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Madrid System Yearly Review 2026 まとめ
先日、WIPO国際事務局より「Madrid System Yearly Review 2026」が公開されました。本稿では、近年のマドプロ出願動向及び、マドプロ出願と直接出願を検討する際の一般的な指標につきまして、概要をご紹介いたします。
1、マドプロ出願動向
(1) 出願件数推移

2025年のマドプロ出願件数は64,150件となり、前年比1.5%減となりました。
もっとも、依然として高水準での利用が続いており、マドプロ制度がグローバルブランド保護における中核的手段として定着している状況がうかがえます。
(2) 加盟国拡大
2025年にはグレナダが加盟し、加盟国数は132か国へと拡大しました。
WIPO国際事務局によれば、マドプロ加盟国は世界GDPの約90%、世界人口の約82%をカバーしているとのことです。
(3) 出願国ランキング

上図は、本国官庁別の2025年マドプロ出願件数を示したものです。
2025年の国際出願件数上位国は、
1、米国(10,997件、前年比2.5%減)
2、ドイツ(6,106件、前年比5.3%減)
3、中国(5,636件、前年比4.9%減)
となっており、日本は7位(3,153件、前年比4.2%増)でした。
特に注目されるのは、アジア地域の存在感の高まりです。
2015年時点では、世界全体に占めるアジア地域からの出願割合は15.5%に過ぎませんでしたが、2025年には25.6%まで上昇しています。中国、日本、韓国、シンガポール等による国際ブランド展開が加速していることが示唆されます。
また、インドは初めてTop 20入りを果たしました。
中でも、中国企業の動向は特徴的です。出願件数ベースでは世界3位である一方、指定国数ベースでは世界1位となっております。
中国企業は、1件あたり平均約14か国を指定しており、世界平均(約7か国)を大きく上回っています。この点から、中国企業では、事業展開初期の段階から広域的な権利確保を重視する傾向が強まっていることがうかがえます。日本企業においても、より早期の海外ブランド戦略立案の重要性が高まっていると考えられます。
(4) 区分、指定国
下図は、2025年における、1件のマドプロ出願あたりの区分数を示したものです。多くの国際出願が、1件あたり1~3区分で構成されています。
指定商品・役務では、引き続き第9類(ソフトウェア、電子機器等)が最多であり、第35類、第42類が続きました。AI、SaaS、ITサービス等を中心とするテクノロジー分野における国際展開需要が引き続き高い状況にあります。
また、サービス分野の比率は36.3%まで上昇しており、DX、クラウドサービス、コンサルティング、教育関連ビジネス等の海外展開拡大も反映されているものと思われます。

下図は、マドプロ出願件数上位10か国における主要出願分野の構成割合を示したものです。2025年においては、上位10か国のうち9か国で、「研究・テクノロジー関連分野」が主要な出願分野となりました。一方、韓国では、「医療・ヘルスケア関連分野」の出願割合が相対的に高くなっている点が特徴的です。

また、下図は、2025年における、1件のマドプロ出願あたりの指定国数を示したものです。多くの出願では、2~3か国が指定されています。
もっとも、マドプロ制度では、事後指定制度により後から指定国を追加することも可能です。そのため、将来的な権利範囲拡張を見据え、まずは重要国のみ(1か国)を指定して出願を行うケースも一定数存在するものと考えられます。

2025年は、欧州が最も多く指定されました。
また、UAE指定が前年比14.5%増となった点も注目されます。その他、タイ(前年比4.4%増)、マレーシア(前年比3.6%増)等の伸びもみられており、中東・ASEAN地域におけるブランド保護ニーズの高まりがうかがえます。

近年は、事業展開初期の段階から複数国での商標保護を検討する企業が増加しており、特にAI、IT、ヘルスケア、ライフスタイル関連分野では、グローバル展開を前提とした商標戦略の重要性が一層高まっています。
今後も、各国制度や審査実務の変化を踏まえつつ、早期かつ戦略的な国際出願の検討が重要になるものと考えられます。
2、マドプロ出願を検討する際の一般的な指標
マドプロ経由と各国への直接出願のいずれを選択すべきかは、展開国数、指定商品・役務、将来的な使用計画、現地実務対応の必要性等によって変わります。
以下、一般的な判断指標をまとめました。

国別の主な考慮事項は以下の通りです。
(1) 米国
・指定商品・役務について、実際の使用又は使用意思との整合性が厳格に審査される傾向があり、比較的広範又は抽象的な表現については、拒絶理由通知(Office Action)が発行されるケースが少なくありません。
特に、ソフトウェア、SaaS、AI関連サービス、プラットフォームサービス等については、機能、用途、提供形態等の具体的記載が求められる傾向があります。
マドプロ経由の場合には、補正可能範囲の制約や、国際登録全体との整合性への配慮が必要となる場合があります。
・マドプロ経由の場合、米国登録時点では使用証拠提出が不要です。
そのため、使用証拠収集まで一定期間を要する場合には、マドプロ経由の方が利便性が高いケースもあります。
もっとも、米国は使用主義を採用しているため、実際に使用証拠を提出した権利の方が、実務上より安定的に機能する場面もあります。
そのため、使用証拠提出の見込みが立っている場合には、使用意思ベースの直接出願を行い、登録時に使用証拠を提出する運用も有力な選択肢となります。
・直接出願において、指定商品・役務を自由記載形式とする場合には、以下の米国庁費用が加算されます。
- 1区分あたり:USD 200(約32,000円)
- 自由記載部分が1,000文字(スペース及び句読点を含む)を超える場合:
追加1,000文字ごとに、1区分あたりUSD 200(約32,000円)
そのため、自由記載形式により、多区分又は多数の商品・役務を指定する場合には、費用増加に留意する必要があります。
なお、上記追加費用は、マドプロ経由の米国出願には適用されません。

(2) 中国
中国では、ニース分類に加え、中国独自の「サブクラス」実務が採用されています。
そのため、同一区分内であっても、指定商品・役務の記載内容によって、権利範囲や類否判断が大きく左右されます。中国実務を踏まえたサブクラス網羅や、現地実務に即した商品・役務表示の最適化が極めて重要となります。
もっとも、マドプロ経由の場合、国際登録上の記載内容に制約されるため、中国実務に合わせた柔軟な調整が難しくなる場合があります。
(3) ブルネイ、ラオス、タイ、ベトナム
東南アジア各国では、商標実務や審査運用に比較的大きな差異があります。
・ブルネイ
マドプロ経由の方が権利化まで比較的迅速であるため、マドプロ経由を推奨いたします。
・ラオス
直接出願の方が手続面で簡便な場合が多いため、直接出願を推奨いたします。
・タイ
指定商品・役務の記載実務が独特であり、ファストトラック制度の活用余地もあるため、直接出願を推奨いたします。
・ベトナム
マドプロ経由の方が権利化まで比較的迅速であるため、マドプロ経由を推奨いたします。
上記は一般的な指標であり、個別案件の事情によって最適なご提案内容は変わる場合がございます。ぜひお気軽にご相談ください。
今後も、各国制度や実務運用の最新動向を継続的に分析し、実務上重要と思われる情報を適宜ご案内して参ります。
- 本欄の担当
- 弁理士法人ITOH
所長 弁理士 伊東 忠重
商標部 弁理士 東 泰成
担当:弁理士 野崎 圭子