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米国意匠特許のクレーム解釈に関するCAFC判決

(Sport Dimension, Inc. v. The Coleman Company, Inc. (Federal Circuit, April 19, 2016))

 2016年4月19日付で、米国巡回控訴裁判所(以下、CAFC)により、意匠特許のクレーム解釈に関する判決が出されましたのでご報告申し上げます。

判決の要点

 個人用救命胴衣の意匠権の侵害において、地裁は、意匠クレームの解釈で、機能的で装飾的ではないアームバンドと先細りする胴部を除いて、意匠権の権利解釈を行った。そして地裁は、上記クレーム解釈に基づき、非侵害の判決を行った。これに対して、CAFCは、意匠特許は意匠の全体的な装飾を保護するのであり、分離可能な要素の集合体を保護するのではないと述べた。またCAFCは、機能的要素を考慮しないからといって、侵害の有無の判断全体を「要素毎の比較」に変更するわけではない、との見解を示し、事件を地裁に差し戻す判決を行った。

背景

 Coleman社は米国意匠特許D623,714(以下、「714特許」)を所有している。714特許は以下のクレームを記載している:
 “the ornamental design for a personal flotation device” as illustrated the figures below(個人用救命胴衣の装飾的デザイン):

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 上記の図面は胴部に設けられた2つのアームバンドを有する個人用救命胴衣を示している。前記胴部は後部で平坦であり、側部の接続部において次第に細くなっている。Coleman社は714特許を侵害する個人用救命胴衣を販売したとしてSport Dimension社を提訴した。
 Sport Dimension社の救命胴衣を以下に示す:

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 Sport Dimension社の救命胴衣は胴部に接続された2つのアームバンドを有する。しかし、714特許とは異なり、Sport Dimension社の救命胴衣は使用者の肩を超えるよう上方に伸びており、ベストの形状を有する。

 地裁は以下のように714特許を解釈した:

The ornamental design for a personal flotation device, as shown and described in Figures 1–8, except the left and right armband, and the side torso tapering, which are functional and not ornamental. (機能的で装飾的ではない左右のアームバンドと先細りする胴部を除く、図1~8が示す個人用救命胴衣の装飾的意匠)

 上記のクレーム解釈では、Coleman社の意匠のアームバンドの特徴と先細りする胴部の意匠を除いている。
 地裁は、アームバンド、アームバンドの付属物、アームバンドの形状、先細りするアームバンド、先細りする胴部の側部の全ては装飾目的ではなく、機能を果たすための要素である、との理由で、クレーム解釈において上記の特徴を除いていた。地裁は上記クレーム解釈に基づき、非侵害の判決をした。

CAFCの判決

 Coleman社はCAFCに上記地裁の判決に対して控訴した。Coleman社は、アームバンドと先細りする胴部が機能的である、との地裁の判断が誤りであると主張した。Coleman社は更に上記地裁の判断に基づくクレーム解釈に対しても反論を行った。

 CAFCは714特許の意匠クレームが機能に基づき定義されるか否かを判断した。この判断において、先のCAFC判決(PHG Technologies, LLC v. St. John Cos. 469 F.3d 1361 (Fed. Cir. 2006))で使用された5つのファクターを分析した:

1. whether the protected design represents the best design(意匠特許で保護されているデザインは最も良い意匠か?); 
2.whether alternative designs would adversely affect the utility of the specified article(別の意匠では製品の実用性を損なうか?);
3.whether there are any concomitant utility patents(関連する実用特許が存在するか?);
4.whether the advertising touts particular features of the design as having specific utility(広告において、意匠のある特徴が特定の実用性を持つとして謳われているか?); and
5.whether there are any elements in the design or an overall appearance clearly not dictated by function(意匠或いは全体的な外観の中で、明らかに機能に基づき定義されない要素が存在するか?)

 上記の分析の中で、CAFCは救命胴衣の代替意匠を検討したところ、Coleman社のアームバンドと先細りする胴部が、個人用救命胴衣の最も良い意匠である、と結論づけた。更にCFACは、上記アームバンドと先細りする胴部を開示する係属中の特許出願をColeman社は提出しており、その出願の中でそれらの実用性を開示していることに言及した。
 CAFCは広告においても上記アームバンドと先細りする胴部の実用性を宣伝していたことにも言及した。従って、CAFCは714特許の上記アームバンドと先細りする胴部は機能的目的を果たす、と結論付けた。

 上記を踏まえてCAFCは地裁のクレーム解釈の是非を検討した。CAFCは、まず初めに、意匠特許は意匠の全体的な装飾を保護するのであり、分離可能な要素の集合体を保護するのではない、と述べた。またCAFCは、機能的要素を考慮しないからといって、侵害の有無の判断全体を「要素毎の比較」に変更するわけではない、との見解を示した。地裁は上記アームバンドと先細りする胴部をクレーム解釈から完全に除いたため、全体的な装飾をカバーするクレーム範囲から、個々の要素をカバーするクレーム範囲へ不適切に変更されてしまった、との見解をCAFCは示した。
 CAFCは、714特許の適切なクレーム解釈に関して、「我々はColeman社の個人用救命胴衣の全体的な意匠に着目した….Fig. 2で示されるように、その意匠は3つの長方形の部材の外観を有している。これは殆ど装飾が無い必要最低限度の外観である。また、その意匠は、意匠の全体的な装飾に寄与する範囲において、上記アームバンドと先細りする胴部の形状を含む…しかし、上記アームバンドと先細りする胴部は機能的な目的を果たすので、事実認定を行う者が侵害の有無を判断する際にあたって、これらの要素の意匠に焦点を当てるべきではなく、その意匠の全体的な装飾に寄与する要素に焦点を当てるべきである。714特許の意匠は多くの機能的要素を有し最低限の装飾しかないため、全体的なクレーム範囲は狭くなる」との見解を示した。
 CAFCは上記の基準に準じた分析を行うよう、本件を地裁に差し戻した。

本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。

以上

本欄の担当
副所長 弁理士 吉田 千秋
意匠部部長 弁理士 川崎 芳孝
米国オフィス IPUSA PLLC 米国パテントエージェント 有馬 佑輔
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