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ビジネス方法の特許適格性をめぐるビルスキ事件 6月28日米国連邦最高裁判決

 装置の限定を含まない変動相場リスク回避方法クレーム(米国特許出願番号08/833,892)についての特許適格性に関して争われていたビルスキ事件(Bilski v. Kappos)について、2010年6月28日、米国最高裁判所において判決が下されました。

1.ビルスキ事件の最高裁判決の概要:
 米国最高裁判所は、当該クレームは抽象的アイディア(abstract idea)に該当するとして、特許適格性の基準を満足しないと判断しました。しかし、その中で米国最高裁判所は、CAFC(連邦巡回控訴裁判所)の下した判決の基準となった「機械又は変換テスト」(machine-or-transformation test)は依然として、方法クレームの特許適格性の判断に際し有効なテストであると支持しつつも、方法クレームの特許適格性の唯一のテストではないと明らかにしました。

2.本件の背景:
 出願人Bilskiらの、本件のクレーム1は以下の通りです。
 A method for managing the consumption risk costs of a commodity sold by a commodity provider at a fixed price comprising the steps of:

(a) initiating a series of transactions between said commodity provider and consumers of said commodity wherein said consumers purchase said commodity at a fixed rate based upon historical averages, said fixed rate corresponding to a risk position of said consumer;
(b) identifying market participants for said commodity having a counter-risk position to said consumers; and
(c) initiating a series of transactions between said commodity provider and said market participants at a second fixed rate such that said series of market participant transactions balances the risk position of said series of consumer transactions.

 本件クレーム1は変動相場リスク回避方法に関するクレームであり、この他のクレームもクレーム1と同様の方法クレームです。

 審査官は、当該出願に関する発明は、”technological art test”により判断すれば米国特許法101条の特許適格性を有さないとして全請求項を拒絶しました。また、審判部は、過去の判例は”technological art test”に基づいて結論を出していないことを理由に、審査官の過ちを指摘しながらも、「有用、具体的、且つ有形の結果(”useful, concrete and tangible result”)」を有さない等を理由として、拒絶を維持する審決を下しました。これを不服として、Bilskiらは、本件ビジネス方法の特許適格性に関し、CAFCに控訴しました。

 CAFCは審判部の審決を維持する判決を下しました。CAFCは米国最高裁のDiamond v. Diehrを参照し、米国特許法101条に基づき、方法クレームの特許適格性はi)特定の機械又は装置に関連付けられていること、ii)又はその方法により何らかの対象物を異なる状態或いは異なるものに変換することを満たさなければいけないとのテストを採用しました。
 CAFCは、出願人が、本件クレーム1が上記i) の条件を満たしていないと認めたことから、この条件については議論しませんでした。
 上記ii)の条件に関して、CAFCは公的或いは、私的な法的義務、関係、ビジネスリスクや、その他の抽象概念等に関する意図的な変換や操作は、対象物が物理的対象物でないために、出願人らの方法は上記ii)のテストも満足しないと判断しました。

3.最高裁判決の内容:
 最高裁は、本件クレームは抽象概念に該当するとして、特許適格性を有さないとの判決を下しました。また、「機械又は変換テスト」及びビジネス方法について見解を示しています。

(1)機械又は変換テストについて
 最高裁は、CAFCが上記の「機械又は変換テスト」を唯一のテストとして採用したことは、法解釈の原則(法の文言に無い追加の解釈を加えることを禁じる原則)に反していると判断しました。更に、最高裁は「機械又は変換テスト」が唯一のテストである旨を、未だかつて最高裁は一度も認めたことが無いとして、このCAFCの見解を退けました。
(2)ビジネス方法について
 ビジネス方法の特許適格性を判断する上で、最高裁は米国特許法273(b)(1)を参照し、同条文は、”an alleged infringer can assert a defense of prior use to avoid liability for infringement”と示していることから、最高裁は、この条文は少なくとも何らかのビジネス方法は特許適格性を有することを合衆国議会が支持していることを裏付けていると示しました。
(3)特許適格性について
 最高裁はBilskiらのクレームは抽象概念に該当するとして特許適格性を有さないとの判断を示しました。最高裁は、先例としてGottschalk v. Benson, 409 U.S. 63 (1972), Parker v. Flook, 437 U.S. 584 (1978) and Diamond v. Diehr, 50 U.S. 175 (1981).を採用して本件の判断を下すと共に、特許適格性のある「プロセス」が何であるのかを定義したり、特定の技術の特許適格性についてコメントするのを避け、断定的な判決による、広い分野に渡る未知の影響を避けました。
 Benson事件では、最高裁は2進コード化数字を純2進コード化数字に変換するアルゴリズムに関する特許出願は、アルゴリズムは方法ではなく抽象概念であるとの理由から、特許適格性を有さないとの判決を下しました。
 Flook事件では、最高裁は、触媒変換プロセス中のモニタリングに関して、アルゴリズムを単に特定の技術に限定すること、また重要でない付加的な動作を加えることによってのみでは、抽象概念に特許適格性を持たせることは出来ないとの判決を下しました。
 Diehr事件では、最高裁はBenson事件、Flook事件で示された原則に限定を加えました。この中で、抽象概念、自然法則、数式は特許適格性を有さないが、それらの自然法則、数式を既存の構造物、方法に対して応用すれば、特許適格性を有する可能性もあるとの示唆をしました。
 本件のBilskiらの特許出願に関して、最高裁は上記の3つの先例を用いて、本件クレームに記載され、数式化されたリスク回避の概念はBenson事件やFlook事件のアルゴリズムと同様の抽象的概念であり、特許適格性を有さないとの判断をしました。

本件判決文は以下のサイトから入手可能です。
本欄の担当
米国オフィス IPUSA 特許弁護士 Martin Weeks
パテントエージェント 有馬 佑輔
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