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米国特許法284条に基づく追加賠償金に関する最高裁判決、及び当事者系レビューの開始に関する最高裁判決

(CUOZZO SPEED TECHNOLOGIES, LLC v. LEE (Supreme Court, June 20, 2016)、HALO ELECTRONICS v. PULSE ELECTRONICS (Supreme Court, June 13, 2016))

 2016年6月13日と20日付で、米国最高裁判所により、2つの判決が出されましたのでご報告申し上げます。

 

1.当事者系レビューの開始に関する最高裁判決
 (CUOZZO SPEED TECHNOLOGIES, LLC v. LEE (Supreme Court, June 20, 2016)):

判決の要点

 本判決は、ドライバーが制限速度を超えて運転していることを示すスピードメーターに係る特許に関する。最高裁は、当事者系レビューを開始するとのUSPTOの決定については、裁判所に上訴することが出来ず、USPTOが当事者系レビューにおいてクレーム解釈を行う際には、「最も広い合理的な解釈」の基準を採用する権限を持っている、との判断を示した。

 Patent Trial and Appeal Board (PTAB、訳注:USPTOにおける特許審判部門)は、当事者系レビューを開始後、自明であるとして、いくつかのクレームを削除した。特許権者は、PTAB の決定に対して、以下の理由によりCAFCに上訴した:

  1. 第三者の懈怠にも関わらず(詳細な理由に基づきクレームの無効理由の申し立てを行わなかったにも関わらず)、USPTOが当事者系レビューを不適切に開始した。
  2. 特許請求の範囲を解釈する際に、PTABが「最も広い合理的な解釈」の基準を不適切に使用した。特に、特許権者は、PTABが、通常裁判所が特許の有効性を判断する場合と同様に、「当業者によって理解される通常の意味」を採用すべきであったと主張していた。

 最高裁は、CAFCによる特許権者の上記1の主張の拒絶を支持した。この理由の一つとして、最高裁判所は、米国特許法314条(d)が「このセクションに基づく当事者系レビューを開始するか否かの特許庁の判断は最終決定であり、上訴できない」と規定している点を強調した。

 更に、最高裁は、CAFCによる特許権者の上記2の主張の拒絶も支持した。この理由の一つとして、最高裁判所は、米国特許法316条(a)(4)が「このセクションに基づき、当事者系レビューを設置し、管理する規則を発行する権限を特許庁に付与する」との条項が含まれていることを強調した。また、最高裁は、この規定が特許庁に「最も広い合理的な解釈」に基づく規則を発行する法的権限を与える、とのCAFC判決に同意した。

 

2.米国特許法284条に基づく追加賠償金に関する最高裁判決
 (HALO ELECTRONICS v. PULSE ELECTRONICS (Supreme Court, June 13, 2016)):

判決の要点

 本判決は変換器を有する電子回路パッケージに係る特許の侵害に関する追加賠償金の裁定額を無効としたものである。その判決理由で最高裁は、各地裁が米国特許法284条に基づく追加賠償金を認めるか否かの判断をするに際しては、従前、米国巡回控訴裁判所(CAFC)により採用されたテストの厳格な制限によらず、各事件特有の状況を鑑みて行うべきだとの判断を示した。ただし、最高裁は、追加賠償金を認めるのは、一般的には意図的な違法行為のような重大なケースに限定される、とも指摘した。

 米国特許法284条に基づき、特許侵害事件においては、裁判所は賠償金をその認定又は算定額の3倍まで増やすことができる。2007年のCAFC判決(In In re Seagate Technology, LLC, 497 F. 3d 1360 (2007))では、上記の追加賠償金を求めるには、特許権者は以下の2つの条件を満たすことが求められていた:

  1. 特許権者は明確で信憑性のある証拠に基づき、侵害者が、その行為が特許侵害となる客観的に高い可能性があるにも拘わらず、その行為に至ったことを示さなければいけない。
  2. 特許権者は明確で信憑性のある証拠に基づき、その侵害のリスクが告発された侵害者にとって既知、或いは知り得る程度に明白であったことを、示さなければいけない。

 最高裁は、米国特許法284条の規定は明確な制限や条件を含んでおらず、また 同規定中の“may”の文言は地裁の裁量を認めることを含意しているため、上記Seagateテストは米国特許法284条と整合しない、との判断を示した。最高裁は、上記Seagateテストが、他者の特許を意図的に侵害した違反者であって、その侵害について疑う余地がないか又は有効な抗弁をなしえない多くの者を排除している、とも指摘した。
 更に、最高裁は、侵害が客観的に不注意であったか否かに関係なく、特許侵害者に意図があったこと或いは知っていたことで主観的な故意が認められるのであれば、特許侵害者に対する追加賠償金が正当となる、とも指摘した。

本件記載の2つの判決文は以下のサイトから入手可能です。

以上

本欄の担当
副所長 弁理士 吉田 千秋
米国オフィス IPUSA PLLC 米国パテントエージェント 有馬 佑輔
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