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クレーム解釈に関する2つの連邦巡回控訴裁判所(CAFC)判決
クレーム解釈に関する2つの連邦巡回控訴裁判所(CAFC)判決
HZNP MEDICINES LLC, HORIZON PHARMA USA, INC., v. ACTAVIS LABORATORIES UT, INC. OCTOBER 10, 2019) & IN RE: DAVID FOUGHT, MARTIN CLANTON (NOVEMBER 4, 2019)
2019年10月10日付及び11月4日付で、連邦巡回控訴裁判所(以下CAFC)により、クレーム解釈に関する2つの判決が出されました。
第1の判決(HNZP MEDICINES)において、CAFCは、“consisting essentially of”という表現を使用したクレームが明確であるか否かを判断するためには、発明の基本的且つ新規な特性を評価することが必要になる、と判示した。第2の判決(IN RE: DAVID FOUGHT)において、CAFCは、クレームの本文が先行詞としてのプリアンプル(おいて書き部分)に依拠しているために、クレームのプリアンブルは限定として機能する、と判示した。
HZNP MEDICINES LLC, HORIZON PHARMA USA, INC., v. ACTAVIS LABORATORIES UT, INC. (FEDERAL CIRCUIT, OCTOBER 10, 2019)
<背景>
HNZP Medicines LLC, Inc.及びHorizon Pharma USA, Inc. (以下、“Horizon”)は、米国特許第8,252,838号の特許権者である。本特許は、変形性関節症を治療するための処方に関する。代表的なクレーム例として、クレーム49を以下に示す。
- A topical formulation consisting essentially of:
1–2% w/w diclofenac sodium;
40–50% w/w DMSO;
23–29% w/w ethanol;
10–12% w/w propylene glycol;
hydroxypropyl cellulose; and
water to make 100% w/w, wherein the topical formulation has a viscosity of 500–5000 centipoise.
2014年にHorizonは、Actavis Laboratories UT, Inc.による特許侵害を主張した。地方裁判所は、様々な争点のうちの1つにおいて、“consisting essentially of”との表現が不明確であると判示した。Horizonは、この決定を不服として、CAFCに上訴した。
<CAFC判決>
CAFCの見解によれば、表現“consisting essentially of”は、部分的に非限定的(open-ended)なクレームであるという意図を示すために使用される移行句である。また当該表現は、“consisting of”を使用する限定的(close-ended)クレームと“comprising”を使用する非限定的(open-ended)クレームとの間にある中間的な意味を示すものとして機能する。従って、当該表現を使用することにより、列挙された成分が発明の必須要件として含まれるが、発明の基本的且つ新規な特性に実質的に影響を及ぼさないその他の成分が存在してもよいことが示される。CAFCは更に、“consisting essentially of”との表現をクレームにおいて使用することにより、出願人は、発明の基本的且つ新規な特性が何であるのかに関する評価を当該クレームの技術的範囲に組み込むことになると指摘した。従って、発明の基本的且つ新規な特性が明確である限りにおいて“consisting essentially of”との表現を使用することができる、との見解をCAFCは示した。
次に、CAFCは、発明の5つの基本的且つ新規な特性を地方裁判所が特許明細書に基づいて適切に特定したと判断した。それらは、(1)より好ましい乾燥時間[1]、(2)より高い粘度、(3)より高い経皮フラックス、(4)より大きな薬物動態学的吸収、及び(5)より良好な安定性、である。
最後に、CAFCは、「より好ましい乾燥時間」という基本的且つ新規な特性が不明確であると判断した地方裁判所による認定を再検討した。地方裁判所は、明細書における開示は乾燥時間を評価する方法に関して一貫性が無く、乾燥速度を評価するに適した時間長が審査経過において明らかにされていないと判断した。CAFCは、「より好ましい乾燥時間」という新規の特性が不確定であるため、“consisting essentially of”という表現が不明確になるとの地方裁判所の認定に同意し、これを支持した。
なお、本事案では“consisting essentially of”という表現が不明確であると判示されたが、留意すべき事項として、「発明の基本的且つ新規の特性に関する明細書の記載に曖昧さがある限り、如何に些細な曖昧さであっても、“consisting essentially of”という表現は不明確と判断される」と判示してはいない、とCAFCは述べている。
IN RE: DAVID FOUGHT, MARTIN CLANTON (FEDERAL CIRCUIT, NOVEMBER 4, 2019)
<背景>
David Fought及びMartin Clantonは、米国特許出願第13/507,528号(2012年7月5日出願)の発明者である。当該特許出願は、キャンピングトレーラー(travel trailer)の構造に関するものである。クレーム1及び2を以下に示す。
- A travel trailer having a first and second compartment therein separated by a wall assembly which is movable so as to alter the relative dimensions of the first and second compartments without altering the exterior appearance of the travel trailer.
- A travel trailer having a front wall, rear wall, and two side walls with a first and a second compartment therein, those compartments being separated by a wall assembly, the wall assembly having a forward wall and at least one side member,
the side member being located adjacent to and movable in parallel with respect to a side wall of the trailer, and
the wall assembly being moved along the longitudinal length of the trailer by drive means positioned between the side member and the side wall.
審査官は、冷蔵トレーラー等の従来のトラックトレーラーを開示する米国特許第4,049,311号(Dietrich)により新規性がないとして、特許法第102(b)条に基づいてクレーム1を拒絶した。審査官は更に、輸送コンテナの隔壁を開示した米国特許第2,752,864号(McDougal)により新規性がないとして、特許法第102(b)条に基づいてクレーム2を拒絶した。発明者らは、外的証拠に基づいて、「キャンピングトレーラー」は居住スペースを含む特定のタイプの牽引可能なレクリエーション車両であるため、新規性欠如に基づく拒絶は不適切であると主張した。審判部は、プリアンプルに記載される用語「キャンピングトレーラー」はクレームを限定しないと結論付け、当該拒絶を維持した。発明者らはCAFCに上訴した。
<CAFC判決>
CAFCの見解によれば、発明の目的又は用途を単に述べたプリアンブルの文言は、通常、クレーム範囲を限定するものとは解釈されない。しかしながら、クレームが先行詞としてプリアンブルに依拠する場合には、プリアンブルは限定として機能する。
CAFCでの審理において、発明者らは、本願クレームにはプリアンブルは存在しないと主張した。具体的には、“A travel trailer having…”はプリアンブルではなく移行句を有していない、と発明者らは主張した。CAFCはこれに同意せず、プリアンブルと本体との間の移行を示す典型的なクレーム用語(comprising)がクレームには用いられていないが、“having”という語が同一の役割を果たしていると指摘した。
しかしながらCAFCは、“A travel trailer”が限定として機能するという発明者の主張に同意した。例えば、クレーム1の本文における“the travel trailer”との限定は、その先行詞としてプリアンブルにおける“A travel trailer”との記載に依拠していると指摘した。CAFCはまた、「牽引可能」と「居住スペース」とは構造に関する要件であり、用途には該当しないと指摘した。
Dietrich及びMcDougalがキャンピングトレーラーでないことに疑いはなく、CAFCは、新規性欠如に基づく拒絶を覆した。
本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。
http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/17-2149.Opinion.10-10-2019.pdf
http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/19-1127.Opinion.11-4-2019.pdf
本欄の担当:副所長 弁理士 吉田 千秋
米国オフィスIPUSA PLLC:米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 有馬 佑輔
[1] CAFCは、明細書において、時間経過と共に残る製剤の残留重量に言及する用語として、「乾燥時間」という用語と「乾燥速度」という用語とが互換的に使用されていることを指摘した。