最新IP情報

最新IP情報

日本の判決速報・概要

平成9年(行ケ)第87号審決取消請求事件

平成9年9月25日判決

引用例1及び2(主たる引用例2)を用いて拒絶の理由とした審決が判決により取消され、その後、特許庁は、更に審理をし、同じ引用例1及び2(但し、主たる引用例を引用例1とした)により、出願を拒絶した審決が取り消された事例。

1.特許庁における手続の経緯

  1. 昭和59年7月2日、名称を「仮撚加工法」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和59年特許願第135257号)をした。
  2. 平成2年12月18日出願公告(平成2年特許出願公告第60769号)されたが、平成4年6月16日拒絶査定を受けたので、同年7月16日審判を請求した。
  3. 特許庁は、この請求を平成4年審判第13227号事件として審理し、平成5年12月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件前審決」という。)をしたが、本件前審決は、平成8年7月31日に言い渡された東京高等裁判所、平成6年(行ケ)第43号審決取消請求事件判決(以下「本件前判決」という。)により取り消され、本件前判決は確定した。
  4. 特許庁は、同判決を受けて更に審理したが、平成9年3月17日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年4月5日原告に送達された。

2.本願発明の要旨

実質的にポリエチレンテレフタレートからなるポリエステル繊維を仮撚加工する際に、第1ヒーターを適宜の曲率に沿ったガイドを具備し、且つ単一の温度に加熱された非接触ヒーターとし、その温度を350℃以上800℃以下、熱処理時間を0.04秒以上0.12秒以下に維持して仮撚加工することを特徴とする仮撚加工法。

3.判決要旨

判決の拘束力について

  1. 本件前審決は、本願発明は引用例2及び引用例1に基づいて容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることはできないと認定判断したものであるが、本件前判決は、引用例2及び引用例1から本願発明を当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由で本件前審決を取り消し、本件前判決は確定したものであるから、本件審決をする審判官は、本件前判決の拘束力が及ぶ結果、本件前審決におけると同一の引用例から本願発明をその特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されず、この理は、本件審決の理由中で、本件前審決と異なり引用例1を主たる引用例とする場合であっても同様である。  1. 本件前審決は、本願発明は引用例2及び引用例1に基づいて容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることはできないと認定判断したものであるが、本件前判決は、引用例2及び引用例1から本願発明を当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由で本件前審決を取り消し、本件前判決は確定したものであるから、本件審決をする審判官は、本件前判決の拘束力が及ぶ結果、本件前審決におけると同一の引用例から本願発明をその特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されず、この理は、本件審決の理由中で、本件前審決と異なり引用例1を主たる引用例とする場合であっても同様である。本件審決は、どの引用例を主たる引用例とするかによって本件前審決と異なる認定判断をしているものであるから、本件前判決の拘束力を受けない旨判断するが、引用例Aと引用例Bの2つの引用例がある場合に、引用例Aを主たる引用例とするか、引用例Bを主たる引用例とするかは、ある発明が引用例A及び引用例Bとの関係で進歩性を有するか否かを判断するに際しての判断方法の問題にすぎないから、本件審決の上記の判断は採用できない。
  2. そうすると、本願発明が引用例1及び引用例2に基づき容易に発明することができたとの本件審決の認定判断は、本件前審決と引用例を同じくするものであるから、主たる引用例を引用例1とした点で本件前審決と異なるものの、本件前判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)に反する違法なものといわざるを得ず、その点の違法が本件審決の結論に影響することは明らかである。

4.コメント

  1.  一般行政訴訟においては、独禁法、電波法等の如く明文の規定のある場合を除いて、控訴審の審理範囲に制限がなく、原告は新たな違法事由を主張でき、被告行政庁は、処分理由の追加、差し替えができる。従って、特許庁は、例えば、審決取消訴訟において、新たな引用例を提出することができる。1. 一般行政訴訟においては、独禁法、電波法等の如く明文の規定のある場合を除いて、控訴審の審理範囲に制限がなく、原告は新たな違法事由を主張でき、被告行政庁は、処分理由の追加、差し替えができる。
    従って、特許庁は、例えば、審決取消訴訟において、新たな引用例を提出することができる。このような運用を、審決取消訴訟において、かつては最高裁判所が支持していた(例えば、最判35.12.20、最判43.4.4)。
  2. ところで、最高裁判所は、上記判例を、前審の意義等を理由として、昭和51年3月10日の大法廷判決で変更した。2. ところで、最高裁判所は、上記判例を、前審の意義等を理由として、昭和51年3月10日の大法廷判決で変更した。その要旨は、
    1. 審決取消訴訟においては、審判手続きで審理判断されなかった公知事実との対比における無効原因は、審決を違法とし、又はこれを違法とする理由として主張することはできない。
    2. この考えは、拒絶査定に関する審決取消訴訟でも同じである。 
    3. また、無効原因の特定は法条でなく、公知例である。 とするものである。
  3. 本件判決は、 本件前審決と引用例を同じくするものであるから、本件前判決の拘束力が及ぶとするもので、その前提には、上記最高裁の判示の審決における拒絶の理由(無効の理由)は、公知事実(つまり、引用例)により、特定されるものであり、引用例が同じであれば、同じ拒絶理由を構成するとの考えがあるものと思量する。
  4. なお、これを、審決取消訴訟に当てはめてると、同じ、引用例であれば、その使い方を変更しても、審理範囲が異ならないとも読める。
    従って、控訴審の当初において、改めて、攻撃・防御の対策を行うことの必要性が高いことが痛感させられる判決である。つまり、無効審決に対する審決取消訴訟であれば、審決で引用例された引用例を用いた最適な判断方法による無効理由を組立てることも考える必要がある。

本欄の担当
弁理士 湯原忠男
PAGE TOP