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新たに発見された課題の進歩性判断への影響に関する中国最高裁判決 (2024)最高法知行終688号
1.概要
本判決において、中国最高人民法院(以下「中国最高裁」と称する)は、「本実用新案の課題を解決するための手段は当該分野の周知技術であるが、本実用新案が該課題を発見し、請求項1に記載された解決手段を提案し、且つ当該課題をある程度解決していることは、本実用新案の請求項1に進歩性を有するのに十分な影響を与える」と判示しました(判決日2024年12月25日、判決公開日2026年5月6日)。
2.本件の経緯
(1)本件実用新案
本件は、中国実用新案出願番号を201721143411.1、名称を「導電ループメカニズムに基づく管路断線検知システム」とする実用新案権である。
該実用新案の請求項1は、次の通りである。(符号、下線は作成者が付与した)
【請求項1】
導電ループメカニズムに基づく管路断線検知システムであって、クランク室換気管路系が断線したか否かを検知するためのものであり、前記クランク室換気管路系は主管路(1)を含み、前記主管路(1)には、エンジンクランク室又は吸気系に接続された雄型コンタクト(3、8)が接続され、前記主管路には接続端子(6、9)が配置され、
前記管路断線検知システムは、主管路(1)及び少なくとも1つの接続端子(6、9)に固定された断線検知回路(10)を含み、前記断線検知回路(10)には、接続端子の内部、又は雄型コンタクトと接続端子との接続部に導電スイッチ(2)が設けられ、接続端子(6)に雄型コンタクト(3)を挿入し、或いは雄型コンタクト(8)における雄型コンタクトロックリング(5)を接続端子(9)に挿入することによって、前記導電スイッチ(2)をオンにし、
前記断線検知回路(10)の両端は、ECUユニットの電源端子及び接地端にそれぞれ接続され、前記断線検知回路(10)には、ECUユニットの電源端子に接続された抵抗ユニット(R_pcv、R_pcv’)が設けられ、該抵抗ユニット(R_pcv、R_pcv’)は、断線検知回路(10)に電源短絡が発生すること及び断線検知回路に接地短絡が発生することを診断することを特徴とする導電ループメカニズムに基づく管路断線検知システム。

本願明細書の図1(実施例1の「接地短絡」の態様)

本願明細書の図2(実施例1の「接地短絡」の他の態様)
(2)無効審決、第一審判決の主旨
2022年4月1日に、無効審判請求人は、請求項1等に係る本件実用新案権が証拠1~4により進歩性を有しないことを無効理由として、無効審判を請求した。
証拠1:US2003/0178015A1
証拠2:US2006/0017445A1
証拠3:CN103529346A
証拠4:CN101833052A
2022年9月7日に、中国特許庁は、
「請求項1に係る本件実用新案権と証拠1との相違点である「前記断線検知回路(10)には、ECUユニットの電源端子に接続された抵抗ユニット(R_pcv、R_pcv’)が設けられ、該抵抗ユニット(R_pcv、R_pcv’)は、断線検知回路(10)に電源短絡が発生すること及び断線検知回路に接地短絡が発生することを診断する」及び該相違点に対応する本件実用新案権が解決しようとする課題である「クランク室換気管路系の断線検知回路による断線検知の精度を向上させる」が証拠2~4等により開示や示唆されていない」と判断し、
第58320号無効審判請求審決を下し、進歩性があるとして本実用新案権の有効性を維持した。
2023年1月5日に、無効請求人は、これを不服として被訴審決を取り消し、改めて審決を下すべき旨を国家知識産権局に命じるよう求めて第一審裁判所に対し訴えを提起した。
第一審裁判所は、
「本件における争点の核心は、課題の発見が進歩性を判断するのに十分な影響を与えるか否かである。無効審決における「本実用新案の先行技術への貢献は、クランク室換気管路の断線検知回路に短絡が発生したことによる不正確な検知結果につながるという課題を発見したことにある」という認定は、妥当ではない」と判断した上で、
当業者が証拠1~4に基づいて本実用新案の請求項1を容易に想到できると判断し、国家知識産権局の無効審判請求審決を取り消す旨の判決を下した。
実用新案権者が上訴したところ、中国最高裁は、「第一審裁判所の行政判決を取り消し、無効請求人の訴訟請求を棄却した」旨の行政判決を下した。
3.中国最高裁の判断
「本実用新案の請求項1が進歩性を有するか否か」、即ち、無効審決における「本実用新案の先行技術への貢献は、クランク室換気管路の断線検知回路に短絡が発生したことによる不正確な検知結果につながるという課題を発見したことにある」との審判官の認定が妥当であるか否かとする争点について、中国最高裁の裁判では、次のように判示されている。
第一に、本実用新案の請求項1は、最も近い先行技術である証拠1と全体的な技術的思想について共通であり、何れもクランク室換気管路に「断線検知回路」を設置し、管路が断線した場合、回路も断線し、警報信号を発して管路の断線を検知するというものである。本実用新案の請求項1と証拠1との相違点は、請求項1では、検知回路自体における短絡の検知が追加されている点である。該相違点が当該分野における周知技術であることは、両方の当事者が認めている。本件における主な争点は、解決しようとする課題の特定及び課題の進歩性判断への影響である。
第二に、訴訟で提出された証拠は、出願日より前に当業者が検知回路の断線が必ずしもクランク室換気管路系の断線を意味するものではないことを認識していたことを証明していない。一方、本実用新案は、該相違点である特徴により、断線検知回路の断線を判別した後、該断線が接地短絡によるものか、それともクランク室換気管路系の断線によるものかをさらに判断することができるため、車両修理の緊急程度を判断することができる。即ち、本願では、検知回路の断線が必ずしもクランク室換気管路系の断線を意味するものではなく、検知回路の接地短絡により該検知回路が断線してしまう可能性があるという課題が発見された。当該課題を鑑み、「前記断線検知回路(10)には、ECUユニットの電源端子に接続された抵抗ユニット(R_pcv、R_pcv’)が設けられ、該抵抗ユニット(R_pcv、R_pcv’)は、断線検知回路(10)に電源短絡が発生すること及び断線検知回路に接地短絡が発生することを診断する」という解決手段が提案された。
最後に、訴訟で提出された証拠は、出願日より前に、当業者が本実用新案の課題を認識し、且つ本実用新案の解決手段と同一又は実質的に同一の解決手段を提案しており、或いは提案できたことを証明していないため、当該課題は当業者にとって自明ではない。本実用新案の課題を解決するための手段は当該分野の周知技術であるが、本実用新案が該課題を発見し、請求項1に記載された解決手段を提案し、且つ当該課題をある程度解決していることは、本実用新案の請求項1に進歩性を有するのに十分な影響を与える。
4.本件の留意点
中国では、「本発明と引例との相違点が単なる周知技術である」と審査官により安易に認定される場合が多いですが、本発明の主な技術的貢献が、当業者にとって発見が困難な課題を新たに発見し、該課題の原因を特定した上で解決手段を提案することにある場合、当該新たに発見された課題、該課題の原因及びその解決手段を丁寧に主張することは、進歩性を主張するための有効策の1つであると考えられます。
本件記載の中国最高裁の判決(中国語)は以下のサイトから入手可能です。
https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-5698.html
- 本欄の担当
- 弁理士法人ITOH
所長・弁理士 伊東 忠重
副所長・弁理士 吉田 千秋
担当:中国弁理士 張 小珣