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韓国特許法等の一部改正案の国会通過

韓国特許法等の一部改正案が2021年7月23日に韓国国会を通過したことにつきまして、その主な内容をご案内申し上げます。

 

1.改正の主な内容

(1)審査請求料返還の拡大

 現行法では、審査請求後、先行技術調査機関からの調査結果が審査官に通知された後であれば、特許出願人が、審査の結果(拒絶理由等)を通知される前に出願を取下げ又は放棄した場合でも、実際に審査官により審査が行われていないにもかかわらず、出願人に審査請求料は返還されません。

 しかし、今回の改正法によれば、特許出願人は、審査の結果(拒絶理由等)を通知される前であれば、先行技術調査の結果通知の有無を問わず、出願の取下げ又は放棄を行うことにより、審査請求料を全額返還してもらうことができます。

 更に、改正法では、拒絶理由が通知された後でも、意見提出期間内に出願を取下げ又は放棄することにより、審査請求料の1/3を返還してもらえるようになりました。

 

 改正前と改正後を比較した、以下の図をご覧ください。

 

(2)審判の効率性向上のための取り組み

 i)審判-調停連携制度の導入

 現行では、産業財産権関連紛争の調停による解決といえば、当事者の申請によらないと、調停の手続きが始まらないようになっていますが、今回の法改正により、一旦始まった特許・意匠・商標に関する審判の審理において、審判長は、必要性があると判断した案件に対し、当事者の同意を得て、産業財産権紛争調停委員会の調停手続きへ付することができるようになりました。

 この調停手続きでは、3か月の調停期間の間、迅速な解決に向けて交渉が行われますが、その調停期間内に当事者同士の合意に至ることができなかった場合には、元の審判の審理手続きに戻ります。但し、調停委員会のメンバーには、当事者の同意があれば、審判部の全員または一部が直接調停委員として参加可能となっているため、紛争解決に向けて効率的な調停が行われることが期待されます。

 

 新たに導入される審判-調停連携の仕組みについて、以下の図をご参考下さい。

 

ii)適時提出主義の導入

 韓国の特許法等では、民事訴訟法の規定を準用する条文を幾つか設けていますが、今回の法改正により、民事訴訟法上の「適時提出主義」規定も準用することになりました。

 ここで「適時提出主義」とは、裁判手続きの状況に応じて主張や証拠を適時に提出しなければいけないという、訴訟資料の提出にあたって当事者に求められるものですが、具体的に、特許・意匠・商標に関する審判の審判長は、特定の事項に関して、当事者に主張及び/又は証拠の提出期間を指定するとともに、故意または重過失によりその指定期限を過ぎて提出され、手続きが遅延したと認められた場合には、提出された主張及び/又は証拠を却下できるようになりました。

 

2.コメント

 今回韓国の法改正のうち、審査請求料の返還範囲拡大には、実際に提供された審査サービスに相応する審査請求料のみを徴収することにより、ユーザの負担を合理的に軽減するとともに、権利化の可能性や必要性が乏しい特許出願に対し取下げや放棄を誘導することにより、審査官の時間を、先端技術分野や相対的に重要性の高い出願の方により多く割り当てる狙いがあると思われます。

 実際に現行と比べて、審査請求料の返還できる期間が増え、尚且つ、例えば、拒絶理由が通知されて諸理由により放棄等をされる場合でも、審査請求料の一部が戻ることになりますので、出願人にとってメリットがあるものと考えます。

 

 また、審判-調停連携制度に関しては、紛争の迅速な決着と願望される結果との兼ね合いから、調停と審判とで選択することが可能ですので、案件次第では活用を検討されるとよいと考えます。なお、新たに導入される仕組みなだけに、これからの運用の様子等についても注視していくようにいたします。

 適時提出主義の準用については、審判段階でも、これまでより資料の早期提出が求められるようになることが予想されますので、審判での対応にあたってはその点を念頭に置く必要があると考えます。

 

3.その他

 上記の改正内容は、改正法律が公布後3ヵ月の時点より施行される予定のため、遅くても今年の12月には適用されます。

 具体的に、今年の12月以降に取下げ/放棄される特許出願に対しては、改正ルールに沿って審査請求料の返還が可能になり、また、今年の12月以降に係属中の特許・意匠・商標に関する審判においては、審判長により調停手続きへの移行を打診される可能性があります。

 

 なお、上記の韓国語での情報は、

http://likms.assembly.go.kr/bill/billDetail.do?billId=PRC_P2X1G0A6Q2I5H1P3C3S5F3C5F4V1M8(特許法)、

http://likms.assembly.go.kr/bill/billDetail.do?billId=PRC_K2H1W0M6V2U5D1C3O3K6F2I2I4G2X6(デザイン保護法)、

http://likms.assembly.go.kr/bill/billDetail.do?billId=PRC_B2G1M0X6K2W5I1M3G3Z8H4H3O3E3Q8(商標法)、及び

http://likms.assembly.go.kr/bill/billDetail.do?billId=PRC_H2K1W0U6H2A5Q1A3S3M7Z2T7J8L4Q7(発明振興法)

から入手することができます。

 

本欄の担当
伊東国際特許事務所
所長 弁理士 伊東 忠重
副所長 弁理士 吉田 千秋
担当:韓国弁理士 柳 光煕
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