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明細書の記載に基づくクレーム解釈に関するCAFC判決

(The Trustees of Columbia University in the City of New York v. Symantec Corporation (Federal Circuit, February 2, 2016))

 2016年2月2日付で、米国巡回控訴裁判所(以下、CAFC)により、明細書の記載に基づくクレーム解釈に関する判決が出されましたのでご報告申し上げます。

判決の要点

 特許権者(コロンビア大学)が、クレームの用語は、その業界でその時期に慣用的に用いられる意味を持つ、との強い推定が働く、と主張したのに対し、CAFCは、クレーム解釈において重要となるのは当該特許の文脈においてのクレームの用語の意味であると判示しました。

背景

 コロンビア大学がSymantec社に対して、所有する6つの特許の侵害を訴えていた。6つの特許はいずれもマルウェア(悪意のあるソフトウェア)を検知しブロックするためにコンピュータセキュリティに対してデータ分析技術を適用するものである。
 地裁は、特許の幾つかの争点となっているクレームの用語の解釈を示したクレーム解釈命令(裁判所が示すクレーム解釈)を発行した。
 争点となっていた幾つかのクレームの用語のうち、地裁が解釈した文言の1つはU.S. Patent No. 7,487,544 (544特許)に記載される“byte sequence feature”である。
 544特許のクレーム1は、コンピュータシステムのEメール処理アプリケーションにて受信された悪意のある実行可能添付ファイルを検知する方法に係わる。以下にクレーム1を記す:

A method for classifying an executable attachment in an email received at an email processing application of a computer system comprising:

a) filtering said executable attachment from said email

b) extracting a byte sequence feature from said executable attachment; and

c) classifying said executable attachment by comparing said byte sequence feature of said executable attachment with a classification rule set derived from byte sequence features of a set of executables having a predetermined class in a set of classes to determine the probability whether said executable attachment is malicious, wherein extracting said byte sequence features from said executable attachment comprises creating a byte string representative of resources referenced by said executable attachment.

 544特許の明細書に記載されるように、既知の悪意のあるファイルと悪意のないファイルとを入力し、これらのファイルの特徴、或いは“ byte sequence feature”を検査するようコンピュータに指示することにより、悪意のあるファイルと悪意のないファイルとを区別するようにコンピュータモデルが教え込まれる。コンピュータモデルは、その後、新しい未知のプログラムを分析するために使用され、悪意があるプログラムであることを示す“ byte sequence feature”を含んでいるか否かを判定する。
 地裁のクレーム解釈命令では、“ byte sequence feature”を“a feature that is a representation of machine code instructions of the executable”(実行可能ファイルの機械語命令を示す特性)として解釈していた。機械語命令はコンピュータに所定のアクションを実行させるために指示を行うプログラムの部分である。プログラム或いは実行可能ファイルは機械語命令を含んでいる一方で、実行可能ファイルにより使用されるデータを含むが特定の指示を与えることは無い “resource information”も含んでいる。

CAFCの判決

 コロンビア大学は、上記地裁の解釈に反対し、クレームの用語は、その業界でその時期に慣用的に用いられる意味を持つ、との強い推定が働く、と主張した。また上記推定は以下の2つの状況においてのみ覆される、と主張した:

(i) when the patentee has expressly defined a term(明示的に用語を定義した場合)or
(ii) when the patentee has expressly disavowed the full scope of the claim(明示的にクレームの本来の範囲を放棄した場合)。

 コロンビア大学は、“ byte sequence feature”という用語の通常の意味を明細書に基づいて限定した点において地裁は過ちをおかした、と主張するとともに、上記“ byte sequence feature”は包括的な用語であり、実行可能ファイルから抽出されるバイト列の性質や属性に対して用いられるものであり、機械語命令だけでなく他の情報に対しても用いられるものである、との主張をした。
 コロンビア大学は、クレームの用語の平易な意味を単純に検討すれば上記のクレーム解釈となることは明らかであり、このクレーム文言の広い平易な意味を限定するような記載は明細書には一切ない、と主張した。つまり、コロンビア大学は、この用語の平易な意味に従えば”byte sequence”とはバイト列のことであり、“ byte sequence feature”は機械語命令だけでなく、あらゆるバイト列の属性も含む、と主張した。
 CAFCは、クレーム用語の平易で通常の意味の推定が覆される状況に関するコロンビア大学の議論を受け入れなかった。CAFCは、これまでの判例によれば、明示的な再定義或いは放棄(disavowal)は上記推定を覆すために必要とされない、とした。また、明細書や審査記録においてなされた発明を明確に限定する記述により、クレームの用語は再定義され得る、との見解を示した。
 CAFCは、クレーム解釈において重要となるのは当該特許の文脈においてのクレームの用語の意味であり、Phillips大法廷判決(Phillips v. AWH Corp. (Fed. Cir. 2005))にて示されたように、明示的な再定義の記載無しにクレームの用語を明確に再定義することが可能であり、明示的に定義する形式で指標を提供していない場合でも、明細書は暗示的にクレームの用語を定義することが可能であり、特許を読むことによってその意味が明らかになり或いは確定される、とした。
 CAFCは、“ byte sequence feature”の適切な解釈を定めるにあたり、 「“ byte sequence feature”は実行可能ファイルの機械語を示すものであるために有益である」と明細書に2回記述されていることに着目した。CAFCは、これらの記述は単なる好ましい実施形態としての記載ではなく、“ byte sequence feature”を定義する記述である、との見解を示した。またCAFCは、仮出願においても同様に“ byte sequence feature”が定義されており、“the byte sequence feature is the most informative because it represents the machine code in an executable instead of resource information”(バイト列特性は、リソース情報(機械語命令で構成されない)ではなく、実行可能ファイルの機械語を示すため、最も有益である)と記載されていることに着目した。
 更にCAFCは、“ byte sequence feature”がコンピュータモデルを開発し適用するために用いられる特性(”feature”)のうちの一つの類型に過ぎないことは明細書の記載から明らかである、と結論づけた。その際、「データ(byte sequence等)の性質や属性が”feature”である」との明細書中の記載や、「例えばbyte sequence等のデータセット中のプログラムの例から抽出された性質として”feature”が定義される」との明細書中の記載に着目した。これに関し、CAFCは、もし仮に“ byte sequence feature”が機械語命令以外の情報を含むとするならば、“ byte sequence feature”という用語は“feature”という一般的な用語と同じ意味になる筈である、との見解を示した。
 上記に基づき、CAFCは、地裁のクレーム解釈は明細書により十分にサポートされ、地裁のクレーム解釈に基づき非侵害と特許無効を認める、との判示をした。

本件記載の判決文は以下のサイトから入手可能です。

以上

本欄の担当
副所長 弁理士 吉田 千秋
米国オフィス IPUSA PLLC 米国パテントエージェント 有馬 佑輔

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