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主題適格性宣誓書(Subject Matter Eligibility Declaration:SMED)に関するUSPTOの新たなガイダンスに関して

2025 年12月4日、米国特許商標庁(USPTO)の新長官である John Squires 氏は、米国特許法101条に基づく主題適格性拒絶を克服するために、米国特許規則1.132 に基づく宣誓書の形式で証拠を提出することを推奨する2件のメモランダムを発行しました。これらのメモランダムでは、今回の形式の宣誓書を「Subject Matter Eligibility Declaration(SMED:主題適格性宣誓書)」と呼んでいます。主題適格性がクレームや明細書から明確でない場合、精神的プロセスに該当しないことや実用的応用への統合を立証するには、意見書だけでは不十分であり、「事実に基づく裏付け」が有効なことがあるため、出願人は米国特許法101条の拒絶を克服する上で、応答書の主張に加えて主題適格性宣誓書の提出を検討すべきであるとの見解が示されています。

 

なお、上記2件のメモランダムのうち、一方は特許審査部に向けられ、他方は特許出願人に向けられています。

 

上記2件のメモランダムは、特許審査手続便覧(MPEP)セクション716 に記載されている宣誓書に関する一般規則が主題適格性宣誓書にも適用されること、そして「宣誓書で主張される事実について知識を有する者(発明者、発明者の同僚、独立した専門家など)であれば誰でも当該宣誓書に署名できる」ことを述べています。また、上記2件のメモランダムは、「宣誓書が関連性を有するためには、クレームされた発明と宣誓書に記載された証拠との間に適切な結びつき(nexus)が必要である」ことを示しています。

 

さらに、上記2件のメモランダムは、「宣誓書は原出願の記載を不適切に補充するためには用いることはできないが、クレームされた発明の出願時点における事実を立証するために用いることはできる」ことを示しています。例えば、明細書が十分な詳細を提供しており、当業者がクレームされた発明が技術的改善を提供するものと認識し、クレームが当該技術的改善を反映している場合には、クレームされた発明は適格な技術的改善であり得る、と示しています。また、明細書は当該技術的改善を明確に記載している必要はなく、当業者にとって明らかであるように記載していればよいとも述べています。

このような場合、主題適格性宣誓書は、出願時の技術水準を説明する事実、発明がどのように当該技術水準を改善したかに関する客観的証拠、あるいは当業者が当該発明が基礎となる技術を改善したと判断したであろうと結論づける事実的根拠を提供し得る、と示しています。

特許審査部向けメモランダムは、主題適格性に関する拒絶を解消するにあたり宣誓書がどのように役に立つのかについて、6個の例を示しています。

例えば第1の例では、クレームが「精神的プロセス(mental process)」という抽象的アイデアを記載しているとの審査官の主張に対し、出願人は主題適格性宣誓書を提出し、当該精神的プロセスの限定が人間の心では実際に実行できないことを説明する専門家証言を示して応答しています。

また例えば第2の例では、出願人は、クレームされた特徴が抽象的アイデアを実用的応用に統合することにより意味のある制限を課していることを示す証拠データを含む、主題適格性宣誓書を提出しています。

 

また、上記2件のメモランダムは、審査官に対し、適切に提出された主題適格性宣誓書に含まれる証拠は必ず考慮しなければならないことを改めて注意喚起していますが、出願人には、主題適格性宣誓書を提出する義務はなく、提出しなかったとしても不利益を受けることはないことが示されています。

 

なお、上記2件のメモランダムは、出願人が主題適格性宣誓書を提出する場合、101条、103条、112条など他の論点に関する宣誓書とは別個の文書として 主題適格性宣誓書を提出するよう推奨するとともに、「クレームされた発明の主題適格性のみに向けられた証言と証拠を提出することにより、出願人は実施可能要件、記載要件、新規性、非自明性といった他の問題が主題適格性の問題と交錯するリスクを回避し得る」と述べています。

 

弊所コメント:

 

従来の特許実務では、費用面の負担や、訴訟において不利な証拠となる可能性などから、宣誓書提出の判断は慎重に行われてきました。また、今回のメモランダムも「主題適格性宣誓書の証拠だけで主題適格性の判断が行われるわけではなく、審査官はすべての証拠を総合的に判断する必要がある」と注意しています。他方で、今回のメモランダムでは、主題適格性宣誓書がこれまで過小利用されてきたこと、そして適切に提出された主題適格性宣誓書の証拠は審査官が必ず検討しなければならないことを強調しています。したがいまして、特に米国特許法101条の拒絶を克服する上で「事実に基づく裏付け」が重要となる場合には、主題適格性宣誓書により証拠を提出することが有用な手段となり得ます。

上記2件のメモランダムは以下のリンクから入手可能です:

特許審査部向けメモランダム:

Memorandum – Subject Matter Eligibility Declarations

出願人向けメモランダム:

Memorandum – Best Practices for Submission of Rule 132 Subject Matter Eligibility Declarations (SMEDSs)

本欄の担当
弁理士法人ITOH
所長 弁理士 伊東 忠重
副所長 弁理士 吉田 千秋
担当: 弊所米国オフィスIPUSA PLLC
米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 有馬 佑輔
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