portion of the light reflected from the railroad track bed and generating a plurality of images representative of the profile of at least a portion of the railroad track bed;and at least one processor for analyzing the plurality of images and determining one or more physical characteristics of the said portion of the railroad track bed, ….

Holland L.P.(以下「Holland」)の線路検査車両には光源および光受信機が搭載されていた。データは線路検査車両のハードディスクに収集されてから、その後遠隔地に送られて、検査対象接続プレートの食い込みおよび整列不良の度合が解析される。Georgetownは、Hollandが329特許のクレーム16を侵害しているとして2013年に訴訟を提起した。2015年に地裁の陪審はHollandが329特許を侵害していると判断した。
CAFCへの上訴におけるHollandの主張は、プリアンブルに記載される“mounted on a vehicle for movement along the railroad track”は、クレーム本文中の画像解析プロセッサが車両に搭載されていることを要求する実質的限定として解釈されるべきである、という主張であった。この主張が受け入れられた場合、Hollandのシステムにおいて画像を解析するのは車両に搭載されていない車両外プロセッサであるため、クレーム16を侵害していないとHollandは主張できる。

2.判決

CAFCは、検討の出発点として、前例に基づく幾つかの法的基準を示した。CAFCは、特許を全体的に検討し、発明者が現実に発明し且つクレームに含めようと意図した内容を理解することによってのみ、プリアンブルを限定として扱うかどうかを決定できると指摘した。CAFCは更に、プリアンブルは一般にクレームを限定するものではないが、以下の場合にプリアンブルが限定となり得ることを指摘した:(1)必須の構造またはステップがプリアンブルに記載されている、(2)問題となっているプリアンブルの文言をクレームが前提としている、(3)クレーム本文における限定や用語を理解するためにプリアンブルが不可欠である、(4)明細書中で重要であると強調された付加的な構造またはステップがプリアンブルに記載されている、(5)従来技術からクレーム発明を差別化するために審査過程においてプリアンブルに明示的に頼った。CAFCは更に、クレームの本文が構造的に完全に発明を規定し、発明の目的または用途を述べるためにのみプリアンブルが用いられている場合、プリアンブルはクレーム限定ではないと指摘した。
次にCAFCは、Georgetownがクレームに記載の製品と構造的に同一であるが車両外設置で解析を行う技術を権利範囲外とするよう意図していたことを示すような記載や示唆は明細書や審査経過には存在しない、と判断した。CAFCはまた、線路接続の整列不良に関するデータを収集し処理するために必要な要素である「光源」、「光受信機」、および「プロセッサ」からなる閉じたシステムを記述しているクレーム16は、構造的に完全に発明を規定していると判断した。さらに、CAFCは、検査システムが“can be mounted on an inspection vehicle . . . or other device moving along the track so as to maintain the inspection system . . . in the proper position(検査車両に搭載されてもよいし、検査システムを適切な位置に保持するように線路に沿って移動する他の装置に搭載されてもよい)”と明細書に記載されていることに着目した。CAFCは、明細書が動詞「can be」を使用し且つ車両取り付けではない追加の選択肢を示していることから、車両への搭載は必要要件ではなく選択事項である、と結論付けた。
以上に基づいてCAFCは、“mounted on a vehicle for movement along the railroad track”は発明の主要な用途を説明する記載であり、構造上の限定ではないと判示し、地裁の陪審による侵害認定を支持した。

本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。

以上

本欄の担当
副所長 弁理士 吉田 千秋
米国オフィス IPUSA PLLC 米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 有馬 佑輔
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