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中国商標法改正 2027年1月1日より施行(詳細版)
2026年6月26日、中国の全国人民代表大会常務委員会において改正商標法が可決され、2027年1月1日から施行されることとなりました。
弊所では、2026年7月15日付「中国商標法改正―2027年1月1日より施行」において、悪意のある出願・不正出願、馳名商標、動き商標、異議申立期間、損害賠償制度等の主な改正点について速報としてご案内いたしました。
本稿では、その後公表された国家知識産権局(CNIPA)の資料等も踏まえ、今回の改正のうち、日本企業様の商標出願、権利維持及び使用管理に実務上影響の大きいポイントを取り上げるとともに、2027年1月1日の施行に向けて検討しておきたい対応を整理してご紹介いたします。
1、今回の法改正の位置付け
今回の改正は、1982年の商標法制定以来行われてきた部分的な「修正」とは異なり、法律全体を見直す全面的な「修訂」と位置付けられています。
条文構成も9章87条へと拡充され、①商標の使用及び登録対象、②商標権の保護範囲、③悪意のある商標出願への規制、④商標権の権利確定手続、⑤商標の使用管理、⑥商標権侵害に対する損害賠償及び悪意のある訴訟への対応、⑦海外進出に関連する馳名商標の認定など、商標の登録から使用、権利維持・権利行使に至るまで、制度全般にわたる見直しが行われています。
2、注目したいポイント
(1) 概要
今回の改正のうち、特に注目すべきポイントと、今後検討しておきたい対応について、以下のとおりご紹介します。

今回の改正は、単に「出願件数を減らす」ことを求めるものではありません。中国が引き続き先願主義を採用していることに変わりはなく、必要な防衛的出願を確保しつつ、出願の必要性・合理性と実際の使用状況を説明できる商標ポートフォリオへ移行していくことが重要です。
(2) 防衛商標・周辺区分への出願
新19条は、使用を目的とせず、かつ、通常の生産・経営上の必要性を明らかに超える商標登録出願を認めない旨を定めています。従来の「使用を目的としない悪意」という主観的要素に加え、通常の事業上の必要性という客観的な観点が、より明確に示された点が注目されます。
もっとも、合理的な理由に基づく防衛的な出願まで一律に排除されるものではないと考えられます。主力商品・役務に近接する分野、具体的な事業展開を予定している分野、模倣・冒認のリスクが高い分野などについては、引き続き、必要性を検討した上で戦略的に出願することが重要です。
今後、新規出願を検討する際には、①現在の事業内容、②今後の事業計画、③関連する区分を確保する理由、④模倣・冒認対策上の必要性について、簡潔に記録しておくことをお勧めいたします。また、必要に応じて、契約書、事業計画書、商品企画書等の出願の必要性・合理性を裏付ける資料を保存しておくことも有効と考えられます。
(3) 登録後の「使用管理」がこれまで以上に重要に
今回の改正では、商標権の取得だけでなく、登録後における商標の適切な使用・管理も、これまで以上に重視されています。
●CNIPAによる職権取消し(新57条)
登録商標が普通名称化した場合、又は正当な理由なく継続して3年間使用されていない場合には、第三者からの取消請求に加え、CNIPAが職権により登録商標を取り消すことが可能となります。職権取消しの開始要件や手続、権利者に認められる救済手段等の具体的な運用については、今後制定・公表される関連規則等を確認する必要があります。
●誤認を招く使用への処罰(新56条)
登録商標を公衆に誤認を生じさせる態様で使用した場合には、是正命令や罰金の対象となり、是正されない場合には商標登録が取り消される可能性があります。したがって、商標登録を受けている場合であっても、実際の使用態様が当然に許容されるとは限らない点に注意が必要です。
●登録事項の無断変更への罰金(新57条1項)
登録商標、商標登録人の名義・住所その他の登録事項を無断で変更し、是正命令に従わない場合には、5万元(約118万円)以下の罰金が科される制度が新設されました。企業名や住所に変更が生じた場合には速やかに変更手続を行うとともに、登録商標と実際の使用態様に相違がないか、定期的に確認することが重要です。
(4) 使用証拠は「取消対策」だけでなく「損害賠償」のためにも重要
新78条では、商標権者が侵害行為発生前3年間に当該商標を実際に使用していたことを立証できず、かつ、侵害行為によるその他の損失も立証できない場合、被疑侵害者は、損害賠償責任を負わない旨が規定されています。このため、権利行使の直前になって使用証拠を収集・整理するのではなく、平時から継続的に使用証拠を蓄積・保存しておくことが重要です。

主要商標については、少なくとも年1回、使用証拠を整理・保存する運用をお勧めいたします。現地法人、代理店、ライセンシー等による使用の場合には、商標権者との関係や使用許諾の事実を確認できる資料も併せて保管しておくと安心です。
なお、中国における使用証拠の考え方や具体例については、2025年11月7日付「中国における『商標の使用』」も併せてご参照ください。
https://www.itohpat.co.jp/ip/2772/
(5) オンライン上の使用が法律上明文化
新2条は、インターネット等の情報ネットワークを通じた使用を「商標の使用」に含むことを初めて明記しました。ECサイト、ライブ配信、ショート動画等を含むオンライン上での商標使用について、従来の実務上の取扱いを法律上明確化したものといえます。
一方、オンライン上の使用が「商標の使用」に該当することと、それが「中国における使用」と認められることは、必ずしも同じではありません。また、オンライン上の情報は更新・削除・改変されやすいため、使用証拠として保存する際にも注意が必要です。
例えば、日本のWebサイトが中国から閲覧できるという事実のみをもって、中国における商標使用として十分と認められるかは、個別の事情により判断されます。そのため、中国市場向けの販売、広告、取引等との関連性を示すことのできる証拠を継続的に確保・保存しておくことが重要です。
(6) 異議申立期間は「2か月」へ ― 監視体制の見直しを
新36条により、初歩査定公告後の異議申立期間は、従来の3か月から2か月へ短縮されます。これにより、第三者による先取り出願等を発見した場合、社内確認、異議申立ての要否判断、証拠収集、現地代理人への指示までを、従来よりも短期間で行う必要があります。
重要ブランドについては、商標ウォッチングの報告頻度や、異議申立てに関する社内承認フローを改めて確認しておくことをお勧めいたします。特に、異議申立ての要否について海外本社や事業部等との協議が必要となる場合には、社内での判断期限や意思決定プロセスをあらかじめ確認しておくと安心です。
(7) 「動き商標」と馳名商標 ― ブランド保護の選択肢が拡大
●動き商標(新14条)
今回の改正により、「動き商標」が商標登録の対象として明文化されました。アプリの起動アニメーション、動画ロゴ、デジタル機器の起動時に表示される動き等について、その動き自体が商品・役務の出所識別機能を有する場合には、新たなブランド保護の手段となり得ます。
一方、動き商標に求められる識別力や機能性の判断基準、出願時に必要となる商標の表現方法・提出資料等については、今後制定される関連規則や審査基準等を確認する必要があります。
●馳名商標(新21条)
今回の改正では、「中国で登録されていること」という要件が削除され、未登録の馳名商標についても、一定の要件を満たす場合には、非類似の商品・役務にまで保護が及び得ることとなりました。
もっとも、実際に保護を受けるためには、当該商標の馳名性に加え、公衆に誤認を生じさせるおそれや、商標権者の利益を害するおそれ等を立証する必要があり、その立証のハードルは引き続き高いものと考えられます。
3、施行前に確認したい「5つのアクション」
施行に向けてご検討いただきたい事項を「5つのアクション」として、下表のとおり整理しました。

今回の改正により、中国の商標実務は、単に「登録を取得すること」から、「事業上の合理性を踏まえて必要な権利を取得し、登録後も適切に使用・管理すること」へと、さらに軸足を移していくものと考えられます。
もっとも、中国市場においては、第三者による先取り出願への備えが引き続き不可欠です。したがって、必要以上に権利範囲を縮小するのではなく、①事業との合理的な関連性を踏まえた出願、②重要ブランドに対する十分な防衛的出願、③継続的な使用及び使用証拠の蓄積・管理、④第三者による商標出願の継続的なウォッチングと迅速な対応を組み合わせ、バランスの取れた商標ポートフォリオを構築・維持していくことが重要です。
なお、今回新設された職権による登録取消制度や動き商標については、具体的な開始要件、手続、出願方法等、今後制定される関連規則や審査基準等によって明らかになる事項が残されています。弊所においても、今後の関連規則の制定や実務運用の動向を注視し、必要に応じて追加情報をご案内いたします。
参考:
中国国家知識産権局(CNIPA)「中華人民共和国商標法(2026年修訂)」
https://www.cnipa.gov.cn/art/2026/6/26/art_95_206942.html
中国国家知識産権局(CNIPA)「《中華人民共和国商標法》修訂主要内容」
https://www.cnipa.gov.cn/art/2026/7/10/art_3686_207146.html
- 本欄の担当
- 弁理士法人ITOH
所長 弁理士 伊東 忠重
商標部 弁理士 東 泰成
担当:弁理士 野崎 圭子