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懲罰的賠償に関する中国最高裁司法解釈の改訂 (法釈[2026]7号)
2026年4月20日に、中国最高人民法院(最高裁)は、「最高人民法院による知的財産権民事紛争事件の審理における懲罰的賠償の適用に関する解釈」(法釈[2026]7号)(以下、「司法解釈」と称する)を公表しました。
該司法解釈は2026年5月1日から施行されます。
該司法解釈は、2021年3月3日より施行された「最高人民法院による知的財産権侵害民事事件の審理における懲罰的賠償の適用に関する解釈」(法釈[2021]4号)を改訂するものであり、改訂のポイントは、主に以下の3点です。
(1)「故意」及び「情状が深刻である」事案の認定要件について、原告と和解に達しており、且つ侵害行為の停止に合意した後、同一又は類似の侵害行為を再び実施した場合など、故意と認定できる具体的な情状を追加し(司法解釈の第6条第2項第6、7号)、「知的財産権侵害を事業とする」ことの内容を明確にした(司法解釈の第7条第2項第4号)
(2)懲罰的賠償額の「算定基数」の計算方法を明文化した(司法解釈の第9条)
(3)過剰な処罰を防ぐ「過罰相当の原則」に基づき、同一の侵害行為に対して行政過料又は刑事罰金が既に科され、且つ執行が完了した場合、人民法院は、懲罰的賠償の倍数を確定する際にこの事情を考慮しなければならないと明確化した(司法解釈の第13条)
該司法解釈の内容は以下の通りです。(主な改訂内容である下線部分は作成者が付与した)
法釈〔2026〕7号
最高人民法院による
知的財産権民事紛争事件の審理における懲罰的賠償の適用に関する解釈
(2026年4月7日付けの最高人民法院審判委員会第1972回会議において採択され、2026年5月1日から施行される)
知的財産権の深刻な侵害を法律に従って処罰し、知的財産権に対する懲罰的賠償制度を厳格に実施するために、「中華人民共和国民法典」、「中華人民共和国著作権法」、「中華人民共和国商標法」、「中華人民共和国特許法」、「中華人民共和国不正競争防止法」、「中華人民共和国種子法」、「中華人民共和国民事訴訟法」等の関連法規の関連規定に基づき、裁判実務を踏まえて、本解釈を制定する。
第1条 原告が、被告が故意に原告の合法的に有する知的財産権を侵害しており、且つその情状が深刻であると主張し、被告に懲罰的賠償責任を負わせる判決を請求した場合、人民法院は、法律に従って審理しなければならない。
第2条 原告は、懲罰的賠償を請求する場合、損害賠償額および算定方法、ならびにその根拠となる事実及び理由を明示しなければならない。
第3条 原告が第一審の法廷弁論の終結前に懲罰的賠償の請求を追加した場合、人民法院は該請求を許可しなければならない。原告が第二審において懲罰的賠償の請求を追加した場合、人民法院は当事者の自由意思の原則に基づき調停を行うことができる。調停が成立しない場合、該請求を支持しない。
第4条 原告が知的財産権侵害訴訟において損害賠償を請求しており、且つ懲罰的賠償を請求しておらず、人民法院による釈明を受けた後にも懲罰的賠償を請求しておらず、訴訟の終結後に同一の侵害事実に基づき懲罰的賠償を別途請求する訴訟を提起した場合、人民法院は受理しない。
第5条 原告が、営業秘密の侵害以外の不正競争行為を故意に行ったとして被告に対して懲罰的賠償を請求した場合、人民法院は、法律に別段の定めがある場合を除き、該請求を支持しない。
第6条 知的財産権侵害の故意の認定について、人民法院は、知的財産権の客体の類型、権利状態及び知名度、被告と原告又は利害関係者との間の関係等の要素を総合的に考慮しなければならない。
次の各号に掲げる事由に該当する場合、当事者がこれを反証する十分な証拠を提出しない限り、人民法院は、被告が知的財産権侵害の故意を有すると認定することができる。
(1) 被告が原告又は利害関係者から有効な通知を受けたにもかかわらず、権利侵害行為を引き続き実施した場合。
(2) 被告又はその法定代表者、管理者が原告又は利害関係者の法定代表者、管理者、実際の支配者、侵害された知的財産権について知っており、又は知っているべきである場合。
(3) 被告が原告又は利害関係者と労働、労務、協力、許諾、販売、代理、代表等の関係を有し、且つ該関係に基づき侵害された知的財産権に接触したことがある場合。
(4) 被告が原告又は利害関係者と業務上のやり取りがあり、又は契約の締結等のために協議したことがあり、且つ該関係に基づき侵害された知的財産権に接触したことがある場合。
(5) 被告が海賊版、登録商標詐称行為、他者の特許の詐称行為を実施した場合。
(6) 原告と和解に達しており、且つ侵害行為の停止に合意した後、同一又は類似の侵害行為を再び実施した場合。
(7) 実際の支配関係を隠蔽するために、関連会社を設立したり、法定代理者や支配株主を変更したり、虚偽の名義で会社を設立したりし、又は関連する知的財産権の侵害に対する法的責任を免れるために、免責契約を締結した場合。
(8) その他故意と認定できる場合。
第7条 知的財産権侵害の情状が深刻であることであることの認定について、人民法院は、権利侵害の手段、回数、権利侵害行為の継続期間、地理的範囲、規模、結果、侵害者の侵害行為に対する認識、基本的な態度等の要素を総合的に考慮しなければならない。
被告が次の各号に掲げる事由の何れかに該当する場合、人民法院は、情状が深刻であると認定することができる。
(1) 権利侵害により行政処罰を受けており、又は法院により責任を負う旨の判決を受けた後に、同一又は類似の権利侵害行為を再び実施した場合。
(2) 正当な理由なく保全裁定の履行を拒否した場合。
(3) 権利侵害に係る証拠を偽造、毀損又は隠蔽した場合。
(4) 権利侵害行為を主たる活動とし、又は権利侵害により獲得した利益を主な収益源としている等、知的財産権侵害を事業としている場合。
(5) 権利侵害により獲得した利益が相当額であり、又は権利侵害が権利者の信用若しくは市場シェアに深刻な損害を与えた場合。
(6) 権利侵害行為が国家安全、公共利益に危害を与え、又は与える恐れがある場合。
(7) その他情状が深刻であると認定できる場合。
第8条 人民法院は、懲罰的賠償額を確定するにあたって、それぞれ関連法律に基づき、原告の実際の損害額、被告の違法所得額又は権利侵害により獲得した利益を算定基数としなければならない。算定基数には、原告が権利侵害を停止させるために支払った合理的な費用が含まれない。法律に別途の規定がある場合、その規定に従う。
実際の損害額、違法所得額、権利侵害により獲得した利益の算定が何れも困難である場合、人民法院は、法律に従って当該権利の使用許諾料を参照して懲罰的賠償額の算定基数を合理的に確定する。
法定賠償額は、懲罰的賠償額の算定基数として用いることはできない。
第9条 被告の違法所得額又は権利侵害により獲得した利益を懲罰的賠償額の算定基数とする場合、営業利益を参照して確定することができる。被告が知的財産権侵害を事業としている場合、販売利益を参照して算定することができる。利益率が確定できない場合、統計機関、業界団体等が公表した同一期間、同一業界の平均利益率又は権利者の利益率を参照して算定することができる。
第10条 人民法院が法律に従って被告に対してその把握している権利侵害に関連する帳簿、資料の提出を命じ、被告が正当な理由なくその提供を拒否し、又は虚偽の帳簿、資料を提出した場合、人民法院は、原告の主張及び訴訟において提出された証拠に基づき懲罰的賠償額の算定基数を確定することができる。民事訴訟法第114条に規定する事由に該当する場合、法律に従って法的責任を追及することができる。法律に別途の規定がある場合、その規定に従う。
第11条 人民法院は、懲罰的賠償の倍数を確定するにあたって、被告の主観的過失の程度、権利侵害行為の情状の深刻さ等の要素を総合的に考慮しなければならない。懲罰的賠償額の倍数は、法定の範囲内で確定され、整数でなくてもよい。
第12条 人民法院が懲罰的賠償の適用について確定した損害賠償額の総額は、最大で算定基数の5倍である。権利者が侵害行為を停止させるために支払った合理的な費用は、該総額とは別に算定される。
第13条 同一の侵害行為に対して行政過料又は刑事罰金が既に科され、且つ執行が完了した場合、人民法院は、懲罰的賠償の倍数を確定する際にこの事情を考慮しなければならない。
第14条 本解釈は、2026年5月1日から施行する。
本解釈の施行に伴い、「最高人民法院による知的財産権侵害民事事件の審理における懲罰的賠償の適用に関する解釈」(法釈[2021]4号)は同時に廃止される。
本解釈の施行前に有効な判決が下された事件について、本解釈の施行後に当事者が再審を申し立てた場合、又は審理監督手続に従って再審が決定された場合、本解釈は適用されない。
本件記載の中国最高裁の司法解釈の詳細(中国語)は以下のサイトから入手可能です。
https://www.court.gov.cn/shenpan/xiangqing/497911.html
- 本欄の担当
- 弁理士法人ITOH
所長・弁理士 伊東 忠重
副所長・弁理士 吉田 千秋
担当:中国弁理士 張 小珣