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自然法則の利用と特許適格性に関する米国最高裁判決 2012年3月20日 (Mayo Collaborative Services v. Prometheus Labs., Inc. 事件)

 胃腸疾患を持つ患者に薬剤を投与し、患者の体内における薬剤の代謝物レベルを測定し、測定結果により次の投与量を調整するクレーム(米国特許6,355,623, 6,680,302)についての特許適格性に関して争われていたMayo Collaborative Services v. Prometheus Labs., Inc. について、2012年3月20日、Supreme Court of the United States(以下、米国最高裁判所)において判決が下されました。

判決概要:

 米国最高裁判所は、米国連邦巡回控訴裁判所(以下”CAFC”)における、Machine-or-Transformation Test (以下、”MOTテスト”) の下で特許適格性を有する、との再審理判決を覆し、当該クレームは特許適格性を満たさないとの判決を下した。

本件の背景:

 Prometheus Laboratories, Inc. (以下、”Prometheus”)は当該2つの米国特許の専用実施権者である。当該2つの特許は胃腸及び胃腸以外の自己免疫疾患患者に対するチオプリン薬剤の投与方法に関する。当該薬剤は投与後に体内で代謝され、血中に代謝物を生じさせる。ところが、患者毎に薬剤の代謝能力が異なる為に、医師にとって、特定の患者に対しての当該薬剤の投与量を判断することが非常に困難であった。
 Mayo Collaborative Services and Mayo Clinic Rochester (以下”Mayo”)はPrometheusの販売する当該特許を基にした検査キットを購入し、使用していた。しかし、2004年に、Mayoは自社でPrometheusの検査キットとは異なる検査キットを販売すると表明した。2004年にPrometheusはMayoの検査キットが当該2つの特許を侵害する、として侵害裁判を地裁に提起した。
 地裁において、Mayoは、当該特許のクレームは実質的に自然法則や自然現象(ここではチオプリン薬剤の代謝物レベルと薬の毒性、効能の相関関係を示す)を規定しているに過ぎない、との理由から略式判決の申立を行ない、同地裁はこれを認め、特許適格性を有さない、との判断を下した。Prometheusは同地裁判決に対して控訴した。
2009年にCAFCはMOTテストの下のTransformation(変換)を満たすとの判断を下し、地裁の判決から一転し、特許適格性を有する、との判決を下した。同CAFC判決を不服とし、Mayoは裁量上訴を行い、これが認められ、米国最高裁判所は、MOTテストは特許適格性を判断する唯一のテストではない、とのビルスキ最高裁判決を考慮したうえでCAFCへ再審理を命じた。しかし、2010年の再審理においても、CAFCは差し戻し前のCAFC判決を維持した。

当該623特許のクレーム1:

1. A method of optimizing therapeutic efficacy for treatment of an immune-mediated gastrointestinal disorder, comprising:(免疫介在性胃腸疾患治療の効能を最適化する方法であって、)

(a) administering a drug providing 6-thioguanine to a subject having said immune-mediated gastrointestinal disorder; and(前記免疫介在性胃腸疾患を持つ患者に6-チオグアニンを含む薬剤を投与し、)
(b) determining the level of 6-thioguanine in said subject having said immune-mediated gastrointestinal disorder, (前記免疫介在性胃腸疾患を持つ患者の6-チオグアニンのレベルを測定し、)
wherein the level of 6-thioguanine less than about 230 pmol per 8×108 red blood cells indicates a need to increase the amount of said drug subsequently administered to said subject and(8×108個の赤血球細胞に対する6-チオグアニンのレベルが約230pmol未満の場合は、前記免疫介在性胃腸疾患を持つ患者に投与する前記薬剤の量を増加させる必要性を示し)
wherein the level of 6-thioguanine greater than about 400 pmol per 8×108 red blood cells indicates a need to decrease the amount of said drug subsequently administered to said subject.(8×108個の赤血球細胞に対する6-チオグアニンのレベルが約400pmol以上の場合は、前記免疫介在性胃腸障害を持つ患者に投与する前記薬剤の量を減少させる必要性を示す方法)

最高裁判決:

 最高裁は、Prometheusの当該特許で規定されている自然法則、つまり血中のある代謝物の濃度と、チオプリン薬剤が効果を失う、或いは有害となる可能性との相関関係は、それ自体では特許適格性を有さないのであり、クレームされた方法が特許適格性を有する為には、その方法が、上記関連性の独占を意図して作り出された記載ではなく、これらの自然法則を純粋に応用しようとするものであることを実際に保証する追加的特徴を有することが必要である、との見解を示した。
 当該特許のクレーム1の(a)で示される、薬剤投与ステップは、上記相関関係に関心のある対象の集団を特定しているに過ぎないと示した。つまり、上記薬剤投与ステップは、チオプリン薬剤を自己免疫疾患患者に使用する、としてチオプリン薬剤を使用する対象の集団を特定しているに過ぎず、またこれは出願時に既に公知である。更に、調整した薬剤の使用を特定の技術環境に限定することで、特許適格性の判断における抽象概念との認定を避けることは出来ない、との見解を示した。
続いて、最高裁は、当該クレーム1の(b)で示される測定ステップは、単に医師に患者の代謝物レベルを測定させているに過ぎない、と示した。更に最高裁は、出願時において上記の測定は良く知られており、このような測定行為は、特許適格性を有さない自然法則に特許適格性を与えるには不十分である、との見解を示した。
 また、wherein clauseの記載で示されるステップは、医師に、関連した自然法則を教えているに過ぎず、また医師が治療における判断を行なう際に、医師がそのテスト結果を考慮に入れるべきとの提案を付け加えているに過ぎないとの見解を示した。

 上記の理由により、最高裁は、当該特許のクレームに記載されたステップは、それ自体が自然法則ではないがクレームの本質を変換するほどに十分なものではない、即ち、クレームの本質である特許適格性を有さない自然法則を、特許適格性を有する自然法則の応用へと変換するのに十分なステップではない、との見解を示し、CAFCにおける再審理判決を覆し、当該クレームに記載される方法は特許適格性を有さない、と判示しました。

本件判決文は以下のサイトから入手可能です。

以上

本欄の担当
副所長弁理士 吉田 千秋
米国オフィスIPUSA PLLC パテントエージェント 有馬 佑輔
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