• トップ
  • 最新IP情報
  • 審査中に反論しなかったことが判決に影響した連邦巡回控訴裁判所判決 Elekta Limited v. ZAP Surgical Systems, Inc. (September 21, 2023)
最新IP情報

最新IP情報

外国の判決・IP情報速報

審査中に反論しなかったことが判決に影響した連邦巡回控訴裁判所判決 Elekta Limited v. ZAP Surgical Systems, Inc. (September 21, 2023)

連邦巡回控訴裁判所 (以下CAFC)による本判決において、出願人が審査過程において異なる分野の先行技術を引用されたことに対して異議を申し立てなかったことが、対象特許を先行技術により自明であるとする裁判所の決定において重要なファクターとなった。

 

<背景>

Elekta社は、米国特許第7,295,648(648特許) を保有している。648特許は、電離放射線を用いた特定の種類の放射線手術および放射線療法により患者を治療するための装置を開示している。本発明は、電離放射線のビームを患者に照射する放射線ソースとして線形加速器32 (「リニアック」と呼ばれる) を使用している。以下に図示されるように、モータ36を用いてリニアック32を旋回式取付ポイント30の周りで回転させ、電離放射線を患者の様々なターゲット領域に照射する。

648特許の図5及び図7
648特許の図5及び図7

本発明を例示するクレーム1は以下の記載となっている。

 

1. A device for treating a patient with ionising radiation comprising:

        a ring-shaped support, on which is provided a mount,

        a radiation source attached to the mount;

        the support being rotateable about an axis coincident with the centre of the ring;

        the source being attached to the mount via a rotateable union having an axis of rotation axis which is non-parallel to the support axis;

        wherein the rotation axis of the mount passes through the support axis of the support and the radiation source is collimated so as to produce a beam which passes through the co-incidence of the rotation and support axes.

 

2019年、ZAP社は、当事者系レビュー (Inter Partes Review) により648特許の有効性に異議を申し立てた。特に、ZAP社は、648特許について、米国特許第4,649,560(Grady) 及び文献K.J. Ruchala et al., Megavoltage CT image reconstruction during tomotherapy treatments, PHYS. MED. BIOL. 45, 3545–3362 (2000) (Ruchala) を含む先行技術文献により自明であると主張した。

Gradyは、患者のX線画像を撮影するためのスタンドに関する文献である。以下に示すように、インナーリング3は、テーブルT上に横たわっている患者の周りを回転する。リングからは矩形スリーブ8が延びており、アームがモータ駆動を介してスライドする。アームの外端部はキャリッジ10に接続され、当該キャリッジ10によってX線画像を撮影するため患者の周りを回転するX線チューブを運搬する。

Gradyの図1及び図2
Gradyの図1及び図2

Ruchalaは、リニアックを用いた放射線治療システムを開示する文献である。患者が静止した状態で、リニアックが患者の周りを回転しターゲット腫瘍に治療放射線を照射する。当該システムにはCTイメージング機能も含まれており、当該機能により、患者の体の適切な位置決めと、放射線の照射が意図した通りに行われたことの確認を行う。

米国特許商標庁の特許審判部 (PTAB) は、ZAP社の主張を説得力があると判断し、648特許はGradyRuchalaを参照することにより自明であると結論付けた。Elekta社は、この決定を不服としてCAFCに上訴した。特に、Elekta社は、GradyX線画像ソースを、Ruchalaが開示するリニアックを用いた治療ソースに置き換えるように両文献を組み合わせる動機はないと主張した。リニアックによる電離放射線ソースは画像を改良するものではないこと、リニアックによる電離放射線ソースは致命的な副作用をもたらす可能性があり、非常に高度な精度を必要とすること、をその理由として挙げている。Elekta社によると、Gradyの装置は撮像に用いるものであって、重量のあるリニアックを想定していないし、リニアックでは重量が大きいことに起因する精度の欠如が問題となるのに対し、Gradyはそのような問題を考慮してはいない。

 

CAFC判決>

CAFCは、当業者には上記文献を組み合わせる動機がなかったというElekta社の主張に同意しなかった。特に、CAFCは、648特許の審査過程に着目している。すなわち審査過程において、審査官は、撮像装置に関する文献を含む先行技術[1]に基づいて、648特許の出願を拒絶したが、Elekta社は、これらの文献が関連分野の先行技術ではないと主張しなかった。そのような主張をする代わりに、先行技術における放射線ソースに相当するものは、クレームで規定されているように回転可能な連結部を介して載置台に取り付けられてはいないと主張することにより、拒絶理由は解消された。同様に、審査官は、許可通知において放射線ソースの載置台に関する技術水準を示すものとして撮像に関する文献を引用したが、Elekta社は、特許発行料を支払う前に、この認定に対して異議を唱えなかった。更に、出願人は、情報開示陳述書 (IDS) により先行技術文献を提出しており、これらの文献には撮像装置に関連する文献(クレームの拒絶には用いられていない)も含まれていた[2]

先行技術の教示する内容に関して、CAFCはまた、Ruchalaは以下の内容を教示していると述べている。すなわち、撮像と放射線照射の組み合わせは有効であり、放射線照射の精度を向上させ、放射線の到達を確認できることが、その理由として教示されるとしている。

最後に、CAFCは、ZAP社の専門家証言にも言及している。この専門家証言によれば、患者を撮像装置から別個の治療装置に移動する必要がなくなると共に、患者の放射線への被曝を減らすことができるため、上記文献の組み合わせを行う動機があったする意見が示されている。

 

以上より、CAFCは、当該技術分野の当業者がGradyRuchalaを組み合わせる動機を有していたとするPTABの認定を実質的に裏付ける証拠があると結論付けた。その結果、CAFCは、648特許を無効とするPTABの決定を支持した。

 

 本件記載の判決文(CAFC判決)は以下のサイトから入手可能です。

21-1985.OPINION.9-21-2023_2193832.pdf (uscourts.gov)



[1] 648特許の出願の最初の拒絶に用いられた文献は、当事者系レビューにおいて無効の根拠とされた文献とは異なっている。

[2] このIDSに関する事実についてCAFCは直接的に言及していないが、本件の包袋を調べれば確認できる。

本欄の担当
伊東国際特許事務所
所長 弁理士 伊東 忠重
副所長 弁理士 吉田 千秋
担当: 弊所米国オフィスIPUSA PLLC
米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 有馬 佑輔
米国特許弁護士 加藤奈津子
PAGE TOP