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最も広い合理的な解釈に関する連邦巡回控訴裁判所(CAFC)判決

(In Re: Smith International, Inc. (Federal Circuit, September 26, 2017))

2017年9月26日付で、連邦巡回控訴裁判所(以下CAFC)により、最も広い合理的な解釈に関する判決が出されました。

判決の要点

この判決において、CAFCは、出願審査中でのクレームの用語の「最も広い合理的な解釈」は、発明者が明細書において発明を記載した態様を反映しなければならない、と判示しました。

判決の内容

1.背景

Smith International、Inc.(以下“Smith”)は、米国特許第6,732,817号(以下“817特許”)を所有している。817特許は石油およびガス操業のための掘削機械に関するものである。
817特許には、「傾斜した溝518を含む1つ以上のポケット凹部516」が「本体(body)510に形成され」、「可動工具アーム(movable tool arms)520を軸方向上方および半径方向外側の展開位置へ移動するための駆動機構を設ける」ことが記載されている。817特許の図4を以下(左図)に示す。
2013年にUSPTOは817特許の再審査請求を受理した。再審査においてSmithは、補正により以下のクレーム28を提示した。

An expandable downhole tool for use in a drilling assembly positioned within a wellbore having an original diameter borehole and an enlarged diameter borehole, comprising:
a body; and
at least one non-pivotable, moveable arm having at least one borehole engaging pad adapted to accommodate cutting structures or wear structures or a combination thereof and having angled surfaces that engage said body to prevent said arm from vibrating in said second position;
wherein said at least one arm is moveable between a first position defining a collapsed diameter, and a second position defining an expanded diameter approximately equal to said enlarged diameter borehole.

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審査官は、国際公開番号WO00/31371(以下“Eddison”)および他の2つの文献を引用し、新規性がなく且つ自明であるとしてクレーム28を拒絶した。Eddisonの図1を上の右図に示す。
Eddisonには、本体18を貫通して延在しカムスリーブ28の取り付けを可能にするマンドレル16を有する穴あけ工具が開示されており、マンドレル16は本体ポート32に取り付けられたカッター30である3つの拡張可能な部材と連携する。Eddisonのマンドレル16と本体18とが互いに相対的に軸方向に移動することにより、カムスリーブ28がカッター30を半径方向外側に押し出す。クレーム28を拒絶するにあたり、審査官は、クレーム28に記載の「本体(body)」を、マンドレルおよびカムスリーブ等の他の構成要素を包含し得る広義な用語であると解釈した。即ち審査官は、本体18、マンドレル16、およびカムスリーブ28を1つに纏めてクレーム28に記載の「本体(body)」に相当すると認定した。
審判部(US Patent Trial and Appeal Board)は審査官の拒絶を維持した。審判部は、「本体(body)」という用語は、「部材」または「要素」などと同様にそれ自体では構造的具体性を有さない一般用語であると判断した。審判部は、明細書には「本体」が他の要素とは分離した別個の要素として記載されているが、明細書には用語「本体」の定義はなく、審査官の解釈が排除されるものではないと判断した。審判部は更に、「マンドレル」に該当するような構成要素はクレームに記載されていないことにも着目した。

2.判決

CAFCは、審判部による「本体」という用語の解釈が不当に広いと結論付け、審判部の決定を覆した。この結論を導くにあたり、CAFCは、「明細書に基づいてクレームの用語を最も広く合理的に解釈する際に本来問うべき問題は、クレームの用語の審査官による広い解釈が明細書により禁止されたり排除されたりするか否かではなく、また最も広い合理的な解釈は、明細書と単に矛盾しない解釈ではなく、発明者が明細書において発明として何をどのように記述しているかに一致する解釈、すなわち明細書と一致する解釈である」と述べた。CAFCはまた、「審査官の解釈を否定するような記載が明細書に無いことに基づいて、そのような解釈が合理的であると審判部は判断したが、しかしそのような考え方に従うと、明細書に明示的な定義又は放棄の言明が無い場合、クレームの用語の最も広い可能な解釈を採用することになり、そのような解釈とは異なることを示唆する一貫した記載が明細書において繰り返しなされていても無意味となってしまうのであり、それは明細書に基づいてクレームの用語を最も広く合理的に解釈する適切なやり方ではない」と述べた。
以上に基づいてCAFCは、817特許明細書では一貫してマンドレル、ピストン、駆動リング等のような他の構成要素とは別個の構成要素として本体を説明していることに議論の余地はなく、審判部による「本体」の解釈は不合理である、と結論付けた。CAFCは更に、Eddisonの穴あけ工具についての記載においても、本体と、マンドレルと、カムスリーブとを互いに区別して個別に説明しているのであるから、審判部による解釈は不合理であると結論付けた。CAFCは、クレーム28に記載される「本体」は、明細書においてマンドレルのように別個に特定されている他の構成要素とは異なる構成要素であり、Eddisonのカムスリーブを含むものとして解釈することはできない、と結論付けた。

本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。

以上

本欄の担当
副所長 弁理士 吉田 千秋
米国オフィス IPUSA PLLC 米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 有馬 佑輔
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