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米国特許商標庁(USPTO)における特許審査支援のためAIツール導入の検討、及びジョン・スクワイアズ氏のUSPTO長官就任に向けた上院承認手続における声明について
1.米国特許商標庁(USPTO)が特許審査支援のためAIツール導入を検討
2025年6月4日、米国特許商標庁(USPTO)は、「USPTO向け自動化ソリューション(人工知能を含む)」と題する情報提供依頼書(Request for Information: RFI)およびベンダーとの意見交換の通知を公表しました(以下「RFI」)。
本RFIでは、USPTOが今後数か月以内に、特許審査官および商標審査官を支援し、特許・商標出願の審査期間を短縮するために、大規模な新たな人工知能(AI)機能を導入する予定であることが示されています。また、米国産業界のパートナーに対し、特許および商標審査プロセスの改善に貢献し、出願バックログの削減および出願人データの国内外からの知的財産窃取からの保護を目的とした、AIインフラの国家的変革を推進することへの参加を呼びかけています。
更に、RFIでは、特許および商標の審査効率を向上させる可能性のある情報技術(IT)ソリューションに関する情報提供も求めています。
RFIに添付された「目的声明(Statement of Objectives)」によれば、「先行技術の爆発的な増加および技術革新の加速度的な進展により、最も関連性の高い先行技術を迅速に発見することが一層困難になってきている」とされており、これに対応すべくUSPTOは「特許審査官および一般利用者に対する支援ツールの強化を目的に、高度な情報技術およびAIの開発・導入を進めている」と説明しています。
USPTOは既にAIを活用した特許検索機能を備えており、将来的な開発ロードマップも構築済みですが、「より高度な技術ソリューションの統合によって、特許検索機能を飛躍的に強化し、特許制度全体をさらに強固なものとする独自の機会が得られる」とも述べています。
これらの目標を達成するため、USPTOはベンダーに対し、以下の作業に関連する技術的ソリューションに関する情報提供を求めています:
- 発明の請求項に関連する先行技術の検索(米国特許、外国特許、非特許文献を含む)
- 先行技術検索結果と請求項との比較
- 請求項の構成要素が先行技術のどこに記載されているかの注記
- 新規性および非自明性に関係する先行技術文献の引用
- 各請求項に対応する関連先行技術をマッピングした最終報告書の作成(米国のオフィスアクション形式やPCT第I章・第II章に基づく報告書形式も検討)
今般RFIおよび関連資料は、以下のリンクより入手可能です:
https://sam.gov/opp/7e5d38aa275542da847d9cbf948ab459/view
2.ジョン・スクワイアズ氏のUSPTO長官就任に向けた上院承認手続における声明ついて
2025年6月12日、米国上院司法委員会は、ジョン・スクワイアズ(John Squires)氏を次期米国商務省知的財産担当次官兼米国特許商標庁(USPTO)長官に指名する人事案について、承認に向けた手続きを進めることを決定しました。スクワイアズ氏は、同年3月10日にトランプ大統領によって指名され、5月21日に上院司法委員会にて公聴会が開催されました。
同氏は、5月21日の公聴会に関連して、委員会のメンバーからの書面質問にも回答しました。以下にその内容を纏めます:
- スクワイアズ氏は、AIツールを特許審査に導入し、出願案件のバックログを削減するという上記RFI(情報提供依頼書)の目的に賛同を示しました。
特に、「AIの導入は、特許の質の観点からすべての段階で有益であると考えている。初期段階においては、最先端のAIソフトウェアを補助的に活用し、審査官が出願が特許要件を満たしているかどうかを評価する際に役立てるべきである。実際、民間部門ではすでに無効資料の発見にAIソフトウェアが広く活用されている。世界最高水準の我が国の審査官も、こうしたツールにアクセスし、必要に応じて活用できるべきである。これにより、出願の質が向上し、質の低い特許出願を抑制する自律的な仕組みが生まれ、バックログの削減にもつながる」と述べました。
- また、スクワイアズ氏は、特許適格性(Patent Subject Matter Eligibility)に関する制度改革についても支持を表明しました。
特に、「現在の特許適格性に関する判例は明確性を欠き、混乱と不確実性を米国の特許制度にもたらしている。この不確実性は特許の明確性を損ない、制度に対する信頼を低下させ、特にAIや重要な先端技術分野において米国の競争力の喪失を招いている。明確な基準が求められており、現状の曖昧さは我が国の国際的地位を危うくし、国家安全保障にも影響を及ぼす恐れがある。承認された場合には、議会および本委員会と連携し、我が国の特許法が時代の要請に応え、発明者と国家全体に資する制度となるよう尽力したい」と述べました。
スクワイアズ氏の公聴会での証言および書面質問への回答は、以下のリンクからご覧いただけます:
https://www.judiciary.senate.gov/committee-activity/hearings/05/21/2025/nominations
- 本欄の担当
- 弁理士法人ITОH
所長 弁理士 伊東 忠重
副所長 弁理士 吉田 千秋
担当: 弊所米国オフィスIPUSA PLLC
米国特許弁護士 ハーマン パリス
米国特許弁護士 有馬 佑輔