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英国知的財産庁(UKIPO)、Emotional Perception最高裁判決を受けた特許審査実務の新たな指針を公表
英国知的財産庁(UKIPO)は、2026年7月14日、英国最高裁判所による “Emotional Perception AI Limited v Comptroller General of Patents, Designs and Trade Marks [2026] UKSC 3” 判決(2026年2月11日)を受け、英国特許出願のサーチ及び審査に関する新たな実務的な指針を公表しました。
本指針は、英国特許出願、特にコンピュータ実装発明(CII)に関する出願について、英国特許法第1条に基づく特許適格性、新規性及び進歩性の判断方法を示すものです。UKIPOは、今後、従来の Aerotel 判決に基づくアプローチを使用せず、英国最高裁が示した「新たな3段階のアプローチ」を適用することを明らかにしました。
本指針は、「第1部:最高裁判決(法解釈の基準)」と「第2部:実務への適用(審査官の具体的ガイダンス)」の2部構成となっております。
第1部:最高裁判決(法解釈の基準)
第1部では、最高裁が示した特許法第1条(特許適格性)に関する新たな法解釈の根拠が整理されています。
1. Aerotelアプローチの廃止とDuns原則(A〜F)の採用
最高裁は、欧州特許庁(EPO)拡大審判部の G 1/19 判決を踏まえ、従来英国で採用されていた Aerotel Ltd v Telco Holdings Ltd に基づくアプローチを今後採用しないことを示しました。今後は、上記拡大審判部判決が採用し、EPOの審判実務において確立されている「Duns(ダンズ)原則(原則A〜F)」を英国でもそのまま採用し、法解釈をEPOの実務に一致させます。
2.新たな3段階の判断アプローチ
今後、英国では、以下の3段階で特許適格性及び特許性が判断されます。
1) 第1のハードル(特許適格性):
まず、クレームされた主題が英国特許法第1条第1項にいう「発明」に該当するかが判断されます。この判断には、Emotional Perception判決で示された、いわゆる 「Any Hardware」テスト が適用されます。
2) 中間ステップ(技術的性格への寄与):
次に、クレームに含まれる各特徴について、発明全体の「技術的性格(technical character)」に寄与するかが判断されます。この判断は、クレーム全体について「特徴ごと(feature-by-feature)」に行われます。
3) 第2のハードル(新規性及び進歩性):
最後に、新規性及び進歩性が判断されます。進歩性の判断において考慮されるのは、前記第2段階で発明の技術的性格に寄与すると判断された特徴のみです。
3.人工ニューラルネットワーク(ANN)の取扱い
Emotional Perception判決では、人工ニューラルネットワーク(ANN)の法的な位置付けについても判断が示されています。
英国最高裁は、ANN自体は物理的な機械ではなく、数値入力に対して、重み、バイアス、活性化関数等を含む一連の数学的処理を行い、数値結果を出力する抽象的なモデルであるとしました。
また、ANNが通常のデジタルコンピュータ、専用ハードウェア、FPGA等のいずれに実装されるかにかかわらず、ANNはデータを所定の方法で処理するための一連の命令であり、英国特許法上の「コンピュータプログラム」に該当すると判断しました。
さらに、ANNの重みやバイアス等が機械学習によって生成されたものであるか、人間のプログラマーによって作成されたものであるかによって、法的な取扱いに違いはないとされています。機械学習によって生成されたプログラムも、コンピュータプログラムに該当します。
第2部:実務への適用(審査官の具体的ガイダンス)
第2部では、UKIPOの審査官が実際の出願のサーチや審査において、上記の3段階アプローチをどのように適用・運用するかについて指針を示しています
1.「Any Hardware」テストの柔軟な運用(第1のハードル)
クレーム内に、コンピュータ、コンピュータ可読記憶媒体、その他何らかの技術的手段(ハードウェア要素)が1つでも含まれていれば、それだけで第1のハードルをクリアし、除外規定(特許法第1条第2項)による拒絶は回避されます。審査官は、いかなる技術的手段も含まないクレームに対してのみ、特許適格性欠如の拒絶理由を通知します。
2. 特徴ごと(Feature-by-Feature)の技術的性格の分析(中間ステップ
審査官は、クレームされた発明を構成要素(特徴)に細分化し、それぞれの特徴が「技術的課題の技術的解決に寄与するか」を個別分析(feature-by-feature analysis)します。
この際、ある特徴を単独で見た場合に「技術的」又は「非技術的」と分類されるかではなく、その特徴が発明全体の技術的性格にどのように寄与するかが判断基準となります。
なお、この分析にあたって審査官はEPO審査ガイドライン(Part G)の規定を参考にできるとされています。
3. 進歩性における非技術的特徴の排除(第2のハードル)
進歩性の評価において、中間ステップで「技術的性格に寄与しない」と判断された特徴は考慮の対象外となり、進歩性を基礎付ける要素とはなりません。
先行技術との差異が発明の技術的性格に寄与しない場合、審査官は進歩性欠如の拒絶理由を通知します。
一方、先行技術との差異が発明の技術的性格に寄与する場合には、その差異が当業者にとって自明であるかが判断されます。
なお、新規性及び進歩性の具体的な判断手法自体については従来の英国実務が維持されます。
4.サーチ実務への適用
UKIPOは、サーチ段階においても、審査官がクレームされた主題のうち、発明の技術的性格に寄与する特徴を特定し、それらの特徴をカバーするサーチを行うことを求めています。
したがって、今回の新たなアプローチは、実体審査における特許適格性及び進歩性の判断だけでなく、先行技術調査の範囲にも適用されます。
5.係属中の既存出願の取扱い
既に旧基準(Aerotelアプローチ)に基づく特許適格性の拒絶理由通知を受けている出願であっても、出願人から応答(意見書等)が提出された場合、審査官は今回の新基準(Emotional Perception判決)に基づいて特許性をゼロから再検討します
UKIPOは、今回の実務指針の内容を反映するため、英国特許実務マニュアル(Manual of Patent Practice)を今後改訂する予定であるとしています。
<参照リンク>
本件についてのUKIPOの公表は、以下のリンクでご覧頂くことができます。
Search and Examination of UK Patent Applications under the Patents Act 1977 (as amended) – GOV.UK
- 本欄の担当
- 弁理士法人ITОH
所長 弁理士 伊東 忠重
副所長 弁理士 吉田 千秋
担当:所長代理 弁理士 菊池 陽