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米国の補正されていないクレームに対する審査経過禁反言に関するCAFC判決

(UCB, Inc. v. Yeda Research and Development Co., LTD. (Federal Circuit, September 8, 2016))

 2016年9月8日付で、米国連邦巡回控訴裁判所(以下、CAFC)により、補正されていないクレームに対する審査経過禁反言に関する判決が出されました。

判決の要点

 今般のCAFCへの控訴審において、CAFCは、補正がなされなかったクレームに対しても、侵害訴訟時に求める権利範囲が出願審査中に別のクレームから削除されていた場合には、審査経過禁反言が発生するとの判断を示した。

判決の内容

 UCB社 (以下、UCB) は、同社がYeda Research and Development社 (以下、イエダ)の米国特許 6,090,923 号(以下、923特許)を侵害していないことの確認を求める訴訟を地裁に提起していた。この923特許は、所定の人間の細胞毒素に結合するモノクローナル抗体に関わり、以下のクレーム1に代表される発明である。

1. A monoclonal antibody which specifically binds a human cytotoxin having a molecular weight of about 17,500 as determined by polyacrylamide gel electrophoresis、said cytotoxin being obtainable from stimulated human monocytes、said cytotoxin being further characterized by exhibiting a cytotoxic effect on cycloheximide-sensitized SV-80 cells and by being obtainable in a state of enhanced purity by adsorption of the cytotoxin from an impure preparation onto controlled pore glass beads、and subsequent desorption of the cytotoxin in a state of enhanced purity.

 この923特許の明細書には、マウス(ねずみ) のモノクローナル抗体のみが記載されているが、クレーム1のモノクローナル抗体が、キメラ抗体(注:キメラとは同一個体内に異なった遺伝情報を持つ細胞が混じっていること)またはヒト化抗体を含むか否かが当事者間の争点となった。
 出願当初のクレームは「モノクローナル抗体」に関わるものであったが、 出願審査の過程で、イエダはすべてのクレームを一旦はマウス抗体に限定した。しかし、その後、イエダはより広いクレームを求め、新たなクレーム41、42を追加し、それについて以下のように述べていた。

  New claims 41 and 42 are being submitted herewith in order to present claims identical to presently appearing claims 38 and 39 without requiring that the monoclonal antibodies be murine monoclonal antibodies. Arguments have previously been made in this prosecution history that the recitation of “murine” with respect to the monoclonal antibody helps to distinguish the present claims over the references such as Matthews and Wallace which disclose obtaining rabbit polyclonal antibodies. However、it is now believed that recitation of “murine” is unduly limiting and that claims 41 and 42 are allowable for the same reasons as argued in applicants’ amendment of April 21、1998 with respect to claims 38 and 39.
(概略:クレーム41,42は、既存のクレーム38,39と同一であるが、モノクローナル抗体がマウスのモノクローナル抗体に限定されないクレームである。既存のクレームについては、マウスに限定することにより引例と差別化されている旨の反論をこれまでに行ったが、このマウスへの限定は不必要であり、クレーム41,42は許可されるべきである。)

 審査官は、モノクローナル抗体をより広範囲の種に由来するものとすることについて、明細書が実施可能要件を充たしていないとして、新しいクレーム41、42を拒絶した。この拒絶に対し、イエダはマウス以外の種からモノクローナル抗体を生産することは当業者の技術水準の範囲内にあると陳述し、マウスモノクローナル抗体の派生体であるヒト化抗体またはキメラ抗体がクレームに含まれるべきであると審査官に反論する応答書を提出した。併せて、この拒絶に対する応答で、明示的にキメラ抗体を包含すべくクレーム45-48を追加した。
 審査官は、出願人の主張と陳述を認め、実施可能要件欠如を理由とするクレーム41、42の拒絶を撤回する一方、「ラット、ハムスター、及びヒト抗体並びにそれらのキメラ抗体」、及びマウスモノクローナル抗体及び非マウスモノクローナル抗体のキメラに関わるクレーム45-48については拒絶した。これについて、審査官は、クレーム45-48は新規事項の追加にあたり、明細書でサポートされていないことを理由としていた。その後、イエダは、クレーム45-48を削除した。クレームの番号が振り直された結果、キメラ抗体について補正がされることなく上記のクレーム41がクレーム1となった。
 地裁において、イエダは、抗体の特定の形態や由来について指定がない広義の「モノクローナル抗体」がクレーム1に記載されており、キメラモノクローナル抗体は出願時には既知であったことを主張した。そして、イエダは、クレーム1は明細書中の例に限定されるべきではなく、キメラおよびヒト化抗体を含むものとして解釈されるべきであると主張した。これに対しUCBは、審査経過に照らせば、キメラおよびヒト化抗体を含めることは禁ぜられるべきであると主張した。
 地裁は、UCBの主張を認め、UCBは非侵害であるとの判決を下した。そして、イエダの、不首尾には終わったもののキメラを本願クレームに含めようとした試み、及び新規事項を理由とする審査官の拒絶に対する黙従から、キメラ抗体が明細書に記載されクレームに含まれていると主張すべくクレームを解釈することは禁ぜられるべきとの判決を下した。
 その控訴審において、イエダは、クレーム1を狭める補正はなされておらず、単に異なるクレームが審査官によって拒絶され出願人によってその後削除されたのであるから、審査経過禁反言は存在しない、と主張した。CAFCは、このイエダの主張を退け、「ひとつの特許中の個々のクレームは、それぞれの特有の事実と審査経過に照らして独立に考慮されるべきものではあるが、原則として特許出願人が審査の段階で提示し、審査官により拒絶され、その後出願人によって取り下げられた範囲の事項については特許を受けることはできない」と述べた。CAFCは、クレーム1について補正はされていないものの、地裁が上記の禁反言を認定したことは合理的であるとの判断を示した。

本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。

以上

本欄の担当
副所長 弁理士 吉田 千秋
米国特許弁護士 Herman Paris
米国オフィス IPUSA PLLC 米国パテントエージェント 有馬 佑輔
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