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On-Sale Barに関する連邦巡回控訴裁判所(CAFC)判決

(Helsinn Healthcare S.A. v. Teva Pharmaceuticals USA.Inc., 及びTeva Pharmaceutical Industries, LTD.(Federal Circuit, May 1, 2017))

2017年5月1日付で、連邦巡回控訴裁判所(以下CAFC)により、On-Sale Bar(販売による新規性の喪失)に関する判決が出されました。

判決の要点

リーヒ・スミス・米国発明法(AIA)の制定前において、非公開の販売は、米国特許法102条に規定されるOn-Sale Bar(販売による新規性の喪失)に該当するというのが、CAFCの解釈でした。しかしながらAIAにより特許法が改正され、「クレームされた発明の有効出願日前に、当該発明が特許され、印刷刊行物に記載され、又は公然使用、販売、若しくはその他の形で公衆に利用可能であった」場合に当該発明は特許を得ることができない、と条文の文言が変更されました。今回の判決において、CAFCは、AIAの米国特許法102条の下で販売が特許阻害要因となるためには、「販売の存在が公表されているならば、販売条項中に本発明の詳細が公に開示されている必要はない」と判示しました。

判決の内容

1.背景

 Helsinn Healthcare S.A.(以下“Helsinn”)は、パロノセトロンの静脈内製剤に関する4つの特許を所有している。パロノセトロン製剤は、化学療法により誘発される吐き気及び嘔吐を抑制するものである。4件の特許の対象は0.25mg用量のパロノセトロンである。それらの特許のうち3件の特許にはAIA前の旧法の102条が適用され、4件目の特許にはAIA後の新法の102条が適用される。4件の特許はすべて2003年1月30日に出願された仮出願に対する優先権を主張しており、On-Sale Barの基準となる日付は2002年1月30日である。
 2001年4月、HelsinnとMGI Pharma, Inc.(以下“MGI”)とは、供給及び購入契約を締結した。この供給及び購入契約のもと、MGIはHelsinnからの独占的購入に合意し、HelsinnはMGIが要求する0.25mgパロノセトロン製品を提供することに合意した。HelsinnとMGIとは更に、食品医薬品局(FDA)が製品の販売を承認しなかった場合、Helsinnが供給及び購入契約を解除により終了できることに同意した。また同月(2001年4月)に、証券取引委員会(SEC)に書類を提出する形で、供給及び購入契約が公開された。SECの書類には、部分的に編集された供給及び購入契約のコピーが含まれていたが、契約に規定される特定の用量の製剤は開示されていなかった。
 2011年に、Teva Pharmaceuticals(以下“Teva”)はジェネリック0.25mgパロノセトロン製品の販売承認を求める略式新薬申請書(ANDA)を提出した。これに対しHelsinnは、Hatch-Waxman Actに基づき、ANDA申請による特許の侵害を主張して訴訟を起こした。地方裁判所は、非陪審審理の後、米国特許法102条のOn-Sale Bar条項の下で4件の特許は無効ではないと判断した。3件のAIA前の特許に関して、地方裁判所は、On-Sale Barの日付前に販売の商業的申し出があったと判断したが、On-Sale Barの日付前において発明は特許化可能な状態ではなかったと結論づけた。1件のAIAの特許に関して、地方裁判所は、クレームされた発明の公然販売または販売の申し出を要求するように法律が改正され、販売が公然販売に該当するためには発明の詳細が公開される必要があるので、本事例では販売の商業的申し出はなかったと結論づけた。地方裁判所は更に、AIAの特許に関して、On-Sale Barの日付前において発明は特許化可能な状態ではなかったと判断した。
Tevaは地方裁判所の判決を受け、CAFCに上訴した。

2.判決

 CAFCの先例では、On-Sale Barの条件を満たすためには、(1)製品は商業的な販売の申し出の対象でなければならず、(2)On-Sale Barの日付前において発明は特許化可能な状態である必要があった。CAFCは、これら2つの要件について個々に判断を示した。
 第1の要件に関して、Helsinnの主張は、On-Sale Barの日付の時点で、FDAが0.25mgの用量を承認するかどうかは不確実であり、FDAの承認が販売の前提条件であったため、供給及び購入契約は特許無効要因とはならないというものであった。CAFCは、この主張を退け、供給及び購入契約は販売の商業的契約の全ての特徴を備えていると判断した。
 Helsinnは更に、AIAによる法律改正により秘密の販売はOn-Sale Barの対象とならないこと、またOn-Sale Barが適用されるためには発明の詳細が販売により公開されることが必要であると主張した。Helsinnはこの主張の根拠として立法過程において議会のメンバーが行った陳述に言及するとともに、条文中の「販売」という言葉の後に「若しくはその他の形で公衆に利用可能であった」との文言が追加されていることに言及した。CAFCは、これらの主張も受け入れなかった。CAFCは、供給及び購入契約がSECへの書類提出により公開されており、また議会での陳述は販売自体の存在が公表された事例に関するものではないと述べた。CAFCはまた、発明の詳細を販売条項中で開示するという要件は前例に従えば明示的に否定されているとして、Helsinnの主張を退けた。CAFCは、クレームされた発明の詳細を販売文書が公に開示する必要があることは議会での陳述において示唆されておらず、議会がそのような大幅な法律の変更を意図しているのであれば明確な文言によりそれを示す筈であると述べた。
 以上に基づき、CAFCは、「販売の存在が公表されている場合、販売条項中に本発明の詳細が公に開示されている必要はない」と判示した。CAFCは、販売自体の存在が公表されていない販売が、AIAの米国特許法102条のOn-Sale Barに該当するか否かについては判断を示さなかった。この点に関しての判断は本件を処分するために必要がなかったためである。
 第2の要件に関して、CAFCは、発明者が(1)クレームのすべての限定を満たす実施形態を構築し、且つ、(2)本発明がその意図された目的のために機能することを確認した場合、発明が実施化されたことになると述べた。本件の当事者間において、特許化された製剤がOn-Sale Barの日付前に製造され安定状態にあった点について争いはなかった。CAFCはまた、発明がその意図された目的のために機能することが確認されていたことを示す充分な証拠があると判断した。Helsinnは、「薬剤が、主張する又は説明する効用を、処方された使用条件の下で有することの実質的な証拠」をFDAが要求しているため、上記の要件は満たされていない、と主張した。CAFCは、米国特許法102条の下でOn-Sale Barに該当するために発明が特許化可能な状態であったと判断するためにFDAの承認は必要な前提条件ではないとして、このHelsinnの主張を受け入れなかった。

本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。

以上

本欄の担当
副所長 弁理士 吉田 千秋
米国オフィス IPUSA PLLC 米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 有馬 佑輔
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