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「コンピュータプログラムの改善のみに関わる実用新案保護対象の不適格性」に関する中国最高人民法院判決 (2023)最高法知行終576号

1.概要

 本判決において、中国最高人民法院は、以下の通り判示しました。

 (1)専利法第2条第3項の規定に基づき、形式上は製品の請求項として作成されているが、実質的にはコンピュータプログラムのモジュール構成に属する請求項は、実用新案の保護対象(客体)には該当しない。

 (2)請求項がコンピュータプログラム自体の改善のみに関わる場合、原則として実用新案の保護対象とはならない。

 (3)技術案が実用新案の保護対象に該当するか否かを判断する際には、当該技術案を全体として捉え、採用された技術手段、解決される技術的課題、および生じる技術的効果を総合的に分析して判断すべきである。

 (判決公表日2025年10月21日)。

 

2.背景

(1)対象実用新案について

 本件に係る対象実用新案は、名称が「コンピュータビジョン技術に基づくインテリジェント計量装置」、実用新案権者がA社である。対象実用新案の請求項1及び明細書の一部は、以下の通りである。

 

【請求項1】

 コンピュータビジョン技術に基づくインテリジェント計量装置であって、

 識別および計量される対象の商品を載置し、重量および重量の変化を感知し、前記商品の商品重量情報を取得するように構成された計量プラットフォームと、

 前記計量プラットフォーム上に載置された商品の視覚情報を収集するように構成された視覚センサと、

 前記視覚情報、前記重量情報および識別モデルに基づき、商品識別を行い、かつ商品識別を終了して商品識別結果を取得するように構成された識別器と、

 前記商品識別結果と商品情報を組み合わせて、候補商品情報を表示し、ユーザーフィードバックを受信し、前記ユーザーフィードバックにより確認された商品情報を値札プリンタまたはレジPOSシステムに送信するとともに、モデリングプラットフォームにフィードバックするように構成された識別フィードバック器であって、前記値札プリンタは、前記ユーザーフィードバックに基づいて商品計量バーコードを印刷するように構成され、前記レジPOSシステムは、前記ユーザーフィードバックに基づいて商品のレジ情報を生成するように構成される識別フィードバック器と、

 収集された視覚情報、重量情報、および使用中のユーザーフィードバックのデータに基づいて識別モデルを訓練するように構成されたモデリングプラットフォームと、を備える、

 インテリジェント計量装置。

 

 【明細書の記載(一部抜粋)】

 【0004】バーコードのない商品をインテリジェントに識別および計量し、商品の識別結果と計量の結果に基づいて簡便に商品決済を行うことができる技術が切望されている。人工知能の発展、特にディープラーニング(深層学習)の応用に伴い、コンピュータビジョン技術を通じて様々な計量商品をインテリジェントに識別し、計量決済の効率を向上させることが可能となっている。

 【0043】初期の訓練用画像や商品識別モデルの構築がなされていない、あるいは簡易的な商品識別モデルしか構築されていない状況においても、実際に収集された商品の画像および商品に対する確認をユーザーフィードバックとして利用することで、実際の運用過程において段階的に商品識別モデルを構築し、完成させることが可能である。計量および使用の過程そのものが学習のプロセスとなり、機械学習のフローを簡略化する。商品識別モデルの識別結果が正確であるかを確認するためのユーザーフィードバックを提供し、それを商品識別モデルにフィードバックしてモデルをさらに最適化することで、使用プロセスは極めて単純になり、顧客および商品販売場所における利便性が向上する。

 

(2)本件の経緯

 北京のX社(「無効審判請求人」と略称)は、2021年12月15日に、本件実用新案権に対する無効審判を提起し、「当該実用新案は、実用新案の保護対象(専利法第2条第3項)に該当せず、また進歩性(第22条第3項)も備えていない」と主張した。

 また、無効審判請求人が提出した証拠は、主として以下の2つである。

 証拠1:CN109118200A

 証拠2:CN107679850A

 国家知識産権局は、本件実用新案を有効として維持する審決を下した。

 これに対して、無効審判請求人は、北京知識産権法院(「第一審法院」と略称)に行政訴訟を提起したが、第一審法院は、「本件実用新案は、識別フィードバック器とレジシステムおよびモデリングプラットフォームとの接続関係に基づいて、既存の計量装置の構造を改善したものである。本件実用新案のハードウェアに関わるプログラムは、従来技術において既知のコンピュータプログラムに属し、本件実用新案の請求項1の技術案の実現および技術的効果の取得は、コンピュータプログラムの改善に依存するものではない」として、請求人の請求を棄却した。

 無効審判請求人は、この判決を不服として、最高人民法院に上訴した。

 

3.争点及び中国最高人民法院の判断

 争点:対象実用新案の請求項1が専利法第2条第3項に規定される実用新案の保護対象に該当するか否かということである。

 

 中国最高人民法院は、本件実用新案は実用新案の保護対象に該当しないと判断し、第一審判決および国家知識産権局の審決を取り消した。

 その理由は、以下の通りである。

 

 (ア)情報伝達におけるプログラムの関与について

 請求項1に記載された、識別フィードバック器からモデリングプラットフォームへのフィードバック、および、モデリングプラットフォームによるユーザーフィードバックに基づくモデルの訓練は、いずれも実質的にデータの送受信関係を限定したものである。これらの画像やテキスト情報の伝達は、特定のコンピュータプログラムを通じて実現されるものであり、単にハードウェア構成要素間の物理的な接続関係だけで実現されるものではない。したがって、その本質はコンピュータプログラムモジュール自体の限定にある。

 

 (イ)技術案の本質について

 本件実用新案の明細書の記載(上記した段落【0004】及び【0043】)によれば、本技術案の本質は、計量情報、視覚情報、およびユーザーフィードバック情報を組み合わせ、機械学習を通じて識別モデルを構築・最適化することにあり、それによってインテリジェントな計量装置を提供して計量決済の効率を向上させることである。つまり、主にコンピュータプログラム自体の限定を通じて発明の目的を達成しようとするものであり、製品の形状や構造の改善とは認められない。

 

 (ウ)既知のプログラムか否かの判断について

 ハードウェアの改善と既知のプログラムを組み合わせた製品であれば、実用新案の対象となり得るが、プログラム自体の改善のみを含む場合は対象外となる。本件では、計量情報、視覚情報、およびユーザーフィードバック情報をモデリングプラットフォームのデータとして組み合わせて、機械学習を通じてモデルを構築および最適化する内容が既知のコンピュータプログラムであることを示す証拠はなく、むしろ第一審判決が進歩性を認めた根拠(証拠1及び証拠2との区別的技術特徴「請求項1において識別フィードバック器がユーザーフィードバック情報をモデリングプラットフォームにフィードバックし、モデリングプラットフォームが重量情報および使用中のユーザーフィードバックデータに基づいて識別モデルを訓練すること」)自体が、プログラムの改善であることを示唆している。

 

4.今後の留意点

 (a)出願種別の慎重な選択

 コンピュータ技術やIoT技術が関わるハードウェア・ソフトウェア一体型の技術案については、実用新案ではなく発明専利(特許)としての出願を検討すべきです。ソフトウェアの改善が含まれる場合、実用新案の保護対象の範囲を超えると判断されるリスクが高まることに留意が必要です。

 (b)請求項の作成における注意点

 実用新案として出願する場合、請求項の限定が「データの処理プロセス」や「アルゴリズムの改善」に陥っていないか、あくまで製品の物理的構造やハードウェア間の接続関係に焦点を当てているかを確認する必要があります。

 (c)進歩性の主張との矛盾回避

 本件のように、進歩性の根拠となる既存技術との間の区別的技術特徴が、実質的にプログラムやアルゴリズムによる情報のやり取りである場合、それが同時に実用新案の保護対象としての適格性を否定する要因となる可能性があることに留意が必要です。

 

本件記載の中国最高人民法院の判決(中国語)は以下のサイトから入手可能です。

https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-4714.html

本欄の担当
弁理士法人ITOH
所長・弁理士 伊東 忠重
副所長・弁理士 吉田 千秋
担当:Beijing IPCHA
中国弁理士 李 海龍

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