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名称が異なるのみで構造・機能・用途に実質的差異がない技術的特徴は「相違点」ではない(2024)最高法知行終870号
1.概要
本判決において、中国最高人民法院(以下、「最高裁」という)は、実用新案の無効行政訴訟に関して、進歩性の判断基準を示しました。最高裁は、該実用新案と従来技術とを比較して、特定の構造の名称が異なっていたとしても、両方の構造、機能、用途に実質的な差異がない場合、それは「相違点」ではないと判示しました。その結果、該実用新案が進歩性を具備していないと判断され、無効が維持されました(判決日:2025年5月30日)。以下に、この判決の内容につきましてご報告申し上げます。
2.背景
(2-1)対象実用新案の内容
対象となった実用新案は、中国北京奈某環境保護技術株式会社(以下、「奈某社」という)が保有する「セメント窯における代替燃料処理に適用する固定ストーカ式予燃炉」と称する中国実用新案第202221013454.9号(以下、「3454実用新案」という)である。
3454実用新案の裁判の基礎とする補正後の独立請求項1は、以下の通りである。
【請求項1】
炉体を含み、前記炉体の左側に供給口を設置し、前記供給口の下部に噴気口を設置し、前記噴気口と面する炉体内部に水平な熱分解段を設置し、前記熱分解段に熱分解段炉配列を設置し、前記熱分解段の右側に上から下へ傾斜する燃焼段を設置し、前記燃焼段に複数の燃焼段炉配列を設置し、前記燃焼段炉配列は燃焼段に沿って階段状に配置し、前記燃焼段の底部に水平な排出段を設置し、前記排出段の右側の炉体に排出口を設置し、前記熱分解段の真上の炉体に三つの空気導入口を設置し、前記熱分解段の幅(A)は500~1200mmであり、前記燃焼段の傾斜角度αは12.5°~45°であり、前記燃焼段炉配列の単層有効幅(B)は200~450mmであり、隣接する二層の燃焼段炉配列間の高さ(H)は100~400mmである、ことを特徴とするセメント窯における代替燃料処理に適用する固定ストーカ式予燃炉。
(2-2)案件の経緯(時系列順)
2022年4月28日に、奈某社が、「セメント窯における代替燃料処理に適用する固定ストーカ式予燃炉」と称する中国実用新案第202221013454.9号を中国で出願した。
2022年9月6日に、当該実用新案が許可された。
2022年10月12日に、中国北京中某潤天環境保護技術株式会社(以下、「中某社」という)が、中国特許庁に、3454実用新案のすべての請求項を対象として無効審判を請求した。
中某社は、主に以下の証拠4及び5等を提出した。
証拠4(CN215676501U、奈某社の先行実用新案):多段空気予熱装置に関し、炉体、炉体上部に位置する気流入口1、炉体側面に位置する材料入口を含み、前記炉体は上部から下部まで多階段を呈して配置し、各階段に空気推進装置を設置し、材料入口下端は燃焼プラットフォーム16を連結する。これによって材料がまず燃焼プラットフォームに到着して、初級予燃を行う、同プラットフォームに関する構造、機能、用途が記載されている(文章が長いため省略する)(明細書第[0004]段落~第[0045]段落を参照)
証拠5(CN113531541A):セメント窯の固廃処理装置に関し、窯尾分解炉3の隣に設置され、前記固廃処理装置の構造は階段炉5であり、前記階段炉5の上面に固廃危険廃棄物仕込み口6を設置し、前記階段炉5の前面に三次分風口8を設置し、前記階段炉5の後面は窯尾分解炉3と連通し……(明細書第[0037]段落~第[0068]段落を参照)
2023年4月27日に、中国特許庁は、第561421号無効審判決定を下し、この決定において、証拠4及び証拠5の組み合わせに基づいて、3454実用新案のすべて請求項を無効と宣告した。
2023年8月7日に、奈某社は該決定を不服とし、一審法院に提訴した。一審法院は、証拠4の「燃焼プラットフォーム」は該実用新案の「燃焼段炉配列」に相当しないと認定して、中国特許庁の無効決定を取り消した。
2024年8月1日に、中某社及び中国特許庁は該一審判決を不服とし、最高裁に上訴した。
2024年10月22日に、最高裁は、合議体によって公開審理を行った。
2025年5月30日に、最高裁は、該実用新案を無効とした中国特許庁の決定を維持する終審判決を下した。
3.争点及び最高裁の判断
二審において争点となったのは、証拠4の「燃焼プラットフォーム」と、該実用新案の「燃焼段炉配列」との間に、名称の相違を超える実質的な構造上・機能上の相違があるか否かということである。
これに対し、最高裁は、下記のように判断している。
まず、該実用新案の明細書により、熱分解段と燃焼段で扱う原料や反応温度は同じである。証拠4の「燃焼プラットフォーム」に対応する構造を、該実用新案の「燃焼段炉配列」と比較した場合、名称が異なるのみであり、動作メカニズムに実質的な差異はない。
次に、奈某社は「燃焼段炉配列」の方が「燃焼プラットフォーム」より保護範囲が広いと主張したが、これは原料を処理できる量に応じて当業者が選択でき、用途に実質的な差異はない。
更に、燃焼プラットフォームを単に燃焼段炉配列に変更したことで、他の技術特徴が変わらない場合、予期せぬ技術的効果を奏したという証拠はなく、予期せぬ技術的効果は認められない。
従って、名称が異なるのみで、構造、機能、用途、効果に実質的差異がない場合、証拠4の「燃焼プラットフォーム」は「相違点」ではないと判示し、無効維持と判決した。
4.今後の留意点
本判決は、進歩性の審査において、名称に捉われず、当業者の視点から技術の実態を把握すべきであるというルールを改めて強調したものである。
1)従来技術と名称が異なるだけの構成要素を「相違点」として主張しても、その機能や構造に実質的な差異がなければ、進歩性を否定されるリスクが高い。
2)新しく命名した用語が単なる言葉の言い換えではなく、特定の構造的改良や、それによってもたらされる特有な技術的効果を、明細書において具体的に説明、立証することが不可欠である。
本件の中国最高裁の判決(中国語のみ)は以下のサイトから入手可能です。
https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-5068.html
- 本欄の担当
- 弁理士法人ITOH
所長・弁理士 伊東 忠重
副所長・弁理士 吉田 千秋
担当: 中国弁理士 塗 琪順