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仮出願の記載に基づくクレーム解釈に関するCAFC判決

(MPHJ Technology Investments、LLC v. Ricoh Americas Corporation、Xerox Corporation、及びLexmark International、Inc.(Federal Circuit, February 13, 2017))

 2017年2月13日付けで、米国連邦巡回控訴裁判所(以下、 CAFC)により、仮出願の記載に基づくクレーム解釈に関する判決が出されました。

判決の要点

 本判決においてCAFCは、特許が従来技術に基づいて無効であると判断した特許庁審判部(Patent Trial and Appeal Board:以下PTAB)による決定について審理しました。当該特許は最初に仮出願として出願され、仮出願にはクレームを狭く解釈する根拠となる限定的記述が含まれていました。この限定的記述は最終的に特許登録された本出願には含まれていませんでしたが、仮出願自体は特許に参照(incorporation by reference)により組み込まれていました。CAFCの判事団の過半数は、登録特許の本文内に限定的記述を含めなかったということは当該限定的記述を削除するという意図を示しており、当該限定的記述によりクレームが限定されないという意図を示す証拠である、と判断しました。これにより、CAFCの判事団の過半数は、PTABによる無効決定の基となった広いクレーム解釈を支持しました。

判決の内容

1.背景

 MPHJ Technology Investments、LLC(以下MPHJ)は、米国特許第8,488,173号(以下173特許)を所有している。173特許は、「複写の概念を、従来の複写機による紙を用いていたプロセスから、ある場所の装置により紙をスキャンして他の場所の装置にコピーするプロセスにまで拡張する」システム及び方法に関するものである。173特許ではその発明を「バーチャルコピー機(VC)」と称し、「典型的なPCユーザが既存のビジネスプロセスに電子ペーパー処理を追加できるようにする」ことを目的とする。173特許には、「単一のGO又はSTARTボタンを使用してソフトウェアで同様の操作を行うことにより、画像がインターネット上の他の装置又はアプリケーションにシームレスに複製される」ようにVCが画像を複製すると記載されている。173特許の図28には、バーチャルコピー機を介してソフトウェアによって動作する様々な入力装置及び宛先が示されている。

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 Ricoh Americas Corporation、Xerox Corporation、及びLexmark International、Inc.は、173特許のクレーム1~8の当事者系レビュー(Inter Partes Review)を請求した。PTABはレビュー手続き開始を決定し、その後、173特許のクレーム1~8が複数の先行技術文献に基づいて無効であるとの決定を下した。PTABの解釈によれば、クレームに含まれるスキャンと電子メール送信とは、別々のステップであっても単一のステップであってもよく、また人間又は機械によるユーザの介入が有っても無くてもよいというものであった。PTABはこのクレーム解釈に基づいて特許クレームは無効であると判断した。

 CAFCへの控訴において、MPHJは、PTABはクレームを広く解釈していると主張し、正当な狭いクレーム解釈にしたがえば、クレームに係る発明は新規のものであり、自明でもないと主張した。狭いクレーム解釈の根拠としてMPHJが指摘したのは、本発明の範囲を単一ステップでのコピー及び送信プロセスに明示的に限定した仮出願第60/108,798号(以下798仮出願)に含まれる2つの限定的記載であった。但し、798仮出願のこの限定的記載は本出願の本文には含まれていなかった。

2.判決

 PTABのクレーム解釈を審理するにあたり、CAFCは、仮出願がクレーム解釈の根拠となる得ることについて認めた。その一方でCAFCは、削除された単一ステップ操作にクレームを限定する意図について173特許には記載も示唆もないこと、そのように限定された範囲が唯一の意図された範囲であるとは明細書や請求項に記載されていないこと、に着目した。これらの証拠及びその他の証拠に基づいて、798仮出願に含まれる限定的記載の削除により単一ステップ操作が必須要件ではなくオプションであると発明者は意図していた、と当業者であれば合理的に結論付けるであろう、とCAFCは結論づけた。以上により、CAFCは、単一ステップ操作でのコピー及び送信に限定されないというPTABのクレーム解釈を支持した。

 CAFCの3名の判事団のうちの1名の判事は多数判決に対する反対意見を述べた。反対意見を述べた判事は、798仮出願が173特許に参照により組み込まれていることにより、VC発明の単一ステップ要件に関する特許権者による全ての記述が特許に含まれていることに着目した。反対意見の判事は、798仮出願の限定的記述が173特許から削除されたと考えるべきではなく、より狭いクレーム解釈の根拠として認識されるべきであると結論付けた。反対意見の判事の見解によれば、173特許の本文はMPHJの単一ステップのクレーム解釈に対する根拠を含んでおり、少なくとも「単一のGO又はSTARTボタンを使用して原稿の画像を別の紙に複製するという複写機の概念をVCは拡張し、同様の1つの操作をソフトウェアで実行することにより画像がインターネット上の他の装置又はアプリケーションにシームレスに複製される」との記載がそれに該当するとの見解を述べた。

本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。

以上

本欄の担当
副所長 弁理士 吉田 千秋
米国特許弁護士 Herman Paris
米国オフィス IPUSA PLLC 米国特許弁護士 有馬 佑輔
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