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日本の判決速報・概要

容器入り飲料(生ジョッキ缶)審決取消請求事件 ~知財高裁 令和6年12月19日 令和6年(行ケ)第10034号~

缶の開栓後、泡が盛り上がって現れる変化する意匠(いわゆる「動的意匠」)の創作が意匠法上の意匠に該当するか否かが争われた事件につき、知財高裁は、意匠法上の意匠に該当しないとした特許庁の判断を支持し、請求人の請求を棄却しました。

出願意匠の内容、特許庁とのやりとりなど判決の記載からまとめてみました。

 

1 出願意匠の願書記載事項

【意匠に係る物品】「容器入り飲料」

【意匠に係る物品の説明】「本物品は容器入りの発泡性飲料であり、開蓋後に容器内の圧力が開放されると、容器内周面より起泡する。」

【意匠の説明】「ピンク色で着色された部分以外の部分が、意匠登録を受けようとする部分である。」「・・・開蓋後、容器内周面より起泡し、『開蓋後の平面図』に示す状態から『発泡状態の変化を示す開蓋後の平面図1~10』に示す状態へと発泡状態が経時的に変化する。『開蓋後の平面図』に示す状態から『発泡状態の変化を示す開蓋後の平面図1~10』に示す状態までの変化の時間は10秒である。」

 

2 特許庁判断の要旨

(1)審査段階の拒絶理由

審査官の拒絶理由は、この意匠登録を受けようとする部分は願書及び添付の図面から判断すると開口縁を含む容器の内側及びその内容物(発泡性飲料)であると見受けられるが、当該「容器入り飲料」は、液体であって、包装用缶に包装されることから初めてその内部に留まるものであり、そのもの固有の形状等を有するものということはできず、意匠法第2条第1項に規定する意匠を構成するものとは認められない、という主旨のものでした。

 

(2)審決の要旨

拒絶査定不服審判において、審判合議体は、物品の形状等に係る意匠は、市場で流通する有体物である動産の定形性を有する形状等であって、人が視覚を通じてその形状等を認識することができ、その結果、人に美感を起こさせる、という全ての要件を満たすものでなければならないところ、本願意匠に係る物品「容器入り飲料」の形状等は、意匠法上の意匠を構成するものとはいえないから、本願意匠は、意匠法2条1項に規定する意匠を構成するものとは認められないとして、拒絶査定を支持しました。

 

3 原告の主張の要旨

(1)本願意匠の要旨

本願意匠の要旨は、開蓋後の濃褐色の液体及び液体の上方を順次覆うように出現する乳白色の「泡沫」の総体が、濃褐色の液体の上方を覆うように盛り上がって変化する形状等であると認定されるべきであり、個々の一つ一つの泡の状態は、認識されない

 

(2)動的意匠と本願意匠の定型性

(ア)本願意匠は、いわゆる動的意匠であり、動的意匠は、「物品の機能に基づいて、一定の規則性をもって変化する」形態であれば、「定形性」を有することになると解される。

(イ)本願意匠の要旨は、生ジョッキ缶という物品の機能に基づいて、一定の規則性をもって変化するものであり、定形性の要件を満たすことになる。

(ウ)本願意匠では、容器内面の塗装に使用する塗料の添加物の種類や、塗布後の最適な膜厚等の諸条件を詳細に検討し、泡立ちのコントロールポイントを探し、発泡態様の最適化を行っている。その結果、泡の総体は、創作者が意図したとおり、一定の規則性をもって変化するものである。

(エ)原告による特許第7161596号が登録されていることは、すなわち、「自然法則を利用した」(特許法2条1項)ものであり、発明の作用効果等を繰り返し実現することが可能、つまり、反復可能性の要件を満たしていることになる。

 

4 裁判所の判断の要旨

(1)動的意匠について定める意匠法6条4項の解釈について

裁判所は、昭和34年法律第125号による改正により導入された意匠法6条4項(平成10年法律第51号による改正前の意匠法6条5項)の立法経緯に触れ、物品自身が動くことは物品そのものであると考え、動的意匠が一意匠であることを前提とした上で、特別の例外規定を置くことなく、意匠法6条5項(現同条4項)を、「その変化の前後にわたるその物品の形状」について意匠登録を受けようとするとの文言に修正して、意匠法改正をすることとされたものであるとし、組物の意匠(意匠法8条)と内装の意匠(意匠法8条の2)については、一意匠一出願(意匠法7条)の原則の例外として、それぞれ別途規定が置かれたものであるところ、動的意匠についてはこれらとは異なり、特段の規定が置かれていないから、通常の意匠と同様に、上記一意匠一出願の要件(意匠法7条)を含め、意匠法2条、3条等に定められた意匠一般の要件を満たすことが必要であるとしました。

そして、意匠法6条4項に定める動的意匠のうち物品の形状が変化するものについて、その物品の形状は、変化の前後にわたるいずれの状態においても、意匠法上の物品としての要件、すなわち物品の属性として一定の期間、一定の形状があり、その形状認識の資料である境界を捉えることのできる定形性があり、その変化の態様に一定の規則性があるか変化する形状が定常的なものであることが必要であるとしました。

 

(2)本願意匠の「定型性」について

裁判所は、原告の「定型性」を有するとの主張に対し、本願の添付写真に現れる形状等の変化には、「定型性」が具現化しているはずであるところ、本願の添付写真の「発砲状態の変化を示す」各写真に現れた気泡の総体の形状及びその変化からは、定まった形状ないし規則性を見出すことができず、開栓の都度、添付写真と同じ形状等が再現されるとも想定し難いとして、その「定型性」を否定しました。 

その判断にあたり、本願意匠を実施した商品とされる「生ジョッキ缶」についての公開情報にも言及し、実際の開栓時にも、気泡の総体の形状及びその変化は、開栓ごとに異なり、開栓の都度、本願の願書の添付写真と同じ形状等が再現されるものとは認められず、本願意匠に示された気泡の発生及び消滅の状況が定形性を欠き、変化の態様に一定の規則性はなく、本願意匠は、意匠法に定める意匠に該当しないから、これと同旨の本件審決の認定及び判断に誤りは認められないと判断しました。

また、特許に係る技術により、缶内に充填された飲用可能液が缶の上端部が隠れるように発泡するものであったとしても、必ずしも本願の願書の記載及び添付写真に示されたとおりに物品の形状が変化することが示されているとはいえないとし、本願意匠は、意匠法に定める意匠に該当しないとして、原告の請求を棄却したものです。

 

5 この判決から得られること

(1)意匠法第6条4項の規定を立法経緯から整理した点は、現在の意匠創作においても、「変化する意匠」は画像意匠などにもよく見られる態様であり、実務の参考になるものと思います。

(2)この事件では、創作のポイントが、開栓後に泡が盛り上がるデザインの創作であることから、それをそのまま現すために、いわゆる動的意匠としての態様で意匠登録出願したところ、その変化の態様に「定型性」がないとされました。しかし、この創作は従来には見られないもので(しかも視覚に訴えるかたちで)、多くの消費者が感動体験を持って迎え入れたのではないでしょうか。このような創作を確実に権利化するため、「定型性」要件というリスクを指摘されない出願を別途用意しておくことも考えられたかもしれません。

本欄の担当
本欄の担当
弁理士法人ITOH
所長・弁理士 伊東 忠重
担当:意匠部 担当部長・弁理士 北代真一
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