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中国における「商標の使用」
お客様より多くご質問を頂戴する内容の一つに「商標の使用」があります。本稿では中国における「商標の使用」につきまとめました。
1、中国における「三年不使用取消」
登録後、正当な理由なく3年間継続して使用されていない登録商標に対し、何人も国家知識産権局商標局(以下「中国商標局」)に対し、登録商標の取消を請求することができます(中国商標法第49条)。この取消請求は、中国において一般に「三年不使用取消(Three-Year Non-Use Cancellation)」と呼ばれています。「三年不使用取消」制度の目的は、①休眠状態にある商標の整理②商標登録及び使用秩序の維持です。
(1) 近年の動向
2022年~2024年の「三年不使用取消」請求数は下表の通りです。

① 三年不使用取消請求件数は年々増加傾向にあります。中国商標局は取消率を公表していませんが、2024年においては約90%が一部/全部取消されたと言われています。
② 三年不使用取消請求が増加している背景は以下の通りです。
・「併存登録同意書(Letter of Consent)」が受理されなくなった
・「審査中止を認める事例に関するガイドライン」が2023年6月に公表され、審査中止事由に「引用商標の法的地位に影響を及ぼす公式決定が出された又は出される予定」が含まれていた(拒絶理由通知対応として三年不使用取消請求を活用する方向へ働く)
(2) 「三年不使用取消」手続の改訂
前述の通り、「三年不使用取消」制度には休眠商標の整理を進める効果が期待されますが、一方で制度の悪用も増加しています。国家知識産権局(CNIPA)は2025年5月に手続の改訂を行いました。新旧手続の比較は下表の通りです。

2、中国における「商標の使用」留意点
① 中国商標局に登録された商標と、実際に使用される商標とに同一性があること
例:以下の使用態様は通常、「登録商標の使用」とみなされます
・横書き/縦書きの変更
・文字商標の、書体の変更
・白黒(色彩無し)の登録商標に色彩を付す
② 登録商標の指定商品・役務に対して使用すること
③ 登録商標を明確かつ具体的な形で使用すること
④ 登録商標をできるだけ多くの場面で使用すること
⑤ 商標使用の証拠を適切に収集・保管すること
3、中国における「使用証拠」
登録商標/指定商品・役務/使用日時(期間)/使用者(商標権者・使用権者)/使用地域(中国本土)が明確に分かる状態で収集・保管することが重要です。
(1) 使用証拠として認められる例
・登録商標が付された製品サンプル、取扱説明書、商品写真
・商業文書(請求書、注文書、銀行送付票、出荷書類、販売契約書等)
※販売契約書単体では使用証拠として認められないので(3(3)参照)、他の使用証拠と併せて収集・保管することが必要です。
・販売データや広告費に関する監査報告書
・広告サンプル、写真(パンフレット、メディア広告、展示会等)
・受賞歴(業界ランキング、市場シェア、賞、消費者からの評価等)
・権利行使記録(異議・無効審判における商標権者に有利な決定、判決等)
製品サンプルやパンフレット等は、容易に編集が可能であるため、その信頼性に疑義が生じる場合があります。したがいまして、それらのみでは充分な使用証拠として評価されないおそれがあります。他者/他社との契約書や、正式な(税務当局の定めに従って発行された)請求書等、高い信頼性と証明力を備えた資料も併せて保管しておくことをお勧め致します。
(2) 使用証拠として認められない例
・商標登録情報の公表、登録商標の専用権に関する権利者の声明
・公の商業市場で使用されていない場合
・贈答品としてのみ使用されている場合
・実際の使用を伴わず、譲渡やライセンス行為のみが行われている場合
・登録商標維持のためだけに形式的に使用している場合
(3) 単体では使用証拠として認められない例
・ライセンス契約書
・販売契約書
・宣誓書
現在議論されている中国商標法改正において、改正法草案には商標登録後5年毎の使用証明義務化が含まれています。今後、「使用主義」へ制度が変更された場合でも自社ブランドを確実に守ることができるよう、普段より適切な使用証拠の収集・保管を行うことをお勧め致します。
中国におけるブランド戦略の見直し、使用証拠収集・保管等のご相談も承ります。お気軽お申し付けください。
<情報提供元>
以下の現地事務所より情報をご提供頂きました。心より感謝申し上げます。
・Beyond Attorneys at Law http://www.boip.com.cn/en/
・BEIJING GAOWO IP FIRM http://gaowoip.com/en/
・Chang Tsi & Partners https://www.changtsi.com/
- 本欄の担当
- 弁理士法人ITOH
所長 弁理士 伊東 忠重
商標部 弁理士 東 泰成
担当:弁理士 野崎 圭子
