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米国における誘引侵害に関する米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)大法廷判決

 2012年8月31日、米国特許法第271条(b)項に規定されている、誘引侵害の判断基準に関して争われていたAkamai Technologies, Inc. v. Limelight Networks, Inc. 及び McKesson Technologies, Inc. v. Epic Systems Corp. について、米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)において判決が下されました。以下に本件の経緯及びこの度の大法廷判決のあらましを紹介致します。

判決概要:

 CAFCは、大法廷での審理において、誘引侵害の立証の為の、単一の当事者がクレームされた全てのステップを実行しなければならない、という従前の判断基準は不適切であるとの見解を示した。

本件の背景:

 Akamai社はウェブコンテンツを効率的に配信する方法に関する特許を有していた。Akamai社はLimelight社に対して、直接、間接侵害の両方を主張していた。Limelight社はサーバネットワークを提供しており、サーバ上にウェブコンテンツを保存することにより、効率的なコンテンツの配信を可能とするとされていた。しかし、Limelight社はコンテンツプロバイダーのウェブページ自体を改良するのではなく、上記改良を実行する為のステップをカスタマー側に指示していた。

 Mckesson社は医療従事者と患者間における電子通信方法に関する特許を有していた。Mckesson社はEpic社に対して、誘引侵害を主張していた。Epic社は医療従事者に対して、ソフトウェアのライセンス供与を行なっていた。ライセンスされたソフトウェアは医療従事者と患者間における電子的通信を行なう為のアプリケーションを有していた。Mckesson社はEpic社が顧客に対して誘引侵害を行なったと主張していた。しかし、Epic社はクレームされた方法クレームのステップをひとつも実行しておらず、それらクレームされた方法は、開始のステップを実行する患者とそれに続く全てのステップを実行する医療従事者との間で分担されていた。

地裁判決:

 上記夫々の地裁判決において、Limelight社とEpic社に非侵害の判決が下されていた。Akamai地裁判決では、Limelight社のカスタマーがクレームされたステップの内、1つのステップを実行していた為、BMC判決(BMC and Muniauction, Inc. v. Thom-son Corp., 532 F.3d 1318 (Fed. Cir. 2008))に基づき、非侵害の判断を下した。また、Mckesson地裁判決では、患者によって方法クレームのステップが実行されていた為に、同BMC判決に基づき、非侵害の判断を下した。

CAFC判決:

 本CAFC判決は上記Akamai事件、Mckesson事件を合わせた判決であり、審理の対象は、被告が何らかのクレームされたステップを実行し、他者を誘引し、残りのステップを実行させた場合(Akamai事件);或いは被告が他者を誘引し、全てのクレームされたステップを複数の他者に共同的に実行させた場合であって、単一当事者が全てのステップを実行していない場合(Mckesson事件)、の夫々において、誘引侵害が成立し、被告にその責を問うことが可能か否かである。

 米国特許法271条(a)項の直接侵害が成り立つためには、方法クレームにおいては、単一の当事者が方法クレームの全てのステップを実行する必要がある。原則的には、直接侵害の要件となる行為を複数の当事者が共同で実行しても、単独で全ての行為を実行した当事者がいない限りは、直接侵害は成立しない。但し、被告の代理として又は被告の命令に基づき行動する者により侵害行為が行われるなら、複数の当事者が侵害行為を分割して共同で実行する場合にも直接侵害が成立する。

 本CAFC判決は、直接侵害の法理に基づくものではないので、上記の共同侵害の法理を変更するものではない。

 米国特許法271条(b)項の誘引侵害が成り立つためには、誘引対象の行為が特許侵害行為であることを誘引した側の被告が知っていることが必要である一方で、誘引される側が被告の代理として又は被告の命令若しくは制御下で行動している必要はない。単に、誘引する側が、誘引対象の行為を引き起こしさえすればよい。また、直接侵害が存在しないところに誘引侵害も存在しないということは、十分に確立した原則となっている。

 本CAFC判決では、上記原則がBMC判決において拡張され、単一の者による直接侵害の発生が誘引侵害の必要条件であると判示したことに言及し、再考が必要であるとしている。そして、誘引侵害成立の必要条件として直接侵害の発生を要件とすることは、単一の当事者が直接侵害者としての責を負うことを要件とすることとは異なる、と述べ、単一の当事者が、複数の他者を誘引して特許侵害の要件となる行為を実行させた場合、誘引した当該当事者が侵害者として責任を負わない理由はない、と判示している。

 米国特許法271条(b)項の文言も、上記解釈と一致している。米国特許法271条(a)項が単一の者による行為を規定しているのに対して、米国特許法271条(b)項は、「特許の侵害を誘引する者は侵害の責を負う(“whoever actively induces infringement of a patent shall be liable as an infringer.” )」と規定しており、単一の当事者による侵害に限定されていない。寧ろ、この「侵害(“infringement”)」との文言は、特許侵害の要件となる行為を指しているのであり、そのような行為が単一の者によって実行されたのか或いは複数の者によって実行されたのかについて言及しているのではない。また1952年制定の特許法の立法経過もまた、複数の者ではなく単一の者が侵害の要件となる全ての行為を実行することは、誘引侵害成立のために必要でないことを、強く示唆している。

 上記の解釈に基づき、本CAFC判決では、誘引侵害の立証において、クレームされた全てのステップが実行されることは必須であるが、単一の当事者によって全てのステップが実行される必要は無い、との見解を示し、本件の2つの地裁判決を覆し、誘引侵害の法理に基づく審理を行なうよう地裁に差し戻した。

 本Akamai判決では、判例法における直接侵害の定義の下では、Limelight社はコンテンツプロバイダーに対してステップの実行に関して指示やコントロールをしていなかった、との地裁の判断を支持するとともに、Limelight社による誘引侵害の立証条件として、1)Akamai社の所有する特許を知っていたこと、2)クレームされたステップの中で最後のステップ以外の全てのステップを実行したこと、3)コンテンツプロバイダーが最後のステップを実行するようLimelight社が誘引したこと、4)コンテンツプロバイダーが実際に最後のステップを実行したこと、の4つの条件を示した。

 また、本Mckesson判決では、Epic社による誘引侵害の立証条件として、1)Mckesson社の所有する特許を知っていたこと、2)Mckesson社の所有する特許でクレームされたステップの実行をEpic社が誘引したこと、3)それらのステップが実行されたこと、の3つの条件を示した。

本件判決文は以下のサイトから入手可能です。

以上

本欄の担当
副所長・弁理士 吉田 千秋
米国オフィスIPUSA PLLC パテントエージェント 有馬 佑輔
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