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ラッチス(懈怠)の法理に関する米国最高裁判決
(SCA HYGIENE PRODUCTS AKTIEBOLAG ET AL. v. FIRST QUALITY BABY PRODUCTS, LLC, ET AL. (SUPREME COURT, MARCH 21, 2017))
2017年3月21日付で、米国最高裁判所(以下最高裁)により、特許権行使におけるラッチス(懈怠)の法理に関する判決が出されました。
判決の要点
特許法第286条には、「法律で別段の定めがある場合を除き、侵害行為に対する訴訟又は反訴の申立てより6年以上前になされた侵害行為については、損害を回収することはできない」と定められています。 ラッチス(懈怠)に基づく衡平の原理によれば、特許権者が不当に且つ弁解の余地がない程に侵害訴訟の提起を遅らせた場合、及びその遅滞により被疑侵害者が著しい不利益を被った場合、特許権者が損害賠償を回収することを禁じています。本件において、最高裁は、特許法第286条で規定された6年の期間内に侵害行為が発生した場合には、損害賠償に対する抗弁としてラッチスの法理を使用することはできないと判示しました。
判決の内容
1.背景
2003年10月、 SCA Hygiene Products Aktiebolag(SCA)はFirst Quality Baby Products, LLC(First Quality)に警告状を送り、First Qualityが米国特許第6,375,646号(646特許)を侵害していると通告した。646特許は、大人向けの失禁用製品に関する特許である。これに対してFirst Qualityは、646特許が米国特許第5,415,649号(Watanabe特許)に基づいて無効であると主張する回答をした。その後SCAは646特許に関する更なる書簡をFirst Qualityに送ることなく、First Qualityは自らの製品の開発と販売とを進めた。2004年7月にSCAは、First Qualityに通知することなく、646特許の再審査を請求し、当該特許がWatanabe特許に対して有効か否かの判断を求めた。3年後の2007年3月にUSPTOは、Watanabe特許に対して646特許が有効であることを示す再審査証を発行した。
その後2010年8月になってから、SCAは、First Qualityに対して特許侵害訴訟を提起した。 これに対し、First Qualityは、SCAの請求はラッチスの法理によって無効であると主張した。 地方裁判所はこの主張に同意し、この地方裁判所の判決は最終的に連邦巡回控訴裁判所の大法廷によっても支持された。
2.判決
最高裁は、著作権侵害訴訟においてなされたラッチスの抗弁に関する最近の最高裁判決であるPetrella v. Metro-Goldwyn-Mayer, Inc. (2014)に示されたのと同様の根拠に基づいて、地方裁判所及び連邦巡回控訴裁判所の判決を取り消した。特許法第286条の規定には、特許権者による申し立て前の6年以内になされた侵害行為に対しては損害賠償を回収することが可能であるという議会によりなされた判断が示されている。議会により明示されたこの時効期間内においてラッチス(懈怠)の法理を適用してしまうことは、司法の権限を超えた「立法の無効化(legislation overriding)」の役割を判事に与えてしまうことになる、と最高裁は判断した。
- 本欄の担当
- 副所長 弁理士 吉田 千秋
米国特許弁護士 Herman Paris
米国オフィス IPUSA PLLC 米国特許弁護士 有馬 佑輔