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AIの特許適格性に関する英国最高裁判所判決 Emotional Perception AI Limited v Comptroller General of Patents (Feb. 11, 2026)

人工ニューラルネットワーク(以下ANN)の特許適格性が争点となっていたEmotional Perception事件について、英国最高裁判所(以下最高裁)の判決が出されました。最高裁は、ANN を用いたシステムは「特許適格性を有する」と判示致しました。詳細は以下のとおりです。

 

<背景>

本願(特許公開番号:GB2583455)は、Mashtraxx Limited社により2019年に英国知財庁(UKIPO)に出願され、その後Emotional Perception AI社に譲渡されました。本願発明は、単なるジャンル等のメタデータ検索ではなく、音楽ファイルの物理的特性(リズム、音色、速度など)から、人間が感じる「感情的・意味論的(セマンティック)」な類似性を判断し、最適な音楽を推薦・提供するシステムおよび方法に関します。

審査において、本願発明は英国特許法第1条(2)(c)に規定される「コンピュータプログラムそれ自体(as such)」に該当し特許の対象から除外される、として拒絶されました。審判(Hearing)においても、「ANNによる情報処理はコンピュータプログラムによるものと実質的に異ならず、また音楽の推薦という効果も技術的な寄与を含まない」として、拒絶審決(2022年6月22日)が下されました。

審決の対象となった代表的なシステムクレーム1では、自然言語処理(NLP)により得られる「意味論的距離」と、ファイルから抽出した物理的特徴に基づく「物理的距離」とが近づくよう学習されたANNにより、物理的特徴から意味的記述を推測可能であり、ターゲットファイルから抽出した特徴を学習済みANNに入力してベクトルを生成し、これをデータベース内の参照ファイル群と比較することで、意味的に類似するファイルを特定します。選定されたファイルは通信網を介してユーザー端末へ送信・出力されます。

上記審決に対する上訴を受け、高等法院は、2023年11月に、「ANNは従来のコンピュータプログラムとは本質的に異なる」と判示し、ANNの重みや構造は「プログラム」ではないとの画期的な判断を下しました。これを受け、UKIPOは一時的にAI審査指針を見直す運用を示しました。

しかしその後、控訴院は2024年7月にこの判断を覆し、「ANNであっても、コンピュータに特定の動作をさせる命令セットである以上、コンピュータプログラムに該当する」と結論付けました。また、音楽の推薦という効果も、主観的な性質のものであり「技術的貢献」には当たらないと判断しました。

 

<最高裁判決>

  1. 結論:特許適格性の認定

英国最高裁は、Emotional Perception AI社の訴えを認め、英国知的財産庁(UKIPO)および控訴院の判断を覆しました。

これにより、同社のANNを用いたシステムは、特許法上の「プログラムそのもの(program for a computer as such)」としての除外事由には該当せず、特許適格性(invention)を有すると判断されました。

 

  1. 歴史的な方針転換:Aerotelアプローチの廃棄

英国では過去20年間、特許適格性の判断に「Aerotelアプローチ(4段階テスト)」が用いられてきましたが、最高裁はこの手法を廃棄し、欧州特許庁(EPO)が採用しているアプローチ(特に拡大審判部決定 G1/19 に基づく手法)に合わせるべきだと判断しました。これは英国特許法の実務における大きな変更点です。

 

  1. 新しい判断基準:「Any Hardware」アプローチ

最高裁はEPOが採用する“any hardware”アプローチを支持しました。

・クレームに何らかの物理的ハードウェアが含まれれば「発明(invention)」要件を満たす。

・技術的貢献の有無は、進歩性(inventive step)の段階で評価する。

・Aerotelのように、特許適格性の段階で「技術的貢献」を問う方式は誤りとされた。

 これは 欧州特許条約(EPC)52条(2)が「発明か否か」だけを規律することを明確にしたものです。

 

  1. ANNの法的性質

最高裁は、ANN(人工ニューラルネットワーク)そのものは「コンピュータ・プログラム」であると認定しました。しかし、クレームされた方法はコンピュータ・プログラムであるANNを含んではいるが、そのANNは何らかのコンピュータハードウェアにより実施されるしかないため、クレーム発明は当然に技術的手段を含んでいるのであり、また更にハードウェアであるデータベース、通信ネットワーク、およびユーザ装置を記載しているので、「プログラムそのもの(as such)」として除外されることはなく、特許適格性を満たすとされました。

なお、推薦結果(セマンティック類似性)の生成が「技術的貢献」に当たるかどうかについては、最高裁は判断していません。

 

  1. 今後の手続き

本件はUKIPOに差し戻され、新しい基準に基づき、技術的特徴が「進歩性」を有するかどうかの審査が行われることになります。

 

<参照リンク>

本判決は、以下のリンクでご覧頂くことができます。

Emotional Perception AI Limited (Appellant) v Comptroller General of Patents (Respondent) – UK Supreme Court

本欄の担当
弁理士法人ITОH
所長 弁理士 伊東 忠重
副所長 弁理士 吉田 千秋
担当:弁理士 菊池 陽
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