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日本の判決速報・概要

平成18年(行ケ)第10555号審決取消請求事件

指定商品を「懐中電灯」とし、懐中電灯の形状を普通に用いられる方法で表示した標章のみからなる商標出願(立体商標)について、使用による商品識別機能(商標法3条2項)を認定して、これを否定した審決を取り消した事例。

■平成18年(行ケ)第10555号審決取消請求事件 ■知財高裁第3部 平成19年6月27日判決(確定)
(参照条文)商標法3条1項3号 3条2項 15条1号

1.手続の経緯

 米国のマグ・インスツルメント・インコーポレーテッド(商標登録出願人・原告)は、後掲「商標目録」のとおりの標章(原告の製造・販売に係る懐中電灯「マグライトシリーズ」のうちの、 「ミニマグライトAA」と「ミニマグライトAAA」が共通して有する形状)からなる商標について、指定商品を第11類「懐中電灯」として、2001年1月19日に立体商標の登録出願(商願2001-3358号)をしたが、拒絶査定され、 さらに、拒絶査定不服審判(不服2003-2070号)においても審判請求不成立の審決がなされた。
  本件は、その審決取消請求事件の判決である。

2.本判決の認定・判断

(1) 商標法3条1項3号該当性

 商品等の形状は、多くの場合、商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり、商品等の美観をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって、商品・役務の出所を表示し、自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。このように、商品等の製造者、供給者の観点からすれば、商品等の形状は、多くの場合、それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの、すなわち、商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。 また、商品等の形状を見る需要者の観点からしても、商品の形状は、文字、図形、記号等により平面的に表示される標章とは異なり、商品の機能や美観を際だたせるために選択されたものと認識し、出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。
  そうすると、商品の形状は、多くの場合に、商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されるものであり、そのような目的のために採用されると認められる形状は、特段の事情のない限り、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、同号に該当すると解するのが相当である。
  (商品等の)機能又は美観上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれが、当該形状が特徴を有していたとしても、商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状として、同号に該当するものというべきである。けだし、商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は、同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから、先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定に者に独占させることは、公益上の観点から適切でないからである。 さらに、需要者において予測し得ないような斬新な形状の商品等であったとしても、当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには、商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば、商標法3条1項3号に該当するというべきである。 けだし、商品等が同種の商品等に見られない独特の形状を有する場合に、商品等の機能の観点からは発明ないし考案として、商品等の美観の観点からは意匠として、それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば、その限りにおいて独占権が付与されることがあり得るが、これらの法の保護の対象になり得る形状について、商標権で保護を与えることは、商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有する点を踏まえると、商品等の形状について、特許法、意匠法などによる権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり、自由競争の不当な制限に当たり公益に反するからである。
  (本件商標の形状についていえば)、ライト頭部がやや大きめである点は光度の大きさに関連し、放物体部分のフェイスキャップと接する部分の溝模様は光度の調整のしやすさに、胴体部の中央部分における溝模様は握り易さにそれぞれ資するものであり、また、テールキャップ底部に設けられた1つの穴はストラップ等を取り付けるためのものである。 そして、ライト頭部から胴体にかけての全体としてのすらっとした輪郭は美観を与えるために採用されたものということができる。これらによれば、上記の各特徴は、いずれも商品等の機能又は美観に資することを目的とするものというべきであり、需要者において予測可能な範囲の、懐中電灯についての特徴であるといえる。 そうすると、本願商標の形状は、いまだ懐中電灯の基本的な機能、美観を発揮させるために必要な形状の範囲内であって、懐中電灯の機能性と美観を兼ね備えたものと評価することができるものの、これを初めて見た需要者において当該形状をもって商品の出所を表示する標識と認識し得るものとはいえない。

(2) 商標法3条2項該当性

(a) 立体商標における使用による識別力の獲得
 商品等の立体形状よりなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは、当該商標ないし商品の形状、使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣伝のされた期間・地域及び規模、当該形状に類似した他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。 そして、使用に係る商標ないし商品等の形状は、原則として、出願に係る商標と実質的に同一であり、指定商品に属する商品であることを要する。 もっとも商品等は、その販売等に当たって、その出所たる企業等の名称や記号・文字等からなる標章などが付されるのが通常であることに照らせば、使用に係る立体形状に、これらが付されていたという事情のみによって直ちに使用による識別力の獲得を否定することは適切ではなく、使用に係る商標ないし商品等の形状に付されていた名称・標章について、その外観、大きさ、付されていた位置、周知・著名性の程度等の点を考慮し、当該名称・標章が付されていたとしてもなお、立体形状が需要者の目につき易く、強い印象を与えるものであったか等を勘案した上で、立体形状が独立して自他商品識別機能を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。

(b) 本願商標の商標法3条2項該当性
 上記((a)で指摘した事項についての詳細な事実認定)に上げた点に照らせば、本件商品については、昭和59年(国内では昭和61年)に発売が開始されて以来、一貫して同一の形状を維持しており、長期間にわたって、そのデザインの優秀性を強調する大規模な広告宣伝を行い、多数の商品が販売された結果、需要者において商品の形状を他社製品と区別する指標として認識するに至ったものと認めるのが相当である。
  本商品に「MINI MAGLITE」及び「MAG INSTRUMENT」の英文字が付されていることは、本件商品に当該英文字が付されている前記認定の態様に照らせば、本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認める上での妨げとなるものとはいえない(なお、本願商標に係る形状が、商品等の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標といえないことはいうまでもない。)。

3.解説

(1) 本判決は、商標法3条1項3号に該当する「形状が普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(立体商標)」の登録出願について、「使用による自他商品識別力」の獲得を認定して、同条2項に基づき商標登録を認めるべきとした、我が国ではじめての判決であり、各種マスコミでも大きく取り上げられ、注目された判決である。
  婦人用バッグの部品である「留め金」に係る立体商標の登録出願についての審決取消請求事件では、文字商標「Ferragamo」が付されて販売されていたこともあって、「需要者は、・・・形状のみを見て出所を識別し、購入すると認められない。」と判断された(東京高判平成14年7月18日)。

(2) 商標法3条1項3号該当性について、審決は、審査基準(41.100.02)、「立体商標の識別力の審査に関する運用について」)に則した判断をしており、本判決もこれを是認したものであるが、立体商標にあっては、これに接した需要者において、指定商品等の形状そのものの範囲を出ないと認識するにすぎない形状のみからなる立体商標は識別力を有しないものとされ、たとえ、立体的形状に特徴的な変更、装飾等が施されたものであっても、全体として指定商品等の形状を表示してなるものと認識されるに止まる限りそのような立体商標は識別力を有しないものとされる。
  優秀なデザイン性や特徴的な形状を主張したとしても、全体として指定商品等の形状を表示してなるものと認識されるに止まる限り、商標法3条1項3号をクリアーすることは難しいが、商品の特徴的な形状や注目されるようなデザインであることは、需要者に強い印象を与える点で、同条2項の「使用による自他商品識別力」を獲得するための大きな要因となることは本判決の指摘しているとおりである。

(3)商標法3条2項該当性

 使用による自他商品識別力の獲得を認めるか否かは、事実認定の問題であるが、この問題は、商品の形態そのものが、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示として需要者の間に広く認識されているもの」といえる否かの認定と共通するので、本判決のこの点についての事実認定の手法は、不正競争防止法2条1項1号の「商品表示等」としての周知性の認定事案においても参考となる。
  本判決は、本件商品である「懐中電灯」について、輸入販売開始の時期、総代理店を通じての販売方法、宣伝広告などによる販売実績の拡大経過のほか、デザイン性が高く評価されて種々のデザイン章を受賞し、我が国においても、グッド・デザイン賞品に選定され、商品の堅牢性、耐久性と並んでデザイン性が評価され関心を集めていたこと、類似商品の販売業者に対する不正競争防止法2条1項1号に基づく販売差止請求訴訟において、販売の差止め及び損害賠償を内容とした和解や判決がなされていること、その他「MAG INSTRUMENT」等の商標表示が目立たないものであること、類似の特徴を有する形状をもつ他商品がなかったことなどを詳細に認定している。 「普通に用いられる方法で表示する標章」のみからなる商標であっても、相当長期間にわたる使用、または短期間でも強力な広告、宣伝等による使用の結果、同種の商品等の形状から区別し得る程度に周知となり、需要者が何人かの業務に係る商品等であることを認識することができるに至った立体商標は、識別力を有するものと認められるとしても、通常の販売形態では、出願に係る商標を構成する標章、つまり形状そのものと別のその他の出所表示機能をもつ表示が付されているから、商品の形態自体が自他商品識別力を獲得したと認められる例は極めて稀である。 本願商標では、デザインの素晴らしさや特徴的な形態であることに加えて、商品に付されていた「MAG INSTRUMENT」等の商標表示の使われ方の違いが、先のフェラガモ事件とは異なった結論を導いたものであろう。

4.商標目録

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