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ロシアにおける商標保護の最新動向 ― 2026年の実務上の留意点

 近年、ロシアにおける外国企業の知的財産権をめぐっては、制裁や事業撤退等の影響から、権利保護の実効性について様々な情報がみられます。しかし、ロシアの商標制度自体は現在も運用されており、外国企業による商標の出願、登録の維持及び権利行使は引き続き行われています。
一方、ロシア事業の縮小・撤退や流通経路の変化を背景として、不使用取消請求、使用証拠の確保、並行輸入、オンラインマーケットプレイス上の侵害対策等について、従来とは異なる実務上のリスクが生じています。また、2026年には、商標出願書類や商標権侵害に対する賠償制度についても変更が行われています。
本稿では、最新情報に加え、ロシア特許庁(Rospatent)、ロシア民法その他の公表資料を確認した上で、日本企業様がロシアで商標権を維持・管理するにあたり、特に留意しておきたいポイントをご紹介いたします。

1、現在も商標制度は機能 ― ただし「保有しているだけ」ではリスクも
 ロシアの商標制度自体は現在も運用されており、ロシア国内出願やロシアを指定する国際登録を通じた商標保護も引き続き可能です。現在ロシアでの事業活動を縮小している場合であっても、将来の市場再参入や第三者によるブランドの先取りを防ぐ観点から、重要商標を維持する意義は残っています。
もっとも、商標を登録したまま長期間使用していない場合には不使用取消の対象となり得るほか、流通経路の変化によって使用証拠の確保が難しくなっているケースもあります。
したがって、現在のロシアにおける商標管理では、「登録の有無」だけでなく、「どの商標を、どの商品・役務について、どのように維持するか」という継続的なポートフォリオ管理が重要です。

2、注目したいポイント
 特に注目すべきポイントと、今後検討しておきたい対応について、以下のとおりご紹介します。

3、不使用取消 ― 3年間の不使用に注意
 ロシア民法第1486条では、商標が継続して3年間使用されていない場合、その指定商品・役務の全部又は一部について、利害関係人の請求により商標権が早期に取り消される可能性があります。取消訴訟では、商標権者側が対象期間における商標の使用を立証する必要があります。
近時、外国の著名ブランドを対象とする不使用取消訴訟が複数提起されています。HUGO BOSS(事件番号 SIP-1315/2024)やRay-Ban(SIP-582/2025)等に関する事件では、裁判所が取消請求人の真正な利害関係や、その商業上の目的を慎重に検討し、著名ブランドの信用への便乗等を目的とする請求について、取消しを認めなかった事例がみられます。
もっとも、これらは外国企業の商標が不使用取消から一律に保護されることを意味するものではありません。正当な利害関係を有する者から請求がなされ、商標権者が必要な使用を立証できない場合には、登録が取り消されるリスクがあります。

4、使用証拠は「問題が起きる前」に確保
 ロシアでの直接販売を縮小している企業では、商品が第三国や複数の事業者を経由してロシア市場に流通することがあります。その場合、単に商品がロシア国内で販売されていることだけでなく、その使用が商標権者自身又はその許諾・支配の下で行われたことを示せるかが重要となります。

 特に主要商標については、不使用取消請求を受けてから資料を探すのではなく、少なくとも年1回程度、ロシアにおける使用状況と証拠を確認・保存する運用を検討することをお勧めいたします。

5、並行輸入 ― 商品・ブランドごとの最新確認が必要
 ロシアでは、すべての商品について一律に並行輸入が認められているわけではありません。政府が定めるリストに掲載された一定の商品・ブランドについて、商標権者の同意を得ない輸入を認める、いわゆる選択的な並行輸入制度が運用されています。
したがって、並行輸入の可否は、対象商品・ブランド及びその時点で有効なリストを個別に確認する必要があります。
対象リストは2026年5月27日に改訂されています。対象リストは今後も変更される可能性があるため、自社商品について定期的に最新状況を確認することが重要です。

6、オンラインマーケットプレイス ― 模倣品監視の重要性
 Ozon、Wildberries、Yandex Market等のオンラインマーケットプレイスは、ロシアにおける重要な販売チャネルとなっています。これらのプラットフォームでは、適法な並行輸入品と模倣品その他の侵害品が同じ商品カテゴリー内で販売される場合があり、また、出品を削除しても別の販売者から再出品される可能性があります。
そのため、重要ブランドについては、オンライン上の継続的な監視、侵害ページの証拠保全、必要に応じたテスト購入、商品確認及び削除申立て等を組み合わせた対応を検討することが有用です。ロシアではデジタルプラットフォームと知的財産登録情報との連携強化も進められており、今後の実務運用を注視する必要があります。

7、2026年の主な制度変更
(1) 商標出願書類の変更
 ロシア経済発展省令第386号(2026年5月13日)により、商標出願書類の様式が改正されました。2026年8月18日以降の出願については、指定商品・役務について出願標章を商標又はサービスマークとして使用する意思を確認する項目が追加されています。今のところ、この確認に際して、使用意思を裏付ける別途の証拠提出までは要求されていません。

(2) 商標権侵害に対する定額賠償の上限引上げ
 連邦法第214-FZ(2025年7月7日)によるロシア民法改正が2026年1月4日に施行され、商標の違法使用について、損害賠償に代えて請求できる定額方式の賠償額の上限が、従来の500万ルーブル(約930万円)から1,000万ルーブル(約1,860万円)に引き上げられました。最終的な賠償額は、個別事案に応じて裁判所が判断します。

8、今後確認したい「5つのアクション」

 現在のロシアにおいては、商標権を単に保有するだけでなく、使用状況・使用証拠・流通経路・第三者の動向を継続的に把握することが、将来の権利維持及び市場再参入の選択肢を確保する上で重要です。特に、ロシアでの事業を縮小・停止している企業におかれましては、主要商標の使用状況と使用証拠について、一度棚卸しを行うことをお勧めいたします。


 弊所においても、今後の制度変更及び実務運用の動向を注視し、必要に応じて追加情報をご案内いたします。

 

参考資料
・Papula-Nevinpat, “Protecting Brands in Russia in 2026: Navigating New Risks and Changing Realities” (2026)
https://papula-nevinpat.com/news/wipr-ip-in-russia-facts-fiction-and-strategic-guidance/
・ロシア民法第1486条(商標の不使用による早期取消)
・Rospatent「商標、サービスマーク及び団体商標の国家登録」/ロシア経済発展省令 No. 386(2026年5月13日)
https://rospatent.gov.ru/ru/stateservices/gosudarstvennaya-registraciya-tovarnogo-znaka-znaka-obsluzhivaniya-kollektivnogo-znaka-i-vydacha-svidetelstv-na-tovarnyy-znak-znak-obsluzhivaniya-kollektivnyy-znak-ih-dublikatov
・ロシア産業貿易省令 No.2701(2023年7月21日)及び同省令を改正するロシア産業貿易省令 No.4769(2025年9月26日、2026年5月27日施行)
http://publication.pravo.gov.ru/Document/View/0001202511270015

本欄の担当
弁理士法人ITOH
所長 弁理士 伊東 忠重
商標部 弁理士  東 泰成
担当:弁理士 野崎 圭子