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用語の解釈に関する連邦巡回控訴裁判所 (CAFC)判決 K-fee System GmbH v. Nespresso USA, Inc. (Federal Circuit, December 26, 2023)

連邦巡回控訴裁判所 (以下CAFC)による本判決において、連邦巡回控訴裁判所 (以下CAFC) は、「バーコード」という語を解釈し、地裁による狭義の解釈は出願人が審査段階で行った陳述によって正当化されないと結論付けました。

 

<背景>

K-fee System GmbH (以下K-fee) は、三つの米国特許[1]を保有しており、これらの特許の明細書は同様の内容となっている。これらの特許は、情報を表示するコーヒーマシンカプセルに関するもので、コーヒーマシンに接続されたデバイスによって読み取られて、カプセルが互換性のないマシンで使用されるのを防ぐことができるようにしている。当該情報では、温度や水量など、カプセル固有の醸造パラメータを指定することもできる。当該情報はバーコードにエンコードされる。

 

米国特許第10,858,176号のクレーム1は以下のとおりである。

1. A method of making a coffee beverage comprising:

providing an apparatus including a barcode reader;

inserting a first portion capsule into the apparatus, the first portion capsule including . . . an opposing bottom side with a first barcode located on the bottom side. . .

 

K-feeは、カリフォルニア州中部地区地裁において、Nespresso USA, Inc. (以下Nespresso) を上記三つの特許侵害で訴えた。クレーム解釈にあたり、地裁は、ヨーロッパ特許庁に提出された異議申立てについて分析を行った。この異議申立てにおいて、K-feeの関連ヨーロッパ特許[2]Jarisch[3]によって無効であるという主張がなされた。

当該ヨーロッパ特許のクレームが引用文献と異なることを示すために、K-feeは、文献Jarischについて、特に次のような主張を行った。文献Jarischが「開示しているのは『ビットコード[4]』であり、バーコードではない。なぜなら、バーコードは 常に可変幅のバーで構成されるため、『0』や『1』などの二つのバイナリ記号以上のものを含むからである」という主張である。地裁は、上記主張を、バーコードは二つのバイナリ記号以上のものを含んでいなければならず、二つのバイナリ記号のみを含むコードはバーコードではないことを意味すると解釈した。

この解釈に基づき、地裁は、Nespressoの被疑製品が、二つの記号のみを含むコードを使用していたことから、カリフォルニアでの訴訟を棄却した。

これに対して、K-feeは、Jarischでは、均一幅のダークなバーとライトなバーが交互に存在するのに対し、Nespressoの被疑製品では、可変幅のダークなバーとライトなバーが交互に存在する (Nespressoの被疑製品をバーコードとして認定することを可能にする) として、Nespressoの被疑製品はJarischとは異なると主張した。

K-feeは、CAFCに対して、地裁のクレーム解釈と棄却を不服として控訴した。特に、K-feeは、地裁が「バーコード」の通常の意味を不当に狭め、K-feeのヨーロッパ特許庁での陳述を用語の解釈に用いることで、審査経過での放棄 -prosecution disclaimerを暗に認定している[5]と主張した。

 

CAFC判決>

CAFCは、「バーコード」の意味がクレーム又は明細書によって明確にされていないことについて両当事者が合意していることを特に指摘して、分析を始めている。次いで、CAFCは、ヨーロッパ特許庁での異議申立てにおいてなされたK-feeの陳述の重要性を検討している。ここで、CAFCは、異議申立てに対するK-feeの応答には、「バーコードはビットコードであり得るが、必ずしもビットコードである必要はなく、バイナリコードの特殊な形式である」という陳述が含まれていることを指摘している。また、CAFCは、「バーコードが『ビットコード』であるとしても、『特殊なケース』であり、『ビットコード』のサブセットである」というK-feeの異議申立てにおける陳述にも言及している。

CAFCは、上記により、当業者はビットコードをバーコードではないと結論付けるとした地裁の判断を誤りであるとした。ここで、CAFCは、「可変幅のバーで構成される」ことで「二つのバイナリ記号のみ以上のもの」が存在することになるとK-feeは示唆しているが、Jarischにバーコードが開示されていないとする根拠は、Jarischのコードは「可変幅のバーで構成されていない」ことであると理由付けた。これにより、CAFCは、K-feeがヨーロッパ特許庁に提出した「バーコード」に関する当業者の理解から確認できるのは、バーコードが可変幅のバーを使用している (視覚的な外観の問題である) ことだけであると結論付けた。そのため、CAFCは、「バーコード」の通常の意味は「ビットコード」を含まないとした地裁の結論は誤りであると判断し、「バーコード」は、視覚的に不均一な幅のバーが直線的に配列されたシーケンスからなるコードメッセージを意味すると解釈した。

CAFCは、上記のように認定された「バーコード」の通常の意味とは別に、K-feeがヨーロッパ特許庁において十分に明確な行為でもって「バーコード」の特別な定義を規定したかどうかという問題を検討した。ここで、CAFCは、特許権者が自ら辞書編集者 lexicographer – として行為を行うためには、係争中のクレーム用語の定義をその一般的かつ通常の意味とは異なるものとして明確に示し、用語を再定義する意図を明確に示さなければならないと指摘している。CAFCは、本件においてK-feeはヨーロッパ特許庁に対してK-feeが意図するバーコードの意味は通常の意味であると一貫して主張しており、K-feeのヨーロッパ特許庁に対する主張は再定義する明確な意図とは程遠いとした。

CAFCは、K-feeが用語の一般的な意味を放棄 -disclaim- したかどうかという問題についても検討した。ここで、CAFCは、クレーム範囲の放棄 -disclaimer- 又は否認 disavowal – は明白かつ間違いようのないものでなければならず、たまたま1つの陳述が対象事項を放棄 -disclaim- しているように見受けられたとしても、審査経過全体を見れば、特許権者が明白かつ間違いようのない放棄をしていないことが示される場合があると指摘した。CAFCの指摘によれば、本件において、K-feeがヨーロッパ特許庁に対して差別化を図ったのはJarischそのものであり、Jarischにはバーコードが可変幅のバーを有するという開示はない。CAFCは、クレーム範囲を明確に否認することによりJarischから差別化したのではなく、Jarischがクレームの範囲内に元々なかったのであると結論付けた。

その結果、CAFCは、クレーム解釈と一致する手続きを取るよう求めて、本件を地裁に差し戻した。

 

<留意すべきポイント>

かつてCAFCは、外国の特許庁で行われた陳述は、クレーム解釈に関連する可能性があると判示しています。その一方で、外国で特許の保護を取得するための法的及び手続的な要件は異なることから、外国での特定の陳述を考慮に入れることが対応米国案件でのクレーム解釈分析においては不適切になる可能性があるとして、外国におけるファイルヒストリーに無差別に依存することを警告しています[6]

本件において、地裁は、出願人がヨーロッパの異議申立て中に行われた陳述を情報開示陳述書として米国特許商標庁に開示したことから、内在証拠の一部として分析しました。このような開示は、例えば、「(i) 特許性がないという庁の主張に反対する、又は (ii) 特許性があるという議論を主張する、にあたり、出願人が取る立場に反論する又は矛盾する」情報の開示を要求する規則1.56を遵守することにつながります。一方、外国での陳述を審査経過において開示して、内在証拠 (請求の範囲、書面による説明、審査経過を含む) の一部にすることで、裁判所がクレーム解釈においてそのような陳述に依拠する可能性を高めることになります。

出願の準備段階に関して言えば、出願人は、主要なクレーム用語を検討し、用語が複数の意味を持つ可能性があるかどうか、及び用語が包含する様々な意味の説明を例とともに明細書に含めることに利益はあるか、を検討することが好ましいと言えます。

審査段階に関して言えば、審査経過での放棄 -prosecution disclaimer- と認定される基準は高い(放棄と認定される危険性は低い)ですが、出願人は、主要なクレーム用語の限定的な定義として解釈される可能性のある陳述をすることなく、先行技術との差別化を図るように注意して対応するべきです。

 

 本件記載の判決文(CAFC判決)は以下のサイトから入手可能です。

22-2042.OPINION.12-26-2023_2244064.pdf (uscourts.gov)



[1] 米国特許第10,858,176号、第10,858,177号、及び第10,870,531

[2] EP 3 023 362

[3] WO 2011/141532 (出願人はNestecである)

[4] バイナリコードとも呼ばれる。

[5] 地裁は、K-feeの主張を明示的にdisclaimerと認定してはいない。

[6] Starhome GmbH v. AT&T Mobility LLC, 743 F.3d 849, 858 (Fed. Cir. 2014).

本欄の担当
伊東国際特許事務所
所長 弁理士 伊東 忠重
副所長 弁理士 吉田 千秋
担当: 弊所米国オフィスIPUSA PLLC
米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 加藤奈津子
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