最新IP情報 IP NEWS

最新IP情報

引例としての仮出願日の有効性に関する連邦巡回控訴裁判所判決 Dental Monitoring SAS v. Align Technology, Inc. (Federal Circuit, August 10, 2026)

特許または特許出願が、先に出願された仮出願 (Provisional Application) への優先権を主張する場合、米国特許法第102(d)(2)[1] に基づき、当該特許または特許出願は、仮出願の出願日に基づいて先行技術となり得ます。本判決において、米国連邦巡回区控訴裁判所 (以下、CAFC) は、引用された出願が仮出願の出願日に基づいて先行技術として認められる要件として、対象特許に対して主張される特定の事項が仮出願に記載されているだけでなく、当該引用された出願の公開クレームの少なくとも1つが、仮出願による第112(a)[2] に基づくサポート要件を満たしている必要があると判示しました。詳細は以下のとおりです。

 

<背景>

 Dental Monitoringは、患者の歯列弓画像の取得及び解析方法に関する米国特許第10,755,409 (以下 ‘409特許) を保有している。Align Technologyは当事者系レビュー (Inter Partes Review) を申し立て、「学習ベースによって訓練された深層学習装置による画像の解析」を要件とするクレームの特許性が争点とされた。米国特許商標庁の特許審判部 (以下、PTAB) は、US 2021/0068923 (Carrier文献) 及びその他2件の先行技術文献に基づき、本特許は無効であると判断した。‘409特許の有効出願日は、Carrier文献の仮出願日と本出願日との間に位置していた。そのため、Carrier文献が先行技術に該当するか否かは、同文献がその仮出願日の利益を享受する権利を有していたかどうかにかかっていた。

 

<CAFC判決>

 CAFCにおける主要な争点は、Carrier文献が仮出願日の利益を得るために、Carrier文献の公開クレームの1つについて、仮出願が第112(a)に規定される記述要件(Written-description support)を満たす必要があったか否かという点であった。CAFCは、第102(d)(2)の規定上、特許または特許出願が有効出願日に遡って先行技術となるのは、第119条に基づき優先権を主張する権利を有している場合に限られると指摘した。また、CAFCは、第119(e)(1)により、後の出願で開示された発明が第112(a)に規定される態様で仮出願に開示されている場合に限り、仮出願からの優先権を主張する権利が認められる旨を指摘した。以上より、CAFCは、第102(d)が第112条の記述要件を包含していると結論付けた。そして、Carrier文献が仮出願日に遡って先行技術となるためには、、Carrier文献の公開クレームの少なくとも1つについて、その仮出願が第112(a)のサポートを提供していなければならないと判示した。

 CAFCは、当該仮出願が十分な記述要件を満たしていたかについての判断を行わせるため、本件をPTABへ差し戻した。

 

実務上のアドバイス

 本判決は、米国特許商標庁 (USPTO) の判断基準を米国改正特許法 (AIA) 施行前の基準へと戻すものであり、特許権者及び出願人に対し、無効の主張に用いられる先行技術に対抗するための新たな主張根拠を与えるものです。仮出願を行うにあたっては、体系化されていない単なるデータの集積として提出するのではなく、可能な限り本出願と同等の厳密さをもって作成することが望まれます。その結果、将来のクレームをサポートする十分な記述要件を満たし、先行技術として確実に機能させることが可能となります。

 このDental Monitoring判決は仮出願に限定されたものですが、第119(a)に基づく外国出願への優先権を主張する米国特許または特許出願についても、今後の判決においてこのルールを拡張して適用されることが十分に予想されます。

 

参照リンク

 本判例は、以下のリンクでご覧頂くことができます。

https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/25-1752.OPINION.8-10-2026_2736022.pdf

[1] 米国特許法第102条(d)(2) は以下のように規定している。「ある特許又は特許出願がクレームされた発明に対して(a)(2)に基づく先行技術であるか否かを決定する目的では,当該の特許又は出願は,その特許又は出願に記述されている主題に関して,次の日に有効に出願されていたものとみなす。…その特許又は特許出願が,先にされた1又は複数の特許出願に基づいて,第119条,第365条(a)若しくは第365条(b)に基づく優先権又は第120条,第121条若しくは第365条(c)に基づく利益を主張することができる場合は,その主題を記述している出願の中の最先のものの出願日」

[2] 米国特許法第112条(a) は以下のように規定している。「明細書は,その発明の属する技術分野又はその発明と極めて近い関係にある技術分野において知識を有する者がその発明を製造し,使用することができるような完全,明瞭,簡潔かつ正確な用語によって,発明並びにその発明を製造,使用する手法及び方法の説明を含まなければならず,また,発明者又は共同発明者が考える発明実施のベストモードを記載していなければならない。」

本欄の担当
弁理士法人ITOH
所長 弁理士 伊東 忠重
副所長 弁理士 吉田 千秋
担当: 弊所米国オフィスIPUSA PLLC
米国特許弁護士 Herman Paris
米国特許弁護士 加藤奈津子