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「特許権紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」を公布―中国最高裁判所―

 2009年12月28日、中国最高裁判所は「特許権紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」を公布した。 同解釈は2010年1月1日より施行された。
 この司法解釈は、現在の特許権紛争事件の審理における主な法律の適用の問題に関するもので、発明、実用新案の特許権の保護範囲の確定及び特許権侵害の判断の原則、意匠権侵害の判断の原則、公知技術の抗弁及び先使用権の抗弁の適用、非侵害確認訴訟の受理等に関する内容を含んでいる。
 この司法解釈は、2009年1月から、一部高級裁判所から構成された研究チームにより検討作業が開始され、審判実践における問題及び新しい情況に対する調査研究、草案の作成、公衆からの意見聴取、中央関連部門及び各高級裁判所からの意見聴取、修正、最高裁判委員会の審議を経て、2009年12月28日に、中国最高裁判所より公布されたものである。

 この司法解釈は以下の原則に従っている。

 一.法律に基づく解釈の原則
 司法解釈の機能定位に立脚し、特許法及び民事訴訟法などの法律に基づいて解釈を行う。
 二.利益平衡の原則
 国家戦略の要求を元に、創新成果と創新権益を保護し、企業の自主的創新能力を促進させ、科学技術の創新と経済発展を激励する。一方、特許請求項の解釈を厳密にし、特許権保護範囲を適切に確定し、請求項の公開性と境界性を重視すると共に、特許権保護範囲の不適切な拡大、創新空間の圧縮、創新能力と公共利益を損害する行為を防止する。
 三.指向性と操作可能性の原則
 特許裁判実践における基礎性、一般性を持つ法律適用問題を結合し、数年間の裁判経験を纏めて明確する。一方、未だ一般認識となっていない問題に対して、一時規定しないことにし、裁判実践において統一的な裁判根拠を提供する。

 その具体的内容は以下の通りである。

 特許権紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する最高裁判所の解釈 (解釈(2009)21号)2009年12月28日 

 特許権紛争事件を適切に審理するため、「中国特許法」、「中国民事訴訟法」などの法規に基づくと共に、裁判実践を結合して本解釈を制定する。

第1条
 裁判所は、権利者が主張する請求項に基づき、特許法第59条第1項の規定に照らして特許権の権利範囲を特定するものとする。権利者が、第一審の法廷弁論が終了する前に、その主張する請求項を変更する場合、裁判所はその変更を認めるものとする。
 権利者が、従属請求項に基づいて特許権の保護範囲を特定すると主張する場合、裁判所は、その従属請求項に記載された付加要件及びその従属する請求項に記載された構成要件に基づいて、特許権の権利範囲を特定するものとする。

第2条
 裁判所は、請求項の記載に基づき、明細書及び図面を読んだ当業者の請求項に対する理解を参酌して、特許法第59条第1項にいう請求項の内容を特定するものとする。

第3条
 裁判所は、明細書、図面、特許請求の範囲に記載された係る請求項及び特許審査書類を用いて、請求項を解釈することができる。明細書に請求項の用語について特別な定義がある場合、その特別な定義に従う。
 上述の方法によっても請求項の意味を明確にすることができない場合、辞書、教科書などの公知文献及び当業者の通常の理解を参酌して解釈することができる。

第4条
 請求項において機能又は効果により表現された構成要件に対して、裁判所は、明細書及び図面に記載された当該構成要件の実施形態及びその均等形態を参酌して、当該構成要件の内容を特定するものとする。

第5条
 特許請求の範囲に記載されておらず、明細書又は図面にのみ記載された技術案について、権利者が特許権侵害訴訟においてその技術案が特許権の保護範囲に含まれていると主張する場合、裁判所はその主張を認めない。

第6条
 特許の権利化又は無効審判の手続において、請求項及び明細書に対する補正又は意見書を通じて特許出願人又は特許権者により放棄された技術案について、権利者が特許権侵害訴訟においてその技術案が特許権の保護範囲に含まれていると主張する場合、裁判所はその主張を認めない。

第7条
 裁判所は、侵害被疑物件が特許権の保護範囲に属すか否かを判断するとき、権利者が主張する請求項に記載された全ての構成要件を考察するものとする。
 侵害被疑物件が、請求項に記載された全ての構成要件と同一又は均等なものを含む場合、裁判所はそれが特許権の保護範囲に属すと認定するものとする。侵害被疑物件の構成要件と請求項に記載された全ての構成要件とを比較して、請求項に記載の構成要件の一つ以上が欠如するか、又は一つ以上の構成要件が同一でも均等でもない場合、裁判所は当該侵害被疑物件が特許権の保護範囲に属さないと認定するものとする。

第8条
 意匠特許に係る製品と同一又は類似製品に、登録意匠と同一又は類似の意匠が施された場合、裁判所は、侵害被疑意匠が特許法第59条第2項にいう意匠特許権の保護範囲に属すと認定するものとする。

第9条
 裁判所は、意匠に係る製品の用途に基づいて、製品の種類が同一又は類似するか否かを判断するものとする。製品の用途について、意匠の簡単な説明文、国際意匠分類、製品の機能及び製品の販売、使用の実情を参酌して判断することができる。

第10条
 裁判所は、意匠特許に係る製品の一般消費者の知識レベル及び認知能力により、意匠の類否判断を行うものとする。

第11条
 裁判所は、意匠の類否判断を行うとき、登録意匠、侵害被疑意匠の創作の特徴に基づき、意匠の全体の視覚的効果から総合的に判断するものとする。主に技術的機能により決定される創作の特徴、製品の材料および内部構造などのような、全体の視覚的効果に影響を及ぼさないものは、考慮しないものとする。
 通常、
 (1)製品の通常使用時に直接観察されやすい箇所は、その他の箇所に対して、
 (2)公知意匠との相違点となる登録意匠における創作特徴は、登録意匠におけるその他の創作特徴に対して、
 意匠の全体の視覚的効果に対してより影響がある。
 侵害被疑意匠と登録意匠との全体の視覚的効果に相違がない場合、裁判所は両者が同一であると認定するものとする。全体の視覚的効果に実質的相違がない場合、両者が類似すると認定するものとする。

第12条
 発明又は実用新案特許権を侵害した製品を部品として別の製品を製造する行為に対して、裁判所は、特許法第11条にいう「使用」に該当すると認定するものとする。当該別の製品を販売する行為に対して、裁判所は、特許法第11条にいう「販売」に該当すると認定するものとする。
 意匠特許権を侵害した製品を部品として別の製品を製造かつ販売する行為に対して、裁判所は、特許法第11条にいう「販売」に該当すると認定するものとする。但し、意匠特許権を侵害した製品が、当該別の製品において技術的機能しか有さない場合は除く。
 第1項と第2項にいう行為を侵害被疑者が分担協力して行った場合、裁判所は、共同侵害と認定するものとする。

第13条
 特許方法により得られた最初の製品に対して、裁判所は、特許法第11条にいう「特許方法により直接得られた製品」に該当すると認定するものとする。
 当該最初の製品をさらに加工、処理して後続製品を得る行為に対して、裁判所は、特許法第11条にいう「特許方法により直接得られた製品の使用」に該当すると認定するものとする。

第14条
 特許権の保護範囲に属すと訴えられた全ての構成要件が、一件の公知技術の対応構成要件とそれぞれ同一、又は実質的な相違がない場合、裁判所は、侵害被疑者が実施した技術は、特許法第62条にいう「公知技術」に該当すると認定するものとする。
 侵該被疑意匠が、一件の公知意匠と同一、又は実質的な相違がない場合、裁判所は、侵害被疑者が実施した意匠は、特許法第62条にいう「公知意匠」に該当すると認定するものとする。

第15条
 侵害被疑者が不法入手した技術又は意匠を持って先使用権の抗弁を行う場合、裁判所は、その抗弁を認めない。
 次の各号の一つに該当するとき、裁判所は、特許法第69条第(2)号にいう製造、使用のために必要な準備をした場合に該当すると認定するものとする。
 (1)発明創造を実施するために必要な主な技術図面又は技術資料を完成させた場合。
 (2)発明創造を実施するために必要な主な設備又は原材料を製造又は購入した場合。
 特許法第69条第(2)号にいう「従前の範囲」には、特許出願日以前に既にある生産規模と、既にある生産設備を利用して又は既にある生産設備に基づいて達成できる生産規模とが含まれている。
 先使用権者が特許出願日以降に、その実施中の若しくは実施のために必要な準備をした技術又は意匠を他人に譲渡若しくは実施承諾をし、侵害被疑者は、当該実施行為が、従前の範囲内の継続実施に該当すると主張する場合、裁判所はその主張を認めない。但し、当該技術又は意匠が元の企業と共に譲渡若しくは相続された場合は除く。

第16条
 裁判所は、特許法第65条第1項の規定に基づいて、侵害者の侵害により得た利益を算定するとき、侵害者の特許権侵害行為による利益に限るものとし、その他の権利による利益は合理的に除くものとする。
 発明、実用新案特許権を侵害した製品が、別の製品の部品である場合、裁判所は、当該部品自体の価値及び完成品の利潤の実現におけるその役割等に基づいて、賠償額を合理的に算定するものとする。
 意匠特許権を侵害した製品が包装物である場合、裁判所は、包装物自体の価値及び包装された製品の利潤の実現におけるその役割等に基づいて、賠償額を合理的に算定するものとする。

第17条
 製品又は製品の製造技術が、特許出願日以前に国内外で公然知られたものである場合、裁判所は当該製品が特許法第61条第1項にいう新製品に該当しないと認定するものとする。

第18条
 権利者が他人に特許権侵害の警告を出し、被警告者又は利害関係者が書面で権利者に訴権を行使するよう催告したが、権利者が当該催告を受取った日から一ヶ月以内、又は当該催告が出された日から二ヶ月以内に、警告を取り下げず、かつ訴訟も提起しない場合、裁判所は、被警告者又は利害関係者より提起された非侵害確認訴訟を受理するものとする。

第19条
 特許権侵害被疑行為が、2009年10月1日以前に発生したものである場合、裁判所は改正前の特許法を適用し、2009年10月1日以降に発生したものである場合、裁判所は改正後の特許法を適用する。
 特許権侵害被疑行為が、2009年10月1日以前に発生し、かつ2009年10月1日以降に継続したものであり、特許法改正前と改正後の何れの規定に照らしても侵害者が賠償責任を負うべきである場合、裁判所は、改正後の特許法を適用して賠償額を算定する。

第20条
 本裁判所が発表した関連司法解釈に、本解釈と不一致がある場合、本解釈を基準とする。

以上

本欄の担当
中国弁理士 金 玉蘭
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