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“Broadest reasonable interpretation”(最も広く合理的な解釈)に関する 米国CAFC判決(IN RE KEVIN R. IMES(Federal Circuit, January 29, 2015))について

 2015年1月29日、米国国巡回控訴裁判所(CAFC)により、米国特有のクレーム解釈の仕方、即ち“broadest reasonable interpretation”(最も広く合理的な解釈)に関する判決が出されました。その概要等について以下の通りご報告致します。

判決の概要

 米国特許出願番号09/874,423はデジタルカメラの画像及び動画情報をネットワーク上で通信する措置に係る。米国特許庁の審判部(Patent Trial and Appeal Board)は上記特許出願のクレーム1-14及び16-47の全てに対する拒絶を維持したため、米国巡回控訴裁判所(CAFC)にて審理が行われた。

独立クレーム1:
 クレーム1にはデジタル画像記憶用メモリ, 画像表示用ディスプレイ及び 通信要求受信用入力装置を有する電子機器が記載されていた。前記電子機器は第一、第二無線通信モジュールを収容する筐体を有する。前記第一無線通信モジュールはセルラー式の通信モジュールであり、前記第二無線通信モジュールは低電力高速通信モジュールである。
 本事件での主な争点は、引例Schuetzle(米国特許番号6,762,791)が上記出願クレーム1の前記第二無線通信モジュールを開示しているか否かであった。以下に引例SchuetzleのFIG.1を示す:

image

 引例Schuetzleは、無線通信インターフェイス30, 連結インターフェイス及び/或いは取り外し型メモリカード35をシステム20に挿入することにより、カメラ 30がコンピュータシステム20に画像情報を送信可能なシステムを開示する。
 審査の段階で、審査官は、コンピュータシステム20に情報を送信する為には、取り外し型メモリカード35をカメラ30から抜き取り、コンピュータシステム20に挿入する必要がある(つまり、ワイヤを使用していない)為、引例Schuetzleが開示する取り外し型メモリカード35は、クレーム1の前記第二無線通信モジュールを開示している、との見解を示した。審査官はクレームされた“wireless”は取り外し型メモリカード35がコンピュータシステム20に挿入された状態の、取り外し型メモリカード35とコンピュータシステム20の金属接触部を介した通信も含む、として解釈した。
 CAFCは、明細書において、“wireless”は「ワイヤではなく、空間を通して、電磁波或いは音波が信号を運ぶ、通信、監視、制御システム」であると定義されている為、上記の審査官による“wireless”のクレーム解釈は、明細書に基づいた最も広く合理的な解釈とは一致しない、と判示した。
 CAFCは取り外し型メモリカード35の前記金属接触部は、電磁波あるいは音波によって空間中で信号を運ぶことはない為、上記審査官のクレーム解釈は不適切である、と判示した。

独立クレーム34及び43:
    上記出願のクレーム34及び43は、目的地に無線によって動画をストリーム(“streaming video”)通信する通信モジュールを有する通信装置に係る。
 クレーム34及び43に関する争点は、引例Knowles(米国特許番号7,173,651)が上記構成要素を開示しているか否かである。引例Knowlesはインターネット上で画像を送信する無線デジタルカメラシステムを開示している。引例Knowlesのカメラシステムは、複数の連続した静止画像を撮影し、前記複数の画像をキューに入れることにより、前の写真が送信されることを待つことなく、ユーザーが次の写真を撮影することを可能としながら、サーバーに前記複数の画像を連続的に送信することができる。前記サーバーは電子メールによってサーバーに前記画像を送信する。
 審査官は、引例KnowlesのFIG.12に基づき、画像がキューに存在している限り、画像の送信が繰り返し行われることを示しているとし、「画像送信の連続的な処理は動画ストリーミングと同等である」との理由で、引例KnowlesのFIG.12は“streaming video”を開示している、との見解を示した。
 CAFCは引例Knowlesが“streaming video”を開示している、との見解を否定した。その根拠として、上記出願の明細書は静止画像と動画を明確に区別している為、「このようなクレーム解釈は、クレーム文言のそのままの意味(“plain meaning”)や明細書のいずれとも一致しない。 ストリーミング動画は動画の連続的送信であるので、画像が添付された電子メールの連続は“streaming”の定義から外れ、また静止画像も“video”の定義から外れる」と判示した。

弊所米国オフィスIPUSAからのコメント

 本判決は、審査官が「最も広く合理的な解釈」の基準を用いて、明細書に記載されている定義、或いは、一般的に当業者に受け入れられている定義を著しく超えた広いクレーム解釈を行った場合に、審査官に対する反論の根拠として有用であると思われる。つまり、明細書に記載されているクレーム文言の定義を審査官に指摘することや、クレーム文言に対応付けられている引例の技術内容と当該クレーム文言との相違を示すような明細書中の記載を審査官に指摘することは、反論において有用であると思われる。
 米国特許庁の審査において、合理的でないほどに広いクレーム文言の解釈に基づきクレームが拒絶された際には、当該クレーム文言の意味や定義を説明して出願人が反論しても、そのような意味や定義はクレームに記載されていない、として審査官が反論を受け入れず、補正して対応する場合が実務上多いと思われる。しかしながら、「最も広く合理的な解釈」に基づきクレームが審査されるとしても、明細書に基づく当業者の解釈によりクレームの範囲が決定されるべきであると主張することは、反論手段の1つとして有効であると思われる。

本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。

以上

本欄の担当
副所長 弁理士 吉田 千秋
米国オフィスIPUSA PLLC 米国特許弁護士 Herman Paris
同 米国パテントエージェント 有馬 佑輔
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