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特許権侵害訴訟において当該特許の進歩性を判断 韓国大法院判決

 韓国大法院(日本における最高裁判所に相当)は、2012年1月19日、全員合議体による判決(事件番号:2010ダ95390、以下、「今般の判決」と略称します。)で、特許権に基づく侵害差止及び損害賠償訴訟において当該特許発明の進歩性有無についても判断できる旨の判断を示しました。

1.今までの韓国大法院の判例

 特許権に基づく侵害差止及び損害賠償訴訟(以下、「特許権侵害訴訟」)において、当該特許発明の特許性有無について判断できるか否かについては、これまで韓国大法院は、「特許の無効審決が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する法院は、当該特許に無効理由がある否かについて判断することができ、審理の結果、無効理由があることが明らかな場合は、当該特許権に基づく損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されない」旨の判決を下してきました。
 しかし、韓国大法院は、特許権侵害訴訟を審理する法院が判断できる無効理由の種類を制限しており、「特許発明が新規性を有するが否かは判断できるが、特許発明が進歩性を有するか否かまでは判断できない」旨の判決を下したことがあります。

2.今般の判決の内容

 韓国大法院は、全員合議体による今般の判決によって、「特許発明に対する無効審決が確定する以前であっても、当該特許発明の進歩性が否定され、特許無効審判によって無効になることが明らかな場合は、当該特許権に基づく侵害差止及び損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されない。特許権者の請求が権利濫用に当るという抗弁がある場合、特許権侵害訴訟を担当する法院は、その抗弁が妥当であるか否かを判断するための前提として、当該特許発明の進歩性有無についても審理•判断することができる。」と判示しました。
 つまり、今般の判決は、特許発明に対する無効審決が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する法院は、特許発明が進歩性を有するか否かまで審理•判断することができることを明確にしました。
 さらに、韓国大法院は、今般の判決によって、「特許発明が新規性を有するが否かは判断できるが、特許発明が進歩性を有するか否かまでは判断できない」旨の従前の判決を、今般の判決と抵触する限度において変更しました。

3.今般の判決の意義

 1)日本においては、既にいわゆる「富士通•キルビー特許上告審判決」(最高裁平成10年(オ)第364号債務不存在確認請求事件)があり、「特許の無効審決が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、特許に無効理由が存在することが明らかであるか否かについて判断することができると解すべきであり、審理の結果、当該特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である。」と判示したことがあります。特に、「富士通•キルビー特許上告審判決」では、無効理由として、特許法39条1項(先願)及び29条2項(進歩性)が挙げられており、今般の判決は、「富士通•キルビー特許上告審判決」を参考にしているとも思われます。

 2)さらに、日本の場合、平成16年特許法改正により、特許権者等の権利行使の制限の規定が置かれ、現在の特許法104条の3第1項は、「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判によりまたは当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。」と規定しています。また、特許法104条の3第1項は、無効理由の種類について別に制限していないことから、特許法123条第1項に定められている全ての無効理由が該当すると考えられます。

 3)これに対し、韓国特許法は、日本特許法第104条の3のような規定を定めておらず、判例のみによって、特許権侵害訴訟において特許発明の特許性有無について判断できると認められています。
 今般の判決を含め、韓国大法院は、特許権侵害訴訟において法院が審理•判断できる無効理由として、次のようなものを認めています。

①特許発明の技術的範囲が特定できない場合
②特許発明の実施が不可能な場合
③先願の規定に違反した場合
④特許発明が新規性を有していない場合
⑤特許発明が進歩性を有していない場合(今般の判決)

 4)以上のように、韓国において特許権侵害訴訟を審理する法院が判断できる無効理由の種類は、日本と比較して、より制限されています。ただし、特許を無効にするためには特許発明の進歩性が重要な争点になることが多いことから、今般の判決は、特許無効審判を請求しなくても、特許権侵害訴訟において特許発明の進歩性不備に基づく抗弁ができるようになった点で意義があると考えられます。

以上

本欄の担当
韓国弁理士 閔 泰皓(ミン テホ)
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