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特許権者が権利行使をする際の不公正行為に関するCAFC大法廷判決 (Therasense Inc. v. Becton Dickinson and Co事件)

 2011年5月25日、米国において、不公正行為(inequitable conduct)の判断基準につきCAFC(Court of Appeals for the Federal Circuit: 連邦巡回控訴裁判所)の大法廷(en banc)判決が下されました。 以下にその概要を紹介致します。

事件の背景と経緯

 米国では、特許権の権利行使の際に、被告からの反論として不公正行為の主張がなされることが多いですが、本判決において、CAFC大法廷は、不公正行為の立証に必要な、「特許性の審査における重要性」と「欺く意図」の2つの要件を改めて厳格に適用し、更に不公正行為の立証基準を引き上げました。
 本事件は、第一審である米国カリフォルニア州連邦地方裁判所において、「米国出願の審査過程における主張と対応する欧州出願の審査過程における主張とが矛盾しており、欧州出願における主張を、米国出願の審査過程において米国特許庁に開示しなかったことが、不公正行為にあたり権利行使不能」と判断されましたが、CAFC大法廷では、この地裁の判決を取消し、地裁に差戻しました。

CAFC大法廷判決のポイント

1. 不公正行為の立証要件について

(1)意図
 1つ目の不公正行為の立証要件である「欺く意図」に関しては、「知っているべきだったとの基準(“should have known standard”)」ではなく、「知っており且つ意図的であったとの基準(“knowing and deliberate standard”)」を用いる。
従来技術に関して言えば、「出願人が該従来技術を知り、その重要性を知り、意図的に該従来技術の提出を控える決定をしたこと」を立証するための明確で説得力ある証拠が必要である。
 「出願人が該従来技術を知り、その重要性を知っていたべきであり、該従来技術を提出しないと決定した」旨を立証するだけでは、不公正行為の立証要件を満たすことにはならない。
 欺く意図を推認する際には、明確で説得力ある証拠が要求され、重要な従来技術の提出を控えたことの誠意についての説明がなくても、その事だけで欺く意図があったことの証拠にはならない。

(2)審査における重要性
 更に、2つ目の不公正行為の立証要件である「重要性」に関しては、”but-for materiality”が必要である。
 即ち、「非開示の従来技術を仮に知っていたとするならば、米国特許庁はクレームを許可しなかった」ことを立証することが必要である。現在の米国特許庁のルール56に既定される「重要性」の定義は採用しない(”This court declines to adopt”)。

 これら2つの要件は、互いに独立した要件であり、どちらか一方が、他方を補うことが出来ない関係にある。例えば、審査における重要性が非常に大きい従来技術を開示していない場合であっても、「欺く為の意図的な決定」の要件が欠落していることを補うことは出来ない。
 また、「重要性」が高ければ、「意図」は小さくてもよいとするこれまでの基準(sliding scale)は不適切である。

2. 権利行使不能になる場合

 CAFC大法廷は、仮に上記の2要件が満たされたとしても、「不公正行為によって得られた特許クレームによって、不公平な利益を特許権者が得た場合にのみ」権利行使が不能になる、と述べています。

3. 本事件の地裁への差し戻し

 第一審である米国カリフォルニア州連邦地方裁判所においては、今回CAFC大法廷が示した上記「意図」と「重要性」との要件を考慮していないため、本事件は地裁に差し戻される。

本件判決文は以下のサイトから入手可能です。
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