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意匠権の損害賠償額算定に関する米国最高裁判決

(Samsung Electronics Co. Ltd. v. Apple Inc.(Supreme Court, December 6, 2016))

 2016年12月6日付で、米国最高裁判所により、意匠権の損害賠償額算定に関する判決が出されましたのでご報告申し上げます。

判決の要点

 意匠権侵害の損害額算定に関わるこの判決で、合衆国最高裁判所(以下、最高裁)は、複数の構成要素から成る製品の場合、算定対象となる「製造物」(”article of manufacture”)は、当該製品の1つの構成要素であり得るとの判断を示した。「製造物」が消費者に販売された最終的な完成品に限定されるべきではないとの判断である。

判決の内容

 米国特許法289条は、(権利化された)意匠又はその彩色した模倣に係る製造物を製造又は販売する者は誰であれ、その総利益の範囲で、権利者に対し賠償責任を負うことを規定している。本案審理の後、陪審では、サムソンエレクトロニクス社(以下、サムソン)が製造したスマートフォンはアップル社(以下、アップル)が所有する意匠権を侵害していると判断された。本件の意匠は、角を丸めた長方形の前面と、黒い画面上に格子状に配したカラフルなアイコンを権利対象とするものである。アップルには3億9900万ドルの損害賠償が認められていた。これはサムソンが侵害に係るスマートフォンの販売から得た総利益に相当する。

 控訴審で連邦巡回控訴裁判所(以下、CAFC)は、損害賠償に関する下級審の判決を支持し、スマートフォンの全体のみが289条の損害賠償金の算定に係る「製造物」(”article of manufacture”)として認められるとした。消費者がスマートフォンの構成要素を個別に購入することはできないからである。

 この判決に対してサムソンは最高裁に控訴し、損害額はスマートフォン全体に帰因する利益に基づくのではなく、侵害意匠に係るスマートフォンの前面又は画面に帰因する利益に限定されるべきであると主張した。最高裁はこれに同意し、製品の構成要素は人手あるいは機械によって作られるものであることを指摘した上で、より大きい製品に構成要素を組み込むことにより当該構成要素が「製造物」の定義から除外されることにはならない、と判断した。「製造物」を広くとらえ、消費者に対して販売される製品の1つの構成要素も含まれると判断したのである。

 最高裁はまた、米国特許法171 (a) 条が「製造物のための新しく、独創的で、かつ装飾用の意匠」に意匠保護の適格性を認めており、従来から裁判所では、複数の構成要素から成る製品のひとつの要素のみに及ぶ意匠権を認めるものとして171条を解釈してきたことも指摘した。最高裁は、今回の判決が171条に関わるこれまでの判例と一貫性があると述べている。

 最高裁は、289条の損害賠償金の検討において適切な製造物(”article of manufacture”)を特定するための具体的なテストを提示することなく、この論点及び他の論点を考慮させるべくCAFCへ本件を差し戻した。

本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。

以上

本欄の担当
副所長 弁理士 吉田 千秋
米国特許弁護士 Herman Paris
米国オフィス IPUSA PLLC 米国パテントエージェント 有馬 佑輔
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