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外国の判決・IP情報速報

中国特許審査指南の改正(2026.01.01適用)の速報について

2025年11月13日に、「特許審査指南(改正案)」は、中国国家知識産権局令第八十四号によって公表され、2026年01月01日から施行されることになります。

 本報告では、速報として、今回、中国特許審査指南の改正内容のうち、特に中国知財実務に携わる際に特に把握しておくべきであると考えられる改正内容について説明します。

 

 一、第一部分第一章 発明専利出願の初歩審査

 1.優先権について

 (1)「6.2.1.2 優先権主張声明」

  「分割出願の原出願において優先権が主張されたが、出願人が分割出願を提出したときに願書において当該優先権が主張されていない場合、分割出願は優先権を主張していないものとみなされ、審査官は優先権を主張していないものとみなす通知書を発行しなければならない。」という事項が追加されました。

 

 二、第二部分第一章 専利権を付与しない出願

 (1)「4.4 動物及び植物の品種」

  「……専利法でいう植物の品種とは、人工的な育成を介して、又は発見されて改良を介して、形態特徴及び生物学的特性が一貫して遺伝的性状が比較的安定している植物集団光合成により、水、二酸化炭素及び無機塩などの無機物で炭水化物、タンパク質を合成して生命を維持することができ、通常は移動しない生物をいう。動物及び植物の品種は専利法以外の他の法律法規により保護することができ、例えば、植物の新品種は『植物新品種保護条例』により保護することができる。」と改正されました。

 

 三、第二部分第三章 新規性

 (1)「6.2.2 1件の専利出願と1つの専利権の処理」

  「……但し、同一の出願人が同日(出願日のみ)に同様の発明創造について、実用新案と発明専利の両方を出願しておりいる場合、専利法実施細則第四十七条の規定に従って、出願時にそれぞれ同一の発明に対して他方の専利を出願したことを説明しなければならない。説明がない場合、専利法第九条第一項における同様の発明創造について一つの専利権しか付与できないという規定に基づいて処理する。説明がある場合、審査において発明専利出願に拒絶理由が発見されなかった場合、規定された期限内に実用新案専利権を放棄する旨を宣言するよう出願人に通知しなければならない。出願人が放棄を声明した場合、発明専利権の付与決定を行い、かつ発明専利権の付与を公告する際に出願人による実用新案専利権の放棄声明を合わせて公告しなければならない。出願人が放棄に同意しない場合、当該発明専利出願が拒絶される。期限が満了になっても出願人が回答しなかった場合、当該発明専利出願が取り下げられたものとみなされる。先に取得した実用新案専利権がまだ消滅しておらず、かつ出願人が出願時にそれぞれ説明を行った場合には、発明専利出願の補正を行うほか、実用新案専利権の放棄も行うことによって、権利の重複付与を回避することができる。従って、前述の発明専利出願を審査する過程において、当該発明専利出願が専利権付与のその他の条件に合致しているのであれば、出願人に選択又は補正を行うよう通知しなければならず、

  出願人が付与された実用新案専利権放棄を選択した場合には、審査意見通知書の応答時に、実用新案専利権を放棄する旨の書面声明を添付しなければならない。この時、権利付与条件に合致しているが、まだ権利付与されていない発明専利出願に対し、権利付与通知書を発行するとともに、前述の実用新案専利権を放棄する旨の書面声明を関連する審査部門に転送して、専利局で登録及び公告し、公告に前述の実用新案専利権が発明専利権の公告授与日より消滅する旨を明記しなければならない。」改正されました。

 

 四、第二部分第四章 創造性

 (1)「6.4 保護を請求する発明に対する審査」

  「発明が創造性を有するかどうかは、保護を請求する発明を対象としており、そのため、発明の創造性に対する評価は、請求項により限定している技術的解決手段に対して行わなければならない。創造性を判断する際には、請求項により限定している技術的解決手段全体に対して評価を行わなければならず、つまり、特定の技術的特徴が創造性を有するかどうかを評価するのではなく、技術的解決手段が創造性を有するかどうかを評価する。

  発明における従来技術に貢献している技術的特徴、例えば、発明が、予期できない技術的効果を得ることができるような技術的特徴、又は発明が技術的偏見を解消したことを示す技術的特徴は、請求項に記載しなければならない。さもなくば、明細書に記載があっても、発明の創造性の評価時に考慮しない。なお、創造性の判断は、請求項により限定している技術的解決手段全体に対して評価を行わなければならず、つまり、特定の技術的特徴が創造性を有するかどうかを評価するのではなく、技術的解決手段が創造性を有するかどうかを評価する。技術的問題の解決に貢献していない特徴は、請求項に記載されても、通常、技術案の創造性に影響するものではないとする」と改正されました。

 

 五、第二部分第九章 実体審査・コンピュータープログラムに係る発明専利出願の審査に関する若干の規定

 (1)第6節のタイトルは、「人工知能、ビッグデータ等のアルゴリズムの特徴又はビジネスルール及び方法的特徴を含む発明専利出願の審査関連規定」と改正されました。

 (2)「6.1 審査基準」

  「審査は、保護を求める解決手段、つまり、各請求項により限定される解決手段に対して行わなければならず、必要に応じて明細書の内容に対して行わなければならない。審査において、技術的特徴とアルゴリズムの特徴又はビジネスルール及び方法的特徴などを簡単に切り離してはならず、請求項に記載のすべての内容を1つの全体とし、関連する技術的手段、解決する技術的課題及び取得する技術的効果に対して分析を行わなければならない。」と明記されました。

 (3)「6.1.1 専利法第25条第1項に基づく審査

  「アルゴリズムの特徴又はビジネスルール及び方法的特徴を含む発明専利出願について、その中のデータ収集、ラベル管理、ルール設定、推薦決定などに法律違反、社会公徳又は公共利益を妨げる内容が含まれている場合、専利法第5条第1項の規定に基づいて、専利権を付与できない。」という事項が追加されました。

 (4)「6.2 審査例」

 【例1】

  出願に係る請求項

  マットレス表示デバイスと管理センターとを含む、ビッグデータに基づくショッピングモール内マットレス販売補助システムであって、

  前記マットレス表示デバイスは、マットレス製品を表示して販売を補助して顧客データを収集するために用いられ、管理センターとデータインタラクションを行うための制御モジュールと、情報収集モジュールとを含み、前記情報収集モジュールは、撮像モジュールと顔識別モジュールとを含み、顧客の顔部特徴情報を収集し、キーオフ検出アルゴリズムを利用して顔部姿勢を調整して正規化顔画像を取得し、正規化顔画像を顔検出アルゴリズムによって識別対象の顔領域を特定し、主成分分析法に合わせて顔領域内の顔特徴を抽出して、顧客の身分識別情報を取得するためのものであり、

  前記管理センターは、管理サーバーと分析補助システムとを含み、前記管理サーバーは、複数のマットレス表示デバイスを管理し、前記分析補助システムは、顧客の身分識別情報に基づいて、マットレス表示デバイスによって収集されたデータを利用して分析して顧客の実際の好みを取得し、分析結果を管理センターにフィードバックする、ことを特徴とするビッグデータに基づくショッピングモール内マットレス販売補助システム。

  分析及び結論

  法律上は、個人画像、身分識別情報の取得が公共安全を維持するために用いられなければならず、他の目的への利用が禁止されると規定されている。

  この出願の技術案から分かるように、画像取集および人顔識別は、公共安全の維持ではなく、マットレス販売に用いられている。また、顧客の顔情報に対する収集は、顧客が気づかない状況で行われているものである。よって、当該発明は、法律の規定に従うものではなく、専利権を付与できないものに該当する。

 

 【例2】

  出願に係る請求項

  無人運転車両の緊急決定モデルの構築方法であって、

  無人運転車両の履歴環境データ及び履歴障害物データを取得することであって、前記履歴環境データは、車両の走行速度、所在車道における障害物との距離、隣接車道における障害物との距離、所在車道における障害物の移動速度及び移動方向、隣接車道における障害物の移動速度及び移動方向を含み、前記履歴障害物データは、歩行者の性別及び年齢を含むことと、

  前記履歴環境データ及び履歴障害物データに対して特徴抽出を行って決定モデルの入力データとし、障害物を回避できなかった場合の車両の履歴走行軌跡を決定モデルの出力データとし、履歴データに基づいて深層学習モデルである決定モデルを訓練することと、

  リアルタイム環境データ及びリアルタイム障害物データを取得し、無人運転車両が障害物を回避できないケースに遭遇したときに、訓練された決定モデルを用いて無人運転車両の走行軌跡を決定することと、を含むことを特徴とする無人運転車両の緊急決定モデルの構築方法。

  分析及び結論

  無人運転車両の緊急決定モデルが、回避できない事故において、歩行者の性別と年齢に基づいて被保護対象と被衝突対象の選択を行うことは、社会の道徳的観念に反する。また、このような決定方式は、社会に存在する性別及び年齢の偏りを強化し、公共移動安全性に対する公衆の懸念を引き起こしてしまう。従って、当該発明は、社会公徳に反する内容を含み、専利権を付与できないものに該当する。

 

 【例18】

  出願に係る請求項

  船舶数の識別方法であって、

  船舶の画像データセットを取得し、データセットにおける画像情報に対して前処理を行い、画像情報における船舶の位置及び境界情報をマーキングし、前記データセットを訓練データセットとテストデータセットに分割することと、

  前記訓練データセットを用いて深層学習を行い、訓練モデルを構築することと、

  前記テストデータに基づいて訓練モデルに入力して訓練して、船舶テスト結果データを取得することと、

  前記船舶テスト結果データに予め設定された誤差パラメータを乗算することにより、実際の船舶数を特定することと、を含むことを特徴とする船舶数の識別方法。

  分析及び結論

  引例1は、樹上の果実の数を識別する方法を開示し、具体的に、画像情報を取得するステップ、画像上の果実の位置及び境界をマークするステップ、データセットを分割するステップ、モデルを訓練するステップ、及び実果実の数を特定するステップを開示している。

  本発明の技術案と引例1との相違点は、識別対象が異なることだけである。本願の請求項において、識別対象が異なることによって、深層学習、モデル訓練過程における訓練方式、モデル階層などを変更することがなく、深層学習、モデル構築又は訓練過程などを調整又は改善することもない。したがって、当該発明は、進歩性を有しないものとする。

 

 【例19】

  出願に係る請求項

  スクラップ鋼等級分類ニューラルネットワークモデルの確立方法において、

前記モデルは、収集されたスクラップ鋼を等級分類することに用いられ、

  複数の画像を取得し、複数の画像の異なるスクラップ鋼等級を特定し、前記画像に対し前処理を行って、異なる等級の画像を抽出し、抽出された異なる等級の画像データ特徴に対し畳み込みニューラルネットワーク学習を行い、等級分類出力を備えた等級分類ニューラルネットワークモデルを形成することを含み;

  前記画像データ特徴の抽出は、画像ピクセルマトリックスデータに対する畳み込みニューラルネットワークの畳み込み計算の集合により実現されており、

集合出力される複数ラインの畳み込み層或いは畳み込み層のプーリング層の計算出力のセットで構成される画像中物体の色、エッジ特徴及びテクスチャ特徴を抽出し、画像中物体エッジ、テクスチャ間の関連特徴を抽出することを含み、

  前記画像中物体の色、エッジ特徴の抽出は、三線の畳み込み層とプーリング層の計算出力の集合出力で構成され、左から右へ第一線の一層プーリング層と、第二線の二層畳み込み層と、第三線の四層畳み込み層とを含み;

  前記画像中のテクスチャ特徴の抽出は、上述の画像中の物体の色、エッジ特徴の抽出集合出力に基づいて行われ、これは三線の畳み込み層によって計算された出力の集合出力で構成され、左から右へ第一線の0畳み込み層と、第二線の二層畳み込み層と第三線の三層畳み込み層とを含み;

  前記エッジ、テクスチャとの間の関連特徴を抽出するために畳み込み層によって計算される線数は、画像中の物体色、エッジ及びテクスチャ特徴を抽出するために畳み込み層によって計算される線数よりも大きい。

  分析及び結論

  引例1は、畳み込みニューラルネットワークモデルに基づいてスクラップ鋼の種類を識別する方法を提供し、具体的に、スクラップ鋼の種類が特定された複数の画像データを取得し、前記画像データを前処理して特徴抽出を行い、畳み込みニューラルネットワークを用いて訓練して製品モデルを取得する関連ステップを開示している。

  本発明の技術案と引例1との相違点は、訓練されるデータ及び抽出される特徴が異なり、畳み込み層とプーリング層の線数及び階層設定も異なることにある。本発明では、モデル訓練の過程において、畳み込み層及びプーリング層の線数及び階層設定などをいずれも調整し、上記アルゴリズム特徴と技術特徴は、機能的に互いにサポートし合い、相互作用関係が存在し、スクラップ鋼等級分けの正確性を向上させることができ、前記アルゴリズム特徴が技術案に寄与することを考慮すべきである。上記畳み込み層及びプーリング層の線数及び階層設定の調整等の内容は、引例に開示されておらず、本分野の公知常識に属するものでもないため、本発明は、進歩性を有するものとする。

 

 六、第二部分第十章 化学分野の発明専利出願審査に関する若干の規定

 (1)「9. バイオテクノロジー分野における発明専利出願の審査」

  「……『動物』、『植物』という用語の定義は、本部分第一章第4.4節の規定を適用する。『植物』という用語は、光合成により、水、二酸化炭素及び無機塩などの無機物で炭水化物、タンパク質を合成して生命を維持することができ、通常は移動しない生物という。ここで述べた動物及び植物は、界・門・綱・目・科・属・種など、動物や植物の各階級の分類項目であってもよい。」と改正されました。

 (2)「9.1.2.3 動物と植物の個体及びその構成部分」

  「……自然界から発見された、技術的に処理されていない、天然に存在する野生植物は、専利法第25条第1項第(1)号に規定された科学的発見に属し、専利権が付与されてはならない。ただし、野生植物が人工的な育成又は改良を経て、かつ産業上利用価値がある場合には、その植物自体は科学的発見の範疇に属するものに該当しない。」という事項が追加されました。

  さらに、「本部分の第一章の第4.4節に記載の「植物の品種」の定義に基づいて、人工的な育成を介して、又は発見され野生植物を改良して得られた植物及びその繁殖材料は、その集団において一貫した形態特徴及び生物学的特性又は比較的に安定な遺伝的性状を備えていなければ、『植物の品種』と見なされないため、専利法第25条第1項第(4)号に規定された範疇に該当しない。」と明記されました。

 

 七、第三部分第一章 国内段階に移行した国際出願の審査

 (1)「5.2.3.2 優先権を享有する証明の提供」

  「……(3)の場合、出願人が国際段階において要求に合致した優先権享有声明を行った場合を除き、出願人は相応の証明書類を提出しなければならない。証明書類に、譲渡先行出願のすべての出願人が署名するか、或いは押し印をしなければならない。証明書類は原本であるか、或いは公証を受けたコピーでなければならない。」と改正されました。

 (2)「7.3 その他特殊な費用」

  「国際出願の国内段階手続においては、本指南第五部分第二章第1節で言及したいくつかの費用、及び本章第 7.1 節で言及した期限猶予費に加え、以下のような数種の特殊な費用もある。

  (1)訳文訂正費は、訳文の誤りの訂正請求の提出と同時に納付しなければならない。

  (2)単一性回復費は、審査官が発行する単一性回復費納付通知で規定した期限以内に納付しなければならない(単一性回復費についての詳細な説明は本部分第二章第5.5節を参照)。

  (3)ヌクレオチド及び又はアミノ酸の配列表は明細書の単独な一部分とし、400頁以上の場合は400頁として計算する。」と改正されました。

 

 八、第四部分第三章 無効宣告請求の審査

 (1)「3.2 無効宣告請求人の資格」

  「請求人が以下に挙げる状況の1つに該当する場合、その無効宣告請求を受理しないものとする。

  (1)請求人が民事訴訟の主体としての資格を有しない場合。

  (2)無効宣告請求の提出が請求人の真実の意思表示ではない場合。

  (2)(3)専利権が付与された意匠が、出願日前に他者が取得した適法な権利と衝突していることを理由に意匠専利権の無効宣告を請求している請求人は、先行権利者或いは利害関係者であることを証明することができない場合。

  そのうちの利害関係者とは、関連法令の規定に基づき、先行権の侵害をめぐる紛争について人民法院に提訴するか、若しくは該当の行政管理部門に処理を請求する権利を有する者をいう。

  (3)(4)専利権者がその専利権を対象とした無効宣告 請求を提出し、かつ専利権の全部無効の宣告を請求しており、提出された証拠は公式出版物でないか、若しくは請求人は共有に係る専利権の専利権者全員でない場合。

  (4)(5)複数の請求人が共同で1件の無効宣告請求を提出する場合。ただし、専利権者全員がその共有に係る専利権を対象に提出している場合を除く。」と改正されました。

 

 九、第五部分第二章 専利に係る費用

 (1)「1. 費用の納付期限」

  「……出願付加費とは、出願書類の明細書(添付図面、配列表を含む)の頁数が30頁を超えているか若しくは請求項が10項を超えている場合に納付する費用をいう。当該費用の金額は、頁数又は項目数を以って算定される。所定の様式に従って提出されるコンピュータ読み取り可能な形式の配列表については、ページ数を数えないものとする。」と改正されました。

 

 なお、本件記載の特許審査指南の改正(2026.01.01適用)の詳細(改正前後の対照表を含み)は、以下のサイトから入手可能です。

https://www.cnipa.gov.cn/art/2025/11/13/art_74_202560.html

本欄の担当
弁理士法人ITOH
所長・弁理士 伊東 忠重
副所長・弁理士 吉田 千秋
担当:Beijing IPCHA
中国弁理士 李 海龍
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