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Court Decisions

分割出願を未提出とみなす場合の法的取り扱い (2023)最高法知行終382号

1.概要

 本判決において、中国最高人民法院(日本の「最高裁」に相当。以下、「最高裁」という。)は、「国家知識産権局(日本の「特許庁」に相当)は、分割出願が特許法実施細則第42条の規定に合致しない場合、分割出願を却下する方式で処理を行わなければならない。却下決定を下す前に、却下の根拠となる事実、理由及び証拠を出願人に通知し、少なくとも一度は出願人に意見陳述及び/又は出願書類を修正する機会を与えなければならない。もし当該分割出願を却下する方式で処理を行わなく、直接に分割出願に対して未提出とみなす通知書を発行する場合に、上述の規定に合致しない」と判示した(判決日2024年6月27日)。

 

2.背景

(2-1)対象実用新案の内容

 対象となった実用新案は、広東省某技術開発株式会社(以下、「広東省某社」という。)が申請する、「表示とバックライト用のLEDパッケージとLEDチップ」と称する中国実用新案第202020388607.2号(以下、「072実用新案」という。)を親出願として、「バックライト用のLEDパッケージ」と称する中国実用新案第202022320676.2号(以下、「762実用新案」という。)を分割出願した。762実用新案のクレーム1は、以下のように2025年2月07日に実用新案公報に掲載されたものである。

 

【クレーム1】

LEDチップ(1)とキャリアシート(2)とを備えるバックライト用LEDパッケージであって、LEDチップ(1)は基板(11)と動作層(12)を備え、キャリアシート(2)には複数のチップインレイ(21)が設けられ、複数のLEDチップ(1)がチップインレイ(21)内に配置され、キャリアシート(2)上に駆動電極ディスク(22)が設けられ、キャリアシート(2)上の駆動電極ディスク(22)はLEDチップ(1)上のチップ電極ディスク(13)に近接し、上記駆動電極ディスク(22)とチップ電極ディスク(13)との電気的接続ははんだにより直接接続され、キャリアシート(2)は透明絶縁シートからなることを特徴とするバックライト用LEDパッケージ。

(2-2)案件の経緯(時系列順)

 2020年10月11日に、広東省某社は、中国実用新案第202020388607.2号に基づき、中国実用新案第202022320676.2号を分割出願として提出した。

 2021年3月22日に、特許庁は、分割出願が特許法実施細則第42条の規定に合致しないことを理由として、分割出願に対して未提出とみなす通知書を発行した。

 当該通知書について、広東省某社は、特許庁に行政不服審査を提出し、未提出とみなす通知書には今後の対応方法が提示されてなく、聴聞の原則に違反しており、分割出願は正式に受理されたのであるから、未提出とみなす理由がないと反論した。

 2021年8月2日に、特許庁は、親出願と分割出願の発明を実施するための形態とは完全に同一であり、親出願の請求項と分割出願の請求項との差異はいずれも当該分野の通常の技術手段に過ぎないとして、分割出願を未提出とみなすとの判断を維持した。

その後、広東省某社は、上記審決を不服とし、一審法院に提訴した。当該提訴においては、某社による分割出願を制限すること、および某社が複数の発明構想を1つの発明出願に含めることを禁止することには、法的な根拠がないと主張した。

 一審法院は、下記のように判断している。

まず、親出願と分割出願の発明を実施するための形態は完全に同一であり、親出願の請求項と分割出願の請求項との差異はいずれも当該分野の通常の技術手段に属し、親出願と分割出願とは異なる技術手段ではなく、分割出願の条件を満たさない。

次に、特許法実施細則の聴聞の原則に基づけば、審査官は決定を下す前に、却下の根拠となる事実、理由及び証拠を出願人に通知し、少なくとも一度は出願人に意見陳述及び/又は出願書類を修正する機会を与えなければならないと規定されている。一方、当該分割出願を未提出とみなしたので、実用新案の初期審査段階に未だ入っていないのであるから、上記聴聞の規定は適用できない。特許庁が、審査効率を向上させ、審査期間を短縮するために、当該分割出願を未提出とみなしたことは正しい判断である。以上により、特許庁の決定を維持する。

 これに対し、広東省某社は上記一審判決を不服とし、最高裁(即ち、二審法院)に上訴した。当該上訴において、特許庁が分割出願を未提出とみなすことには法的な根拠がなく、法律適用に間違いがあると主張した。

 2024年6月27日に、二審法院は合議体によって公開審理を行った。

 

3.争点及び最高裁の判断

 二審において争点となったのは、分割出願が特許法実施細則第42条の規定に合致しない場合、当該分割出願を未提出とみなすことは適当であるか否かである。

 これに対し、最高裁は、下記のように判断している。

 まず、特許法実施細則第42条1項と2項の規定により、一つの実用新案に2以上の実用新案が含まれる場合、出願人は所定の期限が満了する前に、特許庁に分割出願を提出することができる。特許庁は、一つの実用新案が専利法31条及びその実施細則第34条又は35条の規定に合致しない場合、指定された期限内にその出願を補正するよう出願人に通知しなければならない。分割出願が特許法実施細則第42条の規定に合致しない場合、分割出願を却下する方式で処理を行わなければならない。聴聞の原則に基づいて、却下決定を下す前に、却下の根拠となる事実、理由及び証拠を出願人に通知し、少なくとも一度は出願人に意見陳述及び/又は出願書類を修正する機会を与えなければならない。当該分割出願について、特許庁はこのように却下する方式で処理を行なっておらず、直接に未提出とみなす通知書を発行しており、妥当ではない。

 次に、手続節約の原則とは、規定に合致している場合に、審査官はできる限り審査効率を高め、審査期間を短縮しなければならないことをいう。当該分割出願を未提出とみなす通知書で処理することは、審査効率を高めることはできる。しかし、出願人よる意見陳述及び/又は出願書類を補正する権利の行使に影響を与えており、法律の規定に合致しなく、手続節約の原則の本来の趣旨にも違反する。

 従って、一審判決は妥当ではないと判決した。

 

4.今後の留意点

 中国特許法実施細則には、「分割出願が特許法実施細則第42条の規定に合致しない場合、分割出願を却下する方式で処理を行わなければならない。却下決定を下す前に、却下の根拠となる事実、理由及び証拠を出願人に通知し、少なくとも一度は出願人に意見陳述及び/又は出願書類を修正する機会を与えなければならない」と規定されています。

 従って、もし分割出願が未提出とみなされた場合には、特許法に基づいた却下する方式での適切な処理を要求するべきです。

 

 本件記載の中国最高裁の判決(中国語のみ)は以下のサイトから入手可能です。

 https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-4243.html

本欄の担当
弁理士法人ITOH
所長・弁理士 伊東 忠重
副所長・弁理士 吉田 千秋
担当:Beijing IPCHA 中国弁理士 塗 琪順
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