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裁判地に関する米国最高裁判決
(TC Heartland LLC v. Kraft Foods Group Brands LLC(Supreme Court, May 22, 2017))
2017年5月22日付で、米国最高裁判所(以下最高裁)により、特許訴訟における裁判地に関する判決が出されました。
判決の要点
この判決において最高裁は、特許訴訟が開始される場所を決定する特許裁判地法上、内国法人はその法人設立の州のみに居住する、と判示しました。
判決の内容
1.背景
一般裁判地法は28 U.S.C. §1391に規定されているが、特許裁判地法は28 U.S.C. §1400(b)に規定されている。特許裁判地法は、「特許侵害の民事訴訟は、被告が居住する裁判地区にて、または被告が侵害行為を行った定常的に確立された営業所を有する裁判地区にて、起こすことができる」と規定している。Fourco Glass Co. v. Transmirra Products Corp.(1957)(1957年)において、最高裁は、特許裁判地法上、内国法人は法人設立の州のみに居住すると判示した。このFourco判決の後、1988年と2011年に一般裁判地法(28 U.S.C. §1391)が改正され、「被告が裁判所の人的管轄権の対象となっている任意の裁判地区において、・・・法人は居住するとみなされる」と規定された。この一般裁判地法の改正とともに、連邦巡回控訴裁判所は、一般裁判地法で規定される「居住」の定義を特許裁判地法の「居住」の意味に適用した一連の判例を構築した。
上記の背景の下、Kraft Foods Group Brands LLC(以下“Kraft”)は、デラウェア州地方裁判所においてTC Heartland LLC(以下“TC”)に対する特許侵害訴訟を提起した。Kraftはデラウェア州の法律に基づき設立され、主たる営業所をイリノイ州に有する。一方、TCはインディアナ州法に基づき設立され、インディアナ州に本社を置いている。TCはデラウェア州で営業する登録をしておらず、デラウェア州には現地拠点を実質上有していない。但し、販売用に被疑侵害製品をデラウェア州に出荷している。
TCは、インディアナ州南部地区への裁判地の移送を命じるよう、連邦巡回控訴裁判所に請求した。TCは、Fourcoにて示された基準が依然として特許裁判地法に適用可能であり、したがってデラウェア州を裁判地とすることは不適切であると主張した。しかし連邦巡回控訴裁判所は、「被告が裁判所の人的管轄権の対象となっている裁判地区」に特許被告は居住すると解釈されてきた長年の先例に基づいて、訴訟をインディアナ州南部地区に移送するというTCの請求を棄却した。つまり連邦巡回控訴裁判所は、TCがデラウェア州に出荷した製品のためにデラウェア州地方裁判所がTCに対する人的管轄権を行使することができるので、請求人(TC)は特許裁判地法の下でデラウェア州に居住していると判断した。 TCはこの決定を最高裁に上告した。
2.判決
最高裁は、一般裁判地法の「居住者」の定義は特許裁判地法には適用されず、Fourcoに示された基準は有効なまま残っていると判示した。即ち、最高裁は、特許裁判地法上、内国法人は法人設立の州のみに居住するとの見解を示した。判決理由のなかで最高裁は、議会が特許特有の裁判地法を制定したことにより、特許訴訟案件は、一般裁判地法の範疇から外れ、それのみの個別の分類として扱われることになるという最高裁による先例に言及した。最高裁はまた、Fourcoの判決以後議会は28 U.S.C. §1400(b)を改正しておらず、また28 U.S.C. §1391の文言はFourcoにより解釈されるU.S.C. §1400(b)の意味を変更するような議会の意図を示していないことに言及した。
最高裁は、この判決に合致する手続を進めるよう、本件を連邦巡回控訴裁判所に差し戻した。
以上
- 本欄の担当
- 副所長 弁理士 吉田 千秋
米国オフィス IPUSA PLLC 米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 有馬 佑輔