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同一の請求項において同一の用語や表現の解釈と明確性要件についての判断に関する中国最高裁判決 (2023)最高法知行終485号

1.概要

 本判決において、中国最高人民法院(以下、「最高裁」という)は、実用新案の無効行政訴訟に関して、当該実用新案の同一の請求項において同一の用語や表現が複数回使用されている場合に、それらの用語解釈と請求項の明確性要件についての判断基準を示しました。同一の請求項における当該同一の用語や表現が複数回使用されていても、機械的に同一視せず、当業者の視点から文脈を考慮して解釈すべきと判断され、明確性要件違反の判断が否定され、原判決及び無効審判決定が取り消されました(判決日:2024年12月24日、判決公開日:2025年9月28日)。以下に、この判決の内容につきましてご報告申し上げます。

 

2.背景

(2-1)対象実用新案の内容

 対象となった実用新案は、中国東莞市奥聖龍自動化技術株式会社(以下、「奥某社」という)が保有する「ロックピン自動組み立て機構」と称する中国実用新案第201920167032.9号(以下、「0329実用新案」という)である。

 0329実用新案の裁判の基礎となった独立請求項1は、以下の通りである。

【請求項1】

支持板(1)を備えるロックピン自動組み立て機構であって、ロックピン押出部(2)、ロックピン位置決め校正部(3)、ロックピン押下部(4)、及び押下駆動部(5)をさらに備え、前記支持板(1)には、ロック本体のロックピン取付孔と同一中心線に配置された位置決め孔(11)が設けられ、前記ロックピン押出部(2)は、前記支持板(1)上に取り付けられ、かつ前記位置決め孔(11)と同一中心線に設けられ、前記押下駆動部(5)は、前記支持板(1)上に取り付けられ、前記ロックピン位置決め校正部(3)は、前記押下駆動部(5)から駆動力が伝達されるように接続されることで、前記ロックピン位置決め校正部(3)の上下方向に駆動され、前記位置決め孔(11)を通って前記ロック本体のロックピン位置決め孔に挿入され、前記ロックピン押下部(4)は、前記押下駆動部(5)から駆動力が伝達されるように接続されることで、前記ロックピン押下部(4)の上下方向に駆動され、前記位置決め孔(11)を通って前記ロック本体のロックピン取付孔に挿入されることを特徴とするロックピン自動組み立て機構。(注目する用語や表現に下線を付す)


(2-2)案件の経緯(時系列順)

2019年1月30日に、奥某社が、「ロックピン自動組み立て機構」と称する中国実用新案第201920167032.9号を中国で出願した。

 

2019年11月15日に、当該実用新案が許可された。

 

2020年12月11日に、中国浙江安某スマート防犯技術株式会社(以下、「安某社」という)が、中国特許庁に、0329実用新案の独立請求項1をはじめとして無効審判を請求した。

安某社は、主に請求項1について、明確性要件違反及びサポート要件違反等を主張した。

 

2021年6月29日に、中国特許庁は、第50688号無効審判決定を下し、この決定において、請求項1における2箇所の「同一中心線」という用語の解釈に矛盾が存在し、当分野の常識及び明細書の記載を考慮しても「同一中心線」の保護範囲を明確に限定できず、請求項1の保護範囲は不明確であると認定して、0329実用新案のすべての請求項を無効と宣告した。

 

2021年8月26日に、奥某社は当該決定を不服とし、一審法院に提訴した。一審法院は、同一の請求項において同一の用語により限定された特徴が、通常同一の意味を持つべきであり、奥某社が主張する「縦方向の中心線」と「横方向の中心線」の区別は明細書に明示されておらず、位置決め孔の中央を通る水平線は多数存在して位置を確定できないと認定して、中国特許庁の無効決定を維持した。

 

2023年6月30日に、奥某社は該一審判決を不服とし、最高裁に上訴した。

 

2024年5月23日に、最高裁は、合議体によって公開審理を行った。

 

2024年12月24日に、最高裁は、一審判決及び中国特許庁の無効決定を取り消し、中国特許庁に対して安某社からの無効請求を改めて審査・決定するように命じる終審判決を下した。

 

3.争点及び最高裁の判断

 二審において争点となったのは、同一の請求項1における2箇所の「同一中心線」という用語や表現の解釈は明細書の技術案や文脈に基づいて異なる技術的意味に解釈できるかどうか、並びにそのように解釈した場合に請求項の保護範囲は明確であるかどうかということである。

 これに対し、最高裁は、下記のように判断している。

 まず、中国特許審査指南には、請求項の明確性要件についての判断及び用語解釈の基本原則は、以下の通り規定されている。

 当業者の視点から、発明の目的、明細書に開示された全内容、及び技術案全体を理解した上で、請求項の合理解釈を前提として行わなければならない。一般的に、同一の請求項において同じ表現や用語により限定された技術的特徴は、その意味も同じである。しかし、当業者が請求項及び明細書の内容、文脈を結合することにより、当該用語や表現が異なる場合において異なる意味を有することを合理的に確定でき、かつその異なる意味で保護範囲が明確である場合、当該用語や表現を異なる意味として解釈すべきである。この場合、機械的に「同一の用語を異なる意味に解釈することは保護範囲の不明確をもたらす」と認定すべきではない。

 次に、請求項1における2箇所の「同一中心線」という用語について、

 第1の「同一中心線」(前記支持板(1)には、ロック本体のロックピン取付孔と同一中心線に配置された位置決め孔(11)が設けられ)は、ロック本体のピン取付孔と位置決め孔(11)が縦方向の中心線において一致することを指す。これにより、上方からロックピン押下部(4)が作動した際にピンを適切に挿入や組立できるようになる。

 第2の「同一中心線」(前記ロックピン押出部(2)は、前記支持板(1)上に取り付けられ、かつ前記位置決め孔(11)と同一中心線に設けられ)は、ロックピン押出部(2)の横方向の作動中心線が位置決め孔(11)の中央を通過することを指す。当業者にとって該作動メカニズム(ロックピン駆動部が水平前後に移動してピンを位置決め孔の上方へ搬送し、ロックピン押下部が上下移動して組付ける構成)を読めば、これを鉛直方向の中心線との一致と解釈する場合に、発明の目的を達成できないことを明確に認識できる。

 従って、2箇所の「同一中心線」はそれぞれ「縦方向の中心線」と「横方向の中心線」を指して、明細書の技術案や文脈に基づいて異なる技術的意味に解釈することができると認定する。

 また、無効審判決定及び一審判決が示した「位置決め孔の中央を通る水平線は多数存在するため位置が確定できない」という認定について、支持板に中央を通る水平線が多数存在したとしても、ロックピン駆動部の横方向の中心線が位置決め孔の中央を通り、他の部品による阻害がなければ、ロックピンを位置決め孔上方へ届けるという目的、機能を達成できる。当業者にとって、1つの明確な技術案として理解可能であり、明細書の技術案や文脈に基づいて請求項の保護範囲が明確であると認定する。

 

4.今後の留意点

 本判決を踏まえますと、明確性要件違反の審査に関して以下の点に留意することが有効であると考えます。

1)クレームを作成する際に、異なる構成要素や異なる方向・意味を表す場合に、類似の概念であっても「第1の~」「第2の~」、又は「縦方向の中心線」「横方向の中心線」のように明確に用語を使い分けることは、将来の不要な明確性紛争を回避するための有効な方策になります。

2)相手から「同一用語や表現の矛盾」や「明確性要件違反」を理由に無効を主張された場合、単に文言の抽象的な定義を争うのではなく、当該特許の「発明の目的」、「発明の効果」、「作動メカニズム」及び「当業者から見た技術的合理性」を明細書の記載や図面と組み合わせて主張することが極めて有効です。

 

 本件の中国最高裁の判決(中国語のみ)は以下のサイトから入手可能です。

https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-4660.html

本欄の担当
弁理士法人ITOH
所長・弁理士 伊東 忠重
副所長・弁理士 吉田 千秋
担当:中国弁理士 塗 琪順