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印刷物の法理(“Printed Matter Doctrine”)に関する米国巡回控訴裁判所(CAFC)判決(In Re: Thomas I. DiStefano, III )に関して

 2015年12月17日に米国巡回控訴裁判所(以下“CAFC”)により、「印刷物の法理」或いは“Printed Matter Doctrine”に関する判決が出されました。この判決の要点はあらまし以下のとおりです。

 従前から存在した「印刷物の法理」の下では、クレームの限定が1)印刷物であって、2)前記印刷物が、前記印刷物を保持する物理的な構造物に、機能的、構造的に関係しない場合、特許性の判断において印刷物の限定は重みを与えない、とされている。

 CAFCは、方法クレームに記載された“selecting”ステップで選択された“web asset”は何らかの情報を通信すると思われるが、その情報のコンテンツはクレームされておらず、前記情報の由来(“origins”)は前記情報のコンテンツの一部をなしていない、と判示し、“web asset”の由来(“origins”)が印刷物に該当するとのPatent Trial and Appeal Board(特許公判審判部)の審決を覆した。

1.Patent Trial and Appeal Board(特許公判審判部、以下 “PTAB”)の審決

 上訴人であるDiStefano氏の米国特許出願(US Patent Application No. 10/868,312、以下「312特許出願」)は、新規性がない(米国特許法102条)として、引例D’Arlach(US Patent No. 6,046,433)に基づき拒絶を受けており、この拒絶をPTABは支持していた。PTABは312特許出願のクレーム24の限定が印刷物に相当するため、特許性の重み(“patentable weight”)が無い、との見解を示した。今般のCAFC判決では、上記PTABの審決を覆した。

 前記312特許出願は、個人ユーザがHTMLを習得する必要が無く、またウェブデザイナーに大きく頼ることなく、ウェブページのデザインを可能とするウェブページのデザイン方法に係る。
 前記312特許の主とする実施形態は “primary display screen”及び“overlaid design plate”から成る “graphical user interface”を有する。また、前記“overlaid design plate”はウェブページの編集をアシストするメニューボタン及びウェブアセットを表示及び編集できるデザインプレートなどの複数の部材を有する。
 前記312特許出願では、前記ウェブアセットはJava applets, scripts, stock art, digital art, background images, textures等が含まれることが開示されている。また、前記ウェブアセットは、ウェブアセットデータベースから移動させること、ユーザにより直接アップロードできること、或いは第三者のウェブサイトから得ること、が可能である。前記ユーザがウェブサイトの編集を完了した際に、ユーザはデザインプレートからウェブサイトへとウェブアセットを移動可能である。

 上記312特許出願のクレーム24は以下のように記載されていた:

A method of designing, by a user in a user interface having first and second display regions each capable of displaying a plurality of element, an electronic document, comprising:

selecting a first element from a database including web assets authored by third party authors and web assets provided to the user interface or outside the user interface by the user;

displaying the first element in the second display region; interactively displaying the electronic document in the first display region;

modifying the first element displayed in the second display region upon receiving a first command to modify the first element in the second display region; and

displaying the modified first element in the first display region, wherein the modified first element forms at least part of the electronic document (emphasis added).

 PTABでは、上記 “selecting”以外のステップが上記引例に開示されていることが合意されていた。しかし、PTABは上記“selecting”の限定は印刷物の法理に基づき、特許性の重みを与えない、との審決を下した。PTABはこの印刷物の法理に基づく分析の中で、ウェブアセットの由来(“origins”)がクレームされた方法に機能的な関係性が無いため、前記ウェブアセットが第三者及びユーザ由来であることは、クレームされた方法に特許性を与えない、との見解を示した。上記見解では、ウェブアセットの由来(“origins”)を印刷物であると認定していた。

2.CAFCの判示

 印刷物の法理の下では、1)印刷物であって、2)前記印刷物が、前記印刷物を保持する物理的な構造物に、機能的、構造的に関係しない場合、特許性の判断において印刷物の限定は重みを与えない、とされている。つまり、印刷物の限定は、引例との相違点の根拠とすることができない。
 CAFCは、上記印刷物の法理の分析における第1のステップは、クレーム中の限定の記載が印刷物であるか否かを判断することである、との見解を示し、情報のコンテンツをクレーム中に記載した場合のみ、その限定は印刷物とされる、との見解を示した。つまり、通信対象のコンテンツをクレームした場合のみ、クレーム中の限定は前記印刷物の法理の対象となる、との見解を示した。
 また、CAFCは前記印刷物に該当する例を以下のように挙げている:

i.不動産の分析を速やかにするように不動産の特徴を表にしたチャート;
ii.肉を特定するために、特定の方法で肉に配置されたマーキング;
iii.医療製品の適正使用量を表示する食品医薬品局のラベル;
iv.DNA診断の使用説明書

 一方でCAFCは、前記データストラクチャは、アプリケーションプログラムに使用される情報と、アプリケーションプラグラム同士のメモリ中の物理的な相互関係性に関する情報の両方を有しているため、コンピュータのストラクチャデータベースは印刷物に該当しない、との判断をした。
 更に、CAFCは、(上記ステップ1で、印刷物と該当すると認定した場合)第2のステップで、印刷物が特許性の重みを与えるべきか否かを判断する、としている。また、クレームされた情報コンテンツを保持するsubstrateに対して、機能的、構造的に関係性を有する場合に、印刷物は特許性の重みを与える、との見解を示している。
 CAFCは、前記第1のステップにおいて、選択されたウェブアセットは情報を通信するように思われるが、情報のコンテンツ自体はクレームに記載されていない、と判断した。また、CAFCは、前記ウェブアセットのコンテンツに、前記情報の由来を特定する情報が組み込まれていないため、前記情報がどこから移動してきたか(つまり前記情報の由来)は、前記情報のコンテンツの一部をなしていない、との判断をした。
 上記を鑑み、CAFCは、ウェブアセットの由来が印刷物に該当するとのPTABの審決は誤りであり、引例D’Arlachに基づく102条の拒絶において、印刷物の法理の下では、前記由来は特許性に重みを与えない、との審決も誤りである、との見解を示すと共に、PTABのクレーム24に対する102条に基づく拒絶を覆した。

本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。

以上

本欄の担当
副所長 弁理士 吉田 千秋
米国オフィス IPUSA PLLC 米国特許弁護士 Herman Paris
同 米国パテントエージェント 有馬 佑輔
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