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元の出願から記載変更した場合のクレーム解釈に関する連邦巡回控訴裁判所判決 FMC CORPORATION v. SHARDA USA, LLC (Federal Circuit, August 1, 2025)

本件において、連邦巡回控訴裁判所 (以下CAFC) は、特許明細書を意図的に変更することによって出願日の利益を主張するもととなる出願と実質的に異なるものとなった場合、裁判所による特許クレームの最終的な解釈に影響を与える可能性があるとの判断を示しました。詳細は以下のとおりです。

 

<背景>

FMC社は、米国特許第9,107,416号及び9,596,857号を保有している。これらの特許は、殺虫剤とダニ駆除剤に関するものであり、いずれも米国仮出願60/752,979に基づく出願日の利益を主張している。

 

米国特許第9,107,416号のクレーム1は以下のとおりである。

 

  1. A miticidal composition comprising bifenthrin and a cyano-pyrethroid selected from the group consisting of deltamethrin, cyfluthrin, alpha-cypermethrin, zeta-cypermethrin, lambda-cyhalothrin, and esfenvalerate, wherein the weight ratio of bifenthrin to cyano-pyrethroid is from 10:1 to 1:30.

 

Sharda社はビフェントリン及びゼタシペルメトリンを含有する殺虫剤を販売している。FMC社はペンシルベニア州東部地区連邦裁判所においてSharda社を訴え、Sharda社の製品が上記特許を侵害していると主張した。これに対して、Sharda社は、上記特許が先行技術文献(McKenzie, 1996年の論文)により新規性を有しない旨を主張した。地裁は、仮差し止めの認定にあたり、Sharda社の主張について上記特許の無効を十分に示すものではないと認定した。特に、地裁は「組成 “compositions”」を「安定した組成 “stable compositions”」に限定して解釈し、McKenzieは「不安定な組成 “unstable compositions”」のみを開示する文献であることから、クレーム1を当該文献によって新規性なしとすることは出来ないとの判断を示した。ここで、地裁は、仮出願が物理的安定性について記載していることを根拠として挙げている[1]。また、地裁は、FMC社の別特許で、同じく仮出願60/752,979に基づく優先権を主張する米国特許第8,153,145号(以下145特許とする)において、物理的安定性に関する開示があることにも言及している。

Sharda社は、地裁の判断を不服としてCAFCに控訴した。特に、Sharda社は、地裁の「組成 “compositions”」を「安定した組成 “stable compositions”」を意味するとした解釈は不当であると主張した。その理由として、上記仮出願及び145特許における安定性及び安定した組成に関する記載は、本件訴訟の対象となっている特許では、その出願段階ですべて削除されている点を挙げている。

 

<CAFC判決>

CAFCは、Sharda社の主張に同意する判断を示した。上記仮出願について、CAFCは、仮出願に含まれていた記載及びそれらの記載が本件特許の出願では削除されているということは、当業者にとって、本件特許における「組成」は安定した構成のみをカバーする意図ではないことを示していると指摘した。145特許に関して、CAFCは、特許が同じ親出願から派生している場合、クレーム用語は通常、特許ファミリー全体で一貫して解釈されるとしつつ、特許ファミリーの中に、明細書が実質的に変更されて当業者がクレーム用語を異なる方法で解釈するように導かれるものがある場合には、この原則は適用されないと指摘した。

CAFCは、FMC社によるMcKenzieがクレーム1に記載の「ダニ駆除の “miticidal” 」機能を教示していないという主張についても却下した。理由として、発明の目的 (purpose) や用途 (intended use) を示しているに過ぎないプレアンブルの言語は、一般的にクレームの範囲を制限するものとは見なされない旨を指摘している。CAFCは、本件を地裁に差し戻し、本判決に従って今後の手続きを進めるよう指示した。

 

<考慮すべきポイント>

CAFCによる本判決は、明細書の実質的な変更が、クレーム用語の意図された意味を狭めるか広げるかにかかわらず、クレーム解釈に影響を与える可能性があることを示しています。また、CAFCは、先の特許出願における制限的な用語の使用が、後の特許において意図的に削除されている場合、たとえ先願が参照によって引用されている(Incorporated by Reference)としても、意図的に削除された用語は再び適用されるものではないと指摘しています。

本判決は、仮出願に基づく特許に関する案件ですが、先に出願された米国または外国出願に対して国内または外国優先権を主張する米国出願の場合でも、同様の原則が適用されることが予想されます。そのため、出願の準備段階で、出願人はクレームで意図する範囲と一致するように明細書を修正することに利益があるのかどうか検討する必要があります。その場合、特定の実施例等の開示がクレーム範囲を限定するものではないことを明示するように明細書を変更する方が、後の特許で技術的な開示をそのまま削除するというFMC社が行った手法よりも望ましいと云えるでしょう。削除ではなく、変更にとどめることで、米国特許法112条の記載要件または実施可能要件を満たさないという拒絶のリスクを低減し、出願人にとって審査段階でのクレーム補正により大きな柔軟性を残すことにも繋がるでしょう。

 

<参照リンク>

本判例は、以下のリンクでご覧いただくことができます。

https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-2335.OPINION.8-1-2025_2553038.pdf

[1] 例えば、仮出願は「ビフェントリンとゼタシペルメトリンの配合技術における問題は、配合物の水希釈混合物の物理的安定性を長期間にわたって成功的に達成することにある」としており、「物理的安定性は、このタイプの配合物において最も重要であり、少量の殺虫剤を完全に効果的にするために必要である」としている。

本欄の担当
弁理士法人ITOH
所長 弁理士 伊東 忠重
副所長 弁理士 吉田 千秋
担当: 弊所米国オフィスIPUSA PLLC
米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 加藤奈津子

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