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第三者による秘密漏えいを理由とする 新喪例主張の提出期限と起算点に関する 中国最高裁判決 (2023)最高法知行終490号

新規性喪失の例外(いわゆるグレースピリオド)は、発明や意匠が一定の事情により公開された場合でも、例外的に新規性を維持するための重要な制度である。特に「第三者による秘密漏えい」を理由とするケースでは、出願人・権利者の意思とは無関係に公開が生じ得るため、制度上の救済が強く期待される一方、その主張方法や期限管理を誤ると、救済が一切認められないという厳しい側面も有している。本稿では、中国の最高人民法院(以下、「最高裁」)の確定判決を題材として、当該制度の運用実態と実務上の留意点を整理する。

 

1.判決の概要(判旨)

 本判決において、中国の最高裁は、「専利出願人または専利権者が、第三者による無断の秘密漏えいを理由として、新規性喪失の例外[1]の適用を求める旨の主張(声明)を行う場合、当該主張の提出期限の起算点は、中国知識産権局[2]または人民法院[3]により、当該事実が専利法上の『公開』に該当すると認定された時点ではなく、専利出願人または専利権者が、第三者による無断の秘密漏えいという客観的事実を主観的に『知った、または知るべきであった時点』であると解すべきである」と判示した。(判決日2024年12月21日、判決公開日2026年01月05日)

 

2.案件の経緯(時系列整理)

 本件は、「振動マッサージガン」と称する意匠専利を巡り、第三者による秘密漏えいを理由とする新喪例の適用主張の提出期限が争われた事案である。当該意匠専利は、米国H社を専利権者とするものであり、専利番号20183040**.2**、出願日2018年7月27日、優先日2018年2月22日、設定登録公告日2019年3月1日である。

  • 2018年7月27日

H会社は、意匠専利(優先日:2018年2月22日)を出願。

  • 2019年3月1日

当該意匠専利は設定登録。

  • 2019年7月24日

蘇州菠某健康科技株式会社は、2018年2月12日に行ったNBA試合の映像およびSNS投稿等を証拠として、CNIPAに無効宣告請求を提出。

  • 2019年10月16日

CNIPAは、無効請求人の補充意見・証拠を専利権者のH会社に送付。

  • 2019年11月18日

H会社は、意見陳述書を提出し、「当該証拠は本件意匠の公開を構成しない」と反論。

  • 2020年5月19日

CNIPAは、第44539号無効決定を行い、本件意匠専利を全部無効と判断。

  • 2020年7月10日/7月28日

H会社は初めて、「第三者による無断漏えい」を理由とする新喪例の適用の主張を提出(後に補正)。

  • 2020年11月2日

CNIPAは、当該主張は期限徒過として不受理とする通知を発出。

  • 2021年4月1日

行政復議[4]においても、上記判断が維持。

  • 2022年12月26日(第一審)

北京知財裁判所は、「新喪例の適用の主張は期限徒過」として請求棄却。

  • 2023年(第二審・終審)

最高裁は、控訴を棄却し、原判決を維持。

 

3.本件の争点・最高裁の判断

(3-1)本件の争点

本件の主な争点は、以下の2点である。

  • 第三者による秘密漏えいを理由として新喪例の適用を主張する場合、その主張の提出期限はどのように定まるか。
  • 本件において、H会社の主張の提出は期限内であったか。

 

(3-2)最高裁の判断の要点

  • 新喪例の適用主張の提出期限について

最高裁は、2008年改正専利法および2010年改正実施細則には具体的な期限の明文規定はないとしつつも、《専利審査指南》の規定を参照し、次のように判示した。

  • 「出願日後に、『第三者が無断で発明創作内容を漏えいした事実』を知った場合には、その事実を知った(または知るべきであった)時点から2か月以内に新喪例の適用の主張を提出すべきである。」
  • この2か月期限は、出願段階か無効審判段階かを問わず適用される。
  • 起算点の判断基準について

最高裁は、起算点について極めて重要な判断を示した。

  • 起算点は、「当該事実が専利法上の公開と法的に評価された時点」ではない。
  • 起算点は、専利権者が、第三者による無断漏えいという客観的事実を主観的に知った、または知るべきであった時点である。
  • 本件への当てはめ

H会社は、2019年11月18日までに、NBA試合映像およびSNS投稿という無効証拠を認識していた。当該製品はH会社自身が提供したものであり、使用状況について十分把握できた立場にあった。

よって、遅くとも2019年11月18日が起算点となり、そこから2か月以内に主張を提出すべきであった。

しかし、実際の主張提出は2020年7月であり、明らかに期限を徒過している。

ゆえに、CNIPAが主張を不受理とした判断、および第一審判決は、いずれも適法である。

 

4.法的枠組みと最高裁の論理

最高裁はまず、2008年改正専利法および2010年改正実施細則には、第三者による秘密漏えいを理由とする新喪例の適用について、主張の提出期限の明文規定が存在しないことを確認した。その上で、《専利審査指南》における運用基準を参照し、「出願日後に当該事実を知った場合には、その事実を知った時点から2か月以内に声明を提出すべきである」との解釈を採用している。

特に注目すべきは、最高裁がこの2か月ルールを、出願段階に限らず、無効審判段階にも適用される一般的原則として位置づけた点である。制度の趣旨は、権利者の保護と同時に、第三者に対する法的安定性・予測可能性を確保することにあり、審査段階の違いによって左右されるものではないと明確に判示している。

 

5.実務上の留意点

(5-1)中国では「期限管理」が重要

本判決は、中国においては、新喪例の適用の主張が厳格な期限管理の下に置かれていることを明確に示しています。無効審判の対応過程で初めて公開事実を知る場合でも、対応を先送りすると、後から新喪例の適用を主張することができなくなるおそれがあります。

そのため、当該事実を把握した時点で、

  • 公開に当たらないとして争うのか、
  • 仮に公開に当たるとしても、第三者による無断漏えいとしてグレースピリオドを併せて主張するのか

を早期に判断することが重要です。

 

(5-2)日本との違いを踏まえた実務対応

日本にも新喪例の適用の制度(特許法第30条、意匠法第4条)はありますが、起算点や運用は国ごとに異なります。中国案件では特に、

  • 漏えい・第三者使用を把握した時点での事実記録
  • 社内外のやり取りの時系列整理
  • 新喪例の適用を予備的に主張するという発想

が重要であることを、本判決は示唆しています。

 

 本件記載の中国の最高裁判決(中国語のみ)は以下のサイトから入手可能です。

 (2023)最高法知行终490号 – 最高人民法院知识产权法庭

[1] 以下、「新喪例」とする。

[2] 以下、「CNIPA」とする。

[3] 以下、「裁判所」とする。

[4] 日本の「行政不服申立て」に相当する。

本欄の担当
弁理士法人ITOH
所長・弁理士 伊東 忠重
副所長・弁理士 吉田 千秋
担当:中国弁理士 羅  巍
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