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米国特許適格性に関する連邦巡回控訴裁判所 (CAFC)判決 AI Visualize, Inc. v. Nuance Communications, Inc., Mach7 Technologies, Inc. (Federal Circuit, April 4, 2024)

本判決において、連邦巡回控訴裁判所は (以下CAFC)、クレームの文言が過度な上位概念として記載されている場合、35 U.S.C. §101(特許適格性)を充足しているかに関する判断につき、明細書に記載されているが、クレームに記載されていない特徴については特許性における重みを与えない、と判示しました。

 

<背景>

デラウェア地方裁判所において、AI VisualizeNuance Communications(以下Nuance)、及びMach7 Technologies (以下Mach7)を特許侵害で提訴した。これに対して、Nuance及びMach7は連邦民事訴訟規則 12(b)(6) に基づき、請求の記載不備に基づき訴訟を棄却するよう申し立てを行った。当該申し立てにおいて、Nuance及びMach7は、AI Visualizeの特許は特許適格性を有さない、と主張した。デラウエア地方裁判所はNuanceMach7の主張に同意し、AI Visualizeの侵害請求を棄却した。これに対し、AI Visualize は、デラウエア地方裁判所の決定を不服としてCAFCに控訴した。

AI Visualizeは、米国特許第8,701,167号(以下167特許)、米国特許第9,106,609号(以下609特許)、米国特許第9,438,667号(以下667特許)、米国特許第10,930,397号(以下397特許)を保有している。前記特許はすべて医療用スキャンの視覚化、特に膨大な「ボリューム・ビジュアライゼーション・データセット」(以下VVD)からの 3D 仮想ビューの作成に関連している。更に、AI Visualizeの発明により、ユーザーは従来技術の発明で必要とされていた高速通信リンク経由ではなく、低帯域幅の Web ポータル経由で 3D 仮想ビューにアクセスできることが特徴である。前記特許の明細書では、患者のCTスキャンまたはMRIスキャンにより、臓器などの患者の身体をスキャンし得られた複数の間隔をあけた 2 次元平面断面で構成される大規模な 3Dボリュームデータセットが生成される、と記載していた。更に、前記特許の明細書には、前記3D仮想ビューが「特定の位置及び角度でオブジェクトのボリュームを切断する平面を選択することによって生成され」、前記3D仮想ビューは、「所望の視点からとらえた画像を示す3Dオブジェクトの2次元表現であり、選択されたビューの平面に垂直な方向において当該平面の背後にあるオブジェクトの深さを示す画像、またはオブジェクトを見通す画像を含む場合がある」[1]と記載されていた。

 

CAFC判決>

特許適格性のアリス解析[2]のステップ1について、CAFCはデラウエア地方裁判所に同意し、AI Visualizeのクレームは抽象概念に関するものである(directed toward an abstract idea)、と判断した。つまり、CAFCは、特許適格性を有さないと判示されたElectric Power Group[3]の発明と同様に、AI Visualizeのクレームはデータを変換し、コンピュータによりデータを収集し、操作、表示するという抽象概念に関するものである、と判断した。これに対し、AI Visualizeは、クレームにはクライアントコンピュータ上で即座に(“on the fly”)生成される仮想ビューが記載されているため、クレームは抽象概念に関するものではない、と主張した。しかし、CAFCは、当該クレームの文言はVVDの一部に対する操作にすぎず、それは抽象的なデータ操作に該当する、と解釈した。即ち、CAFCは、仮想ビューを生成することは抽象概念の一部にすぎない、と解釈した。また、AI Visualizeは、明細書にはデータセットから特定のビューがどのように選択されるかに関する記載が含まれ、上記クレーム限定(仮想ビューの生成)が技術的問題に対する技術的解決方法を提供している、と主張した。しかし、CAFCは、クレームに記載されていない明細書に記載の特徴をクレームに読み込むことを拒絶し、クレーム自身は仮想ビューを生成する手順を説明する具体的なステップを記載しておらず、技術的問題に対する技術的解決方法であるとみなすことは出来ない、と判断した。

上記特許適格性のアリス解析のステップ2について、CAFCは、デラウエア地方裁判所に同意し、AI Visualizeのクレームは抽象概念を越えるものではなく、また従来からあるコンピュータの機能やコンポーネントにすぎない、と判示した。更に、CAFCは、審査記録において前記仮想ビューは当該技術分野で知られていたことが示されており、AI Visualizeもそれを認めた、と指摘した。しかし、AI Visualizeは、クライアントコンピュータ上にて前記仮想ビューを即座に( “on the fly”“in real-time”、或いは“on demand”)生成するという特徴は抽象概念を著しく超えているものである、と主張した。CAFCはこの主張を退け、コンテンツを送信するという抽象概念を実用的に応用していないため、カスタマイズされたユーザインタフェースのみでは、抽象概念を特許適格性のある主題へと変化させることはできない、と述べた[4]。更に、CAFCは、Electric Power Groupにおいても、処理されたデータをリアルタイムでユーザに示す特徴が記載されていたが、特許適格性を有さないと判示されていた、と指摘した[5]

従って、CAFCは、クレームには通常とは異なる技術が規定されている、或いは仮想ビューの生成という抽象概念の具体的な応用が含まれている、との主張の根拠となる十分な事実をAI Visualizeは示していない、と判示した。

 

<留意すべきポイント>

CAFCが明細書の開示に対して特許性における重みを与えなかった点に関して、609特許の代表的なクレームは「中央記憶媒体内の視覚化データセットから、要求されたビューの要求されたフレームを生成する」との特徴を記載しています。即ち、前記クレーム文言は「VVDから仮想ビューを生成する」と記載していますが、前記仮想ビューの生成工程に関する詳細を記載していません。その結果、CAFCは、クレームにおける上記生成工程の詳細の欠如に基づき、特許適格性の欠如に基づく特許無効の主張に対するAI Visualizeの反論を退けました。即ち、CAFCは、クレームが過度に上位概念により記載されているため、クレームと明細書の開示を十分に結びつけることができない、と判断しました。

特許審査の観点から、特許適格性の欠如に基づく拒絶に反論する場合、クレームに記載せず、明細書のみに記載されている技術的開示についての主張をPTOが考慮し受け入れるために、どの程度の詳細な特徴をクレームに記載するかにつき判断することは困難です。つまり、当該判決に基づき、特許適格性の欠如に基づきクレームが無効であるとの主張に対して適切に反論するためには、単に「VVDから仮想ビューを生成する」との記載以上の詳細な記載が必要であることは明白ですが、CAFCはクレームにどの程度の詳細な記載が必要であるかにつき一般的なガイダンスを提供していません。

従って、実際の実務では、広いクレーム範囲を取得するよりも、早期の権利化を図る場合は、技術的問題に対する技術的解決方法に関する詳細をクレームに可能な限り記載することが適切である、と思われます。しかし、早期権利化よりも広いクレーム範囲を優先する場合、より適切なアプローチは、権利範囲の異なる複数のクレームセットを作成することです。例えば、6つの個別のクレームのセットの場合、クレーム1~6は技術的問題に対する技術的解決方法に関する詳細を含まない広い文言で発明の特徴を記載し、クレーム7~12には上記の詳細を含む狭い文言で発明の特徴を記載することが考えられます。上記のアプローチであれば、仮にクレーム1~6については特許適格性の要件を満たすことができないとしても、クレーム7~12については特許適格性の要件を満たすことができる可能性が高い、と言えます。

 

 本件記載の判決文(CAFC判決)は以下のサイトから入手可能です。

22-2109.OPINION.4-4-2024_2296276.pdf (uscourts.gov)



[1] 167特許のコラム1、ライン26~45ご参照

[2] Alice Corp. Pty. Ltd. v. CLS Bank Int’l, 573 U.S. 208, 216, 110 USPQ2d 1976, 1980 (2014), also see MPEP §2106

[3] Electric Power Group v. Alstom, S.A., 830 F.3d 1350, 1353-54, 119 USPQ2d 1739, 1741-42 (Fed. Cir. 2016)

[4] Affinity Labs of Tex. v. DirecTV, LLC, 838 F.3d 1253, 1256, 120 USPQ2d 1201, 1202 (Fed. Cir. 2016)

[5] Elec. Power Grp., 830 F.3d at 1356

本欄の担当
伊東国際特許事務所
所長 弁理士 伊東 忠重
副所長 弁理士 吉田 千秋
担当: 弊所米国オフィスIPUSA PLLC
米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 有馬佑輔
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