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意匠関連の中国最高裁判決のご紹介 (2022)高法知行終393号 (2023)高法知行終42号

近年、意匠は、知財戦略において重要性が高まっており、企業の権利保護や市場展開において重要な役割を担っています。本号では、最近代表的な判例として取り上げられた中国最高人民法院(以下「最高裁」という。)の意匠関連判決の中から2件を選び、その裁判要旨および要点を整理し、実務の一助としてここにてご紹介いたします。

 

 判例1:既存意匠の公開日の判断((2022)高法知行終393)

 

 【裁判要旨】

 その他の証拠による裏付けが乏しい場合、既存意匠の物証上の銘板に明記された「出荷日」は、通常、直接に「販売公開日」又は「使用公開日」と認定することはできない。

 関連条文:中国専利法第23条第1項、同条第2項

 

 【案件の概要】

 福建泉工株式会社(以下「泉工社」という。)は、「全自動ブロック成形機(T10VA)」と題した第201430554662.4号意匠権を有する。

 2020年8月20日に、高唐県斉魯液圧株式社(以下「斉魯社」という。)は、中国国家知識産権局(以下「CNIPA」という。)に、本件意匠は2008年に改正された専利法第23条第1項、第2項の規定に合致しないことを主な理由として、本意匠権の全部無効宣告を請求した。

 2021年4月26日に、CNIPAは、維持審決を下した。審決の要点は以下の通りである。

  • 調査の結果、証拠6は形式上の明らかな瑕疵がない。証拠6を総合的に考慮して認定できる事実は、河北省易県易州鎮の某村村民委員会付近の生産作業場にブロック成形機が1台あることである。

【証拠6:ブロック成形機の一部(油圧装置)】[1]

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  • 一方、当該機器の出荷日について、機器表面の銘板は技術上取り外し可能な部分であるため、製品の販売契約書、請求書等その他の関連証拠がなく銘板のみがある場合には、銘板上の情報が当該機器と確定的な対応性を有すると認定することは困難であり、当該銘板上の情報のみに基づいて当該機器の出荷日を確定することもできない。

【証拠6に係る機器の銘板のイメージ図】[2]

 

image

  • したがって、証拠6に示したブロック成形機に係る意匠は、本件意匠の既存意匠とすることはできず、無効宣告請求人が証拠6とその他の証拠を組み合わせた後に本件意匠が専利法第23条第2項の規定に合致するか否かについての主張は成立しない。

 一審裁判所(すなわち、「北京知識産権法院」)は、斉魯社の訴訟請求を棄却する旨の行政判決を下した。斉魯社は、当該判決を不服として上訴した。2023年9月14日に、最高裁は、上訴を棄却し、原判決を維持する旨の行政判決を下した。

 

 【最高裁の判断】

 専利法第23条第4項には、「本法にいう既存意匠とは、出願日以前に国内外において公衆に知られていた意匠をいう。」と規定されている。ここでいう「公衆に知られていた」とは、公衆が実際に当該意匠を知っているか否かにかかわらず、公衆が知ろうと思えば知ることができる状態にあることを指す。公衆に知られていた方法は、「出版物の公開」や「その他の方法による公開」(例えば、使用公開、販売公開、展示公開等)が含まれる。本件において、証拠6に係る機器の意匠が本件意匠の既存意匠とすることができるか否かは、

 まず、機器上の銘板が信用できるか否か、

 そして、当該銘板が信用できる場合、銘板に記載された出荷日は、当該機器の意匠が公衆に知られた日であると認定できるか否か、

という2つの問題に関わる。

 

 ア)機器上の銘板が信用できるか否かについて

 対象審決では、銘板は技術的に取り外し可能な部分であるため、販売契約書、請求書、送り状、保証書、修理記録などその他の関連証拠がない場合には、銘板上の情報が当該機器と確定的な対応性を有すると認定することは困難であるとされた。

 これに対し、最高裁は、機器上の銘板は信用すべきであるとした。その理由は以下のとおりである。

 まず、当該機器がどの主体から別の主体に販売されたか、現在どの主体が占有使用しているか等の事実は、機器上の銘板が真実で信用できるか否かとは関連がない。すなわち、販売契約書、請求書、送り状等の証拠と銘板の真実性認定とは関連がない。

 また、銘板は、技術的には取り外し可能な部分であるが、大型機械設備の身分証明としては、取り付け位置、固定方式等においていずれも永久的な固定を目標としており、破壊せず、痕跡を残さない方式で取り外し交換することは困難である。この点では、消耗品として交換が必要な機器部品とは異なる。しかも、立証責任の分配の観点からでは、機器上の銘板が取り外され交換されたという事実については、泉工社が立証責任を負うべきである。しかしながら、同社は、無効宣告請求及び一審、二審のいずれにおいても、これを裏付けるいかなる証拠も提出しておらず、銘板が取り外され交換された可能性についても、合理的な説明を一切行っていない。

 イ)銘板に記載の出荷日を当該機器の意匠が公衆に知られた日と認定できるか否かについて

 斉魯社は、銘板に記載の出荷日は当該機器の意匠の公開日であると主張した。

 これに対し、最高裁は、本件の証拠を総合的に考慮すると、銘板に記載の出荷日である「2014年8月29日」を当該機器の意匠が公衆に知られた日と認定することはできないと判断した。その理由は以下のとおりである。

 「出荷日」という概念は、主として製品品質法上の意味を有するものであり、製品の保証期間を算定するために用いられる。しかしながら、専利法においては、この「出荷日」自体が特定の法的意義を持つものではない。したがって、「出荷日」をもって「販売公開日」または「公開日」と単純に同一視することはできず、個別の事案に即して認定する必要がある。

 本件において、対象となるT10VA型ブロック成形機は大型機械設備である。出荷後、輸送や組立といった工程を経て初めてその外観が顕在化するため、これらの工程が完了していない段階においては、当該機械の意匠が公衆が知ろうと思えば知ることができる状態にあったとはいえない。

 したがって、銘板上に記載の出荷日は、当該成形機がその時点で既に組み立てられ、全体の形式で外観を呈していたことを意味するものではなく、当該出荷日をもって本機器の意匠の「販売公開日」と認定することはできない。

 さらに、本件登録意匠の出願日は2014年12月26日であるが、斉魯社は、証拠6に示された機器が出願日前にすでに組み立てられ、使用されていたことを証明するいかなる証拠も提出していない。

 したがって、銘板上の工場出荷日をもって当該機器の意匠の「公開日」と認定することはできない。

 以上のように、無効宣告請求における証拠6の機器に係る意匠は、本件意匠の既存意匠とすることはできない。

 

 <実務上の留意点>

 1.「出荷日」≠「公開日」

 機器の「出荷日」は製品品質法上の意味を有するに過ぎず、それだけでは意匠が「公衆に知られた日」として直ちに認定されるものではありません。特に大型機械の場合、輸送・組立等を経て外観が顕在化するため、実際の「公開日」は個別に検討される必要があります。

 2.銘板の証拠力と信用性の判断基準

 銘板は取り外し可能であっても、取り外し・交換が容易でない大型設備においては、基本的に信用性が認められる傾向にあります。銘板の真実性を否定する主張を行う場合には、当事者にその立証責任が課されます。

 3.既存意匠の立証

 組立・使用状況を示す補完的証拠が必要となり、出荷日や銘板情報だけでなく、販売契約、組立記録、現地写真など、公開の事実を総合的に証明する必要があります。

 

 判例2:専利法第23条第3項における先行権利の認定((2023)高法知行終42号)

 

 【裁判要旨】

 登録意匠に関する権利付与および権利確定に係る行政紛争において、本件意匠の出願日前に取得され、かつ、無効宣告の請求時点においても依然として適法に存在していた権利または利益は、いずれも専利法第23条第3項に規定の「先の合法的権利」(以下、「先行権利」という。)に含まれるべきである。

 関連条文:中国専利法第23条第3項

 

 【案件の概要】

 馬某氏は、「ビール缶」と題した第201830256268.0号意匠権を有する。本件意匠の出願日は2018年5月28日、設定登録日は2018年12月18日である。本件意匠の缶体には「V8」の文字が強調表示されている。

 某ビール工貿有限公司(以下、「ビール社」という。)は、「V8」に係る第22475245号登録商標を有する。当該商標の出願日は2016年12月30日、初歩審定公告日は2018年7月27日、登録日は2018年10月28日である。

 ビール社は、本件意匠が専利法第23条第3項の規定に合致しないことを理由として、CNIPAに本意匠権の無効宣告を請求した。2020年11月3日に、CNIPAは、第4675号維持審決を下した。ビール社は、これを不服として、北京知識産権法院(以下、「一審裁判所」という。)に提訴した。

 一審裁判所は、ビール社が「V8」の登録商標の専用権を取得したのは、その登録日以降であり、本件意匠の出願日よりも後であることから、本件意匠の出願日前に既に取得された登録商標の専用権ではなく、本件意匠と抵触する先行権利には当たらないと判断し、ビール社の訴訟請求を却下した。ビール社は、これを不服として上訴した。

 最高裁は、2023年9月22日に、下記の行政判決を下した。

  • 一審裁判所の行政判決を取り消すこと。
  • 第4675号無効宣告請求の審決を取り消すこと。
  • 係る無効宣告請求について改めて審決を下すよう、CNIPAに命じること。

 

 【最高裁の判断】

 専利法第23条第3項に規定の「意匠権が付与される意匠は、出願日以前に既に取得された他人の合法的権利と抵触してはならない」という条文の立法趣旨は、意匠の実施が他人の先行する合法的権利と抵触することを回避する点にある。当該意匠の実施により、他人の先行権利を侵害するおそれがある場合には、いずれも同項の規制対象に該当する。

 したがって、意匠権の権利付与および権利確定に係る行政紛争の審理においては、専利法第23条第3項にいう「合法的権利」について、狭義に解釈すべきではない。一般的には、法に基づき享有され、本件意匠権の出願日前に既に取得され、かつ、無効宣告の請求時点において有効に維持されていた権利または利益は、すべて本条項にいう「合法的権利」に含まれるべきである。

 商標権は、専利法第23条第3項に規定される「合法的権利」の一つに該当する。商標は、登録商標と未登録商標とに区分されるが、商標権者は登録商標について専用権を有するほか、使用により既に商標と一定の対応関係を有し、実際に商品の出所識別機能を果たしている未登録商標についても、合法的利益を享有する。

 本件において、ビール社が主張する先行権利には、「V8」という標章の先行使用に基づき取得された先行利益が含まれている。ビール社の前身である大理某社は、本件意匠の出願日より12年以上前から、「大理ビールV8」および「大理V8」といった標章をビール製品に使用・宣伝しており、高い知名度と市場影響力を有していた。これにより、消費者の間では「大理ビールV8」や「大理V8」は大理某社の製品として認識され、「V8」という標章は同社と一定の特定的関連性を形成するに至っていた。

 一方で、馬某氏の居住地は当該ビール製品の主要販売地域に位置しており、その状況から見ても、先行する商標標章を模倣・複製した可能性が客観的に認められる。

 以上の事情から、本件意匠は専利法第23条第3項に違反するものと認められ、一審判決は取り消され、無効宣告請求についても再審査を命じる旨の判決が下された。

 

 <実務上の留意点>

 1.「先行権利」の認定基準

 専利法第23条第3項における「合法的権利」は、単に登録された権利に限定されるものではなく、出願日前に既に取得され、かつ無効宣告請求時点において有効に維持されていた権利または利益を含むと解されます。

 2.未登録商標が先行権利に該当するための要件

 市場で使用され、識別性を獲得した未登録商標についても、出所表示機能を有する場合には「先行権利」として認められ得ます。その該当性の判断においては、過去の使用実績・知名度・市場影響力が重要な判断要素となります。

 3.模倣可能性がある場合の抵触判断

 製品の販売地域と意匠権者の所在地、商標の使用状況等を総合的に考慮し、模倣・混同の可能性が合理的に導かれる場合には、意匠権が無効とされる可能性があります。

 

【参考文献】

[1] 本件に関する無効宣告請求において提出された証拠の一部としてその審決に提示されたものです。

[2] 本件に関する審決および判決には銘板の図示は含まれていないため、ご理解の便宜上、公開情報をもとにAIで生成したイメージ図を本文において提示いたします。

本欄の担当
弁理士法人ITOH
所長・弁理士 伊東 忠重
副所長・弁理士 吉田 千秋
Beijing IPCHA 中国弁理士 張 小珣
担当:中国弁理士 羅 巍

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