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外国の判決・IP情報速報

韓国における「商標の使用」

お客様より多くご質問を頂戴する内容の一つに「商標の使用」があります。本稿では韓国における「商標の使用」につきまとめました。

 

1、韓国における不使用取消審判

登録商標について、正当な理由なく3年以上継続して使用されていない場合には、何人でも韓国特許庁(以下「MOIP」※1)に対し、その登録の取消しを請求することができます(韓国商標法第119条第1項第3号)。ここでいう「3年以上継続して使用されていない」とは、取消請求日を基準として直近3年間に一度も正当な商標使用がされなかった場合を意味します。過去に使用実績があったとしても、その後3年以上使用がなければ、取消しの対象となります。

 

※1 韓国特許庁(Korean Intellectual Property Office, KIPO)は、2025年10月1日より、国務総理室所属の知識財産処(Ministry of Intellectual Property 「MOIP」)へと昇格しています。

 

(1) 近年の動向

2022年~2024年の不使用取消審判請求数は下表の通りです(2025年は、9月までの統計)。

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① 不使用取消審判請求数は減少傾向にあり、2023年から2024年にかけては約300件の減少がみられました。これは、2024年5月に導入された「併存登録の同意書(Letter of Consent)」制度の影響によるものと考えられます。

② また、MOIPの審査官は、商標使用の証拠に対して厳格な基準を適用しているようで、これにより取消率が高い水準となっています。

 

 

2、韓国における「商標の使用」留意点

 可能な限り、登録商標そのままの形で使用すること。軽微な変更であれば正当な使用と認められる場合もありますが、その許容範囲には厳格な基準があるため、慎重な判断が必要です。

 

(例1)登録商標が英語+日本語併記で、日本語部分が小さく表示されているケース  

  ・韓国の消費者認識や法的判断により、日本語部分も識別要素と評価される可能性がある

  ・したがって、日本語部分を省略し英語のみを使用した場合、取消事由となり得る

 

(例2)登録商標がハングル+英語併記のケース

  ・その組合せで新たな意味が生じず、かつ英語/ハングルいずれかを省略しても韓国の消費者が同一の称呼として認識する場合は、ハングルのみ・英語のみの使用でも同一商標の使用と認められることがある

 

② 正当な権利者(商標権者、専用使用権者、通常使用権者)による使用であること

③ 登録商標の指定商品・役務に対して使用すること

④ 韓国内で使用すること

  韓国内での使用が大原則ですが、判例および MOIPの判断により、韓国内で直接営業活動を行っていなくても「韓国における商標使用」と認められた例があります。

 

(例1)輸入行為が権利者の管理下または黙示の同意の下で行われている場合

→その流通は商標権者による使用と認められる(大法院判決 2002Hu2020, 2003年12月26日)

 

(例2)OEM方式による輸出

→韓国製造業者が外国商標権者の委託を受けて、登録商標を付した商品を韓国内で製造し、すべて海外に輸出する場合でも、特段の事情がない限り、商標権者による「韓国内での使用」と認められる(大法院判決 2012Hu740, 2012年7月12日)

 

(例3)韓国内に実店舗がなく、越境EC・公式サイト経由で韓国消費者へ販売する場合

→通常、正当な商標使用として認められる(MOIP)

 

⑤ 商標使用の証拠を適切に収集・保管すること

 

 

3、韓国における「使用証拠」

  使用証拠は、韓国における商業的な場面で、実際に一般に公開され、利用可能であったことを示す必要があります。

 

(1) 使用証拠として認められる例

  ・取引関連書類(注文書、請求書、出荷記録、納品書、領収書等)

  ・会計、税関記録(インボイス、輸出入申告書等)

  ・販促資料(カタログ、パンフレット、広告、オンラインストアの掲載ページ等)

  ・実際の商業流通で使用されたラベル、タグ、容器、包装紙等

 

(2) 使用証拠として認められない例

  ・社内的または限定的な使用(試作品、社内報告書等)

  ・未公開の資料(社内専用の広告や取引文書、デザイン案、企画書等)

  ・期間外の使用(取消審判請求前3年間以内ではない)

  ・実際の使用を伴わず、譲渡やライセンス行為のみが行われている場合

  ・登録商標と実質的相違がみられる場合(識別的要素の省略や変更等)

  ・商標が不明瞭に写っている写真

  ・サービス提供を伴わないドメイン登録や商号登録

  ・権限のない第三者による使用

 

 自社ブランドを確実に保護するため、平常時から適切な使用証拠の収集・保管を行うことをお勧めいたします。
 また、韓国におけるブランド戦略の見直しや、使用証拠の収集・保管に関するご相談も承っております。どうぞお気軽にお申し付けください。

 

<情報提供元>

以下の現地事務所より情報をご提供頂きました。心より感謝申し上げます。

・KAI IP Law LLC  https://kaipat.kr/ 

・THEWAVE IP Law Firm  http://thewaveip.com/en/ 

・NAM IP Group  https://www.nampat.co.kr/ 

本欄の担当
弁理士法人ITOH
所長 弁理士 伊東 忠重
商標部 弁理士  東 泰成
担当:弁理士 野崎 圭子
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