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コンピュータ関連発明で特許適格性を認めたCAFC判決

(Amdocs Limited v. Openet Telecom, Inc. (Federal Circuit, November 1, 2016))

 2016年11月1日付で、米国連邦巡回控訴裁判所(以下、 CAFC)により、コンピュータ関連発明で特許適格性を認めた判決が出されました。

判決の要点

 この訴訟は、ネットワーク上でデータのフィルタリング及び収集をするプラットフォームにおいて、データをマージするためのシステム、方法、及びコンピュータプログラム、並びにそれらに係るネットワーク課金データレコードを強化するための装置の特許に関わる。連邦巡回控訴裁判所(以下、CAFC)は、当該特許のクレームが、米国特許法101条の下で特許適格な内容であると認められる旨の判断を示した。

判決の内容

 Amdocs社(イスラエル)は、米国特許第7,631,065号(以下「065特許」)を侵害しているとして Openet Telecom社を訴えた。この065特許には、ネットワークサービスプロバイダが、インターネットプロトコルでのネットワーク通信について課金・請求することを可能にするシステムが記載されている。このシステムは、ネットワーク装置、情報源モジュール(ISM)、収集部、中央イベントマネージャ、中央データベース、ユーザインタフェースサーバ、及び端末又はクライアントを含む。これらの構成要素は、分散アーキテクチャで構成されることにより、ネットワーク及びシステムリソースへの影響を最小限に抑えることができる。この分散アーキテクチャーによってソース(情報源)に近いところでデータを収集して処理することで、ネットワークへの影響を最小限に抑えている。このシステムは、分散したデータの収集、フィルタリング、及び負荷分散を可能にする強化機能を含む。これにより情報源の近くにデータを置くことができ、ネットワーク上のボトルネックでの輻輳を軽減しつつ、中央データベース等からのデータ・アクセスが可能となる。

 クレーム1が、065特許を典型的に示している。

  1. A computer program product embodied on a computer readable storage medium for processing network accounting information comprising:
    computer code for receiving from a first source a first network accounting record;
    computer code for correlating the first network accounting record with accounting information available from a second source; and
    computer code for using the accounting information with which the first network accounting record is correlated to enhance the first network accounting record.
    (1.コンピュータで可読な記憶媒体上に具現されたネットワーク課金情報を処理するためのコンピュータプログラム製品であって、第1のソースから第1のネットワーク課金レコードを受信するコンピュータコードと、
    前記第1のネットワーク課金レコードを、第2のソースから利用可能な課金情報と関連付けるコンピュータコードと、
    前記第1のネットワーク課金レコードと関連付けられた前記課金情報を使用して、前記第1のネットワーク課金レコードを強化するためのコンピュータコードと、
    を含むコンピュータプログラム製品。)

 地裁でのクレーム1の解釈をめぐる最初の控訴審で、CAFCは、地裁が「強化する」(“enhance”)という用語を「分散化された方式で多くのフィールド強化を適用する」と解釈したことを是認した。CAFCはまた、地裁が「分散化された」(”distributed”)という用語について、「ネットワークの使用に関するレコードが、中央の管理部に送信される前にそのソースに近いところで処理される」ことを意味する、とした判断についても是認した。この最初の控訴審の後、地裁は当該特許が米国特許法101条の下で特許不適格であったとの判決を下したが、この特許不適格判決に対し、Amdocsは2回目の控訴を提起した。

 CAFCは、065特許のクレーム1がMayo/Aliceテストのステップ1により不適格とされる抽象的アイディアに該当するとしても、十分な「発明的概念」(”inventive concept”)を含んでいるため、ステップ2で適格となる、との判断を示した。特に、CAFCは、地裁のクレーム解釈に含まれる「分散化された強化」(”distributed enhancement”)という特徴が、従来のシステムでは1つの場所に情報を格納するためネットワーク装置からの大量のレコードの流れに対応することが困難となっていたこと、そして巨大なデータベースを必要としていたことに対する重要な改善であると判断した。

 これに基づき、CAFCは、当該クレームが技術的な課題(従前、巨大データベースを必要としていた大量のレコードの流れ)に対して従来とは異なる技術的解決(分散化方式でのデータの強化)をもたらすものであると結論づけた。CAFCはまた、当該クレームの強化機能に関わる限定について、一般的な構成要素(例えば、ネットワーク装置、情報を収集する「収集部」(”gatherers”))を用いるものではあるが、それらが従来にはなかった方法で動作してコンピュータ機能を改善することを必然的に要求している点も指摘した。本判決の多数意見は、以下の見解を示している。

 「強化機能に関わる限定は、本発明の分散化アーキテクチャに依存するだけではなく、分散化された方式で動作するネットワーク装置及び収集部にも依存する。本特許では、フィールド強化は、各ネットワークサービスプロバイダが収集したい個別のデータ項目について、各ネットワークサービスプロバイダにより定義されるものであり、…、収集部がその強化機能を提供する。また収集部は分散化方式で動作し、収集部はネットワーク装置から情報を受信する情報源モジュール(ISM)に依存する。クレーム1は強化に関わる限定を含み、それだけで適格性のためには十分である。その強化に関わる限定は、収集部、ネットワーク装置等の汎用的と見なせる要素を必然的に用いてはいるが、これらが従来にはない分散方式で動作して特定の技術的問題を解決している。」

 上記の見解に基づき、CAFCは、065特許のクレーム1は、各構成要素(ネットワーク装置、収集部、ISM、セントラルイベントマネージャ、中央データベース、ユーザインタフェースサーバ、端末又はクライアント)の特定の構造に結びつけられていると結論付けた。また更に、クレーム1は狭く記載されており、同様のシステムにおける全てのデータ強化手段を独占しようとするものではなく、また汎用的な仕方で構成要素を単に組み合わせるのでもなく、構成要素を意図的に分散アーキテクチャで配置して、コンピュータネットワーク特有の課題に対する技術的解決を与えている、と結論づけた。以上に基づいて、065特許のクレーム1は特許適格な内容と認められる旨の判決をCAFCは下した。

 本判決の反対意見では、「分散化された方式」(”distributed fashion”)という限定は、クレーム1の文脈において意味が明確でないので、発明的概念をもたらすものではない、という点が主張された。すなわち、クレーム1は1つの情報項目を単に課金レコードに追加することを要件としているだけであって、これを「分散化された方式」で行うことが何を意味するのか不明であるとした。反対意見ではまた、クレーム1が、分散される動作についてなんら構成要素又は構造を挙げていない点でも、特許不適格とすべきであるとした。

本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。

以上

本欄の担当
副所長 弁理士 吉田 千秋
米国特許弁護士 Herman Paris
米国オフィス IPUSA PLLC 米国パテントエージェント 有馬 佑輔

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